第6話 新人殺しのミッシェル

 一階へと戻ると、周りの冒険者が好奇の眼をして見ていた。

 今の今まで雑草王と馬鹿にされていた中年男性が子供を連れて来て結婚した。となると誰でもそうなる。



「少し本気で依頼を受けるか……」



 マルクが思った事を口にすると、ラーミが何度も頷く。



「向上心のたまものですね。ですが、私としては別にランクの事でしたら気にしなくていいですよ? 貯えもありますし」

「そうもいかないだろ」



 マルク自身は亭主王様という考えもなく女性であろうが働くのは気にしない。それでも結婚をしたとなれば出来るだけ男性が稼ぐのがすじと思っている部分もある。


 ラーミの貯えは一生つつましく生活するのであれば働かなくても暮らしていけるぐらいはあるが、その金額はマルクは知らないし、知ったとしても働くだろう。



「では、是非に私のランクを追い越してください。ついでなので私も探しますし、出来れば一緒に出来るのがいいですねぇ」

「わかった」

「でわっ」


 (とはいうもの俺がラーミのランクを超えるのは不可能だ。せめて少しでも近づく努力はしないとな)



 依頼掲示板を眺める二人。

 マルクが眺めるのは冒険者ランクFからEの依頼。

 内容は空き瓶回収、雑草採り、野鳥の保護、食用野鳥の確保など、食事の支度など時間制限がなく何時でも募集している任務であり資金も安い。

 DやCになると、近隣の森にでるモンスターの退治などがある。


 普段なら悩む必要もない事であるが、Sランク冒険者と一緒に出来る依頼がどんな物か見当もつかない。


 (一緒に空き瓶回収なぞしてもいいのだろうか?)

 

 ラーミが一枚の依頼書を持って走ってきた。



「決まりましたっ! カウンターへ行きましょうっ」

「お、おいっ」


 マルクを引っ張り依頼カウンターへと向かう。

 そこでマルクは気づいた、先ほどよりギルド内にいる人間が多いのだ。


 ぐるっと首を回すと、一斉に視線をそらす冒険者とギルド員達。

 簡単に言うと皆、好奇心の塊なのだ。


 冒険者というのは暇人の集まりでもある、実際は違うが好きな時に仕事をし好きな時に寝て起きる。

 そんな暇人達がこんな面白そうな事を見逃す事はない。



 万年Eランクの薬草王こと、マルクが若い女の子と結婚した。しかも、今の今まで他の仕事をした事がないのに依頼掲示板をみているのだ。

 

 ラーミは小走りに依頼カウンターへとマルクを連れて行く。

 依頼カウンターには買取カウンターとは違いランランと書かれたギルド員が受付をしていた。


 歳は二十代で綺麗な女性である、マルクの記憶が確かなら夜勤組で昼間には見たこと無いはずだが、今日はなぜかいる。



「うわ、本当に子供だ……じゃなくて結婚おめでとうございまーす。依頼ですね、では依頼書を拝見します。採取系以外の依頼は初めてですよね!? ご説明します!」



 鼻息を荒くしたランランをマルクは手で制する。



「規約は知っているし、依頼を受けた事もある」

「もちろん私も知っています」



 ラーミは依頼書をランランへと手渡した。

 その内容を目で追っていたランランは、紙を下げると何度も紙とマルクを交互に見る。



「すみません。依頼書のランクがAランク以上のパーティー任務になっているんですけど……」

「なっ!?」



 紙をカウンターへ出すと、マルクもその内容を初めて読む。

 レッドドラゴンの亜種型の素材集めになっており鱗、爪、目玉どれかを採取。


 金額はどれか一つでも破格の金貨50枚である。

 討伐できれば大金貨100枚などである、今回はその素材でいいので美味しい依頼であるが、簡単に終わらないからこの金額というのを冒険者達は知っている。



「すまない、間違え――」

「間違えてませんよ? 緊急依頼でもないですし期限もない、ランクは私が対応できますし、パーティーでの討伐も可能です! 尚且つ失敗時の違約金や依頼を受けた時の契約金の支払いがないのも魅力です」

「…………薬く……マルクさんは『E』ランクですよね。ええっとお嬢さんでいいのかしら? ではギルドカードをお願いします」

「ここはお姉さん。もしくは奥様と呼んで頂きたい所ですけどしょうがないですね。どうぞ」



 ラーミは偽造された冒険者カードを見せる。

 ランランはそのランクの部分をみてさらに下にある署名を見て指でなぞった。

 冒険者カードがほんの少しであるが光ったのをマルクは見た。


 偽造カードではないか。など一定の判別方法を試しているのだ、マルクはヤバいな。と思いつつ黙っている事にする。

 ランランがラーミとカードを交互に見て叫びだす。



「ミ、ミーア先輩! ヘルプ!」



 ランランに呼ばれ、買い取りカウンターにいるミーアが直ぐに寄ってくる。周りの冒険者もやり取りを聞いていて誰一人無駄口を叩かない。



「ええっと見せてみて?」



 ミーアがランランからラーミのカードを受け取ると同じように指でなぞった。再び冒険者カードが少し光とミーアも眉をひそめて二階へと上がる階段を見た後にマルクとラーミを見る。



。ラーミさんは『B』ランクプラスに値しますので問題はないようです」

「せ、先輩!? え、いやむぐ」



 ランランがミーアの手によって口をふさがれる。



 ミーアはランランへと小声で「上にいたギルマスが何も言わなかったんだし長生きしたかったらここは私のいう事を聞きなさい」と、いうのが聞こえてくる。

 ランランも必死に頷くとラーミへと冒険者カードを返却した。


 周りの冒険者のささやきが少しだけ大きくなってきた。


 Bランク……? 嘘だろ。

 隣の薬草王がEランクで可愛い子供がB?

 偽造してるだろ。まで聞こえてくる。


 実際偽造してるのでマルクは怒るに怒れない。

 逆に怒っているのはラーミである、先ほどから聞こえるマルクへの暴言がチクチクチクと気に障るのだ。



「ありがとうございます、優しいお姉さま方。これで無事依頼を出来そうです、いいんですかね? こんな美味しい依頼を私なんかが取っちゃって。『B』以上推奨ですし5人で向かっても一人十枚は貰える依頼。口だけではなく動けばいいのに」

「お、おい。ラーミ」



 こうなるといくら冒険者ギルド内での喧嘩は禁止。となっていても黙っていられない人間は前に出る。



「おい、がきんちょ。口だけってのはどういう意味だ?」



 声の主は筋肉を見せつけたハゲ上がった頭の男であった。

 誰れかか「ミッシェルだ」と、いうが名前負けである。



「まずは結婚おめでとうよ」



 喧嘩腰であるがまずは祝ってくれるのでマルクも、ありがとうございます。としか言えない。



「でだ。俺はA級で殺しのミッシェルと言えば俺の事だ」



 いやな二つ名だ。



「随分と物騒な二つ名ですね、もしかして『殺し』と書いて『新人潰し』と呼びます?」



 ラーミは悪びれもなく煽りに入った。



「あのな? 他じゃしらねえがココにはココのルールがあるんだよ。そこのならそんな事も知ってるだろ? 結婚したんだ教えるのが普通だろ。それとも子供に甘える趣味でもあるのか?」

「すまない。俺は雑草ではなく薬草を採取しては売りに来るだけだからな、ここでのルールというのに疎い」



 マルク自身も煽られている。とはわかってはいるがラーミのいう事もわかる。本当に暗黙のルールみたいのは当然あるのも感じるが、まずそれがわからないと話にならない。



「とにかく。たまにいるんだ実力不足の冒険者ってのが、ドラゴン退治がどれほど大変かわかっているのか? 俺達はいかないのではなく、あえていかないんだ、そこの雑草王ならわかるだろ?」



 似てるようで意味は少し違ってくる。



「確かに、亜種といえドラゴン退治は危険な物だ。怪我をするリスクが高いし移動費もかかる。であれあ近隣で薬草を摘んでいた方が安全だな」

「だろ?」



 良いように丸め込められたマルクを見てラーミはため息を吐く。



「マルクさん……」

「いや、俺はその一理あるな。と」

「でだ。このA級冒険者のミッシェルがお前の力を確認してやる」



 ギルド内は喧嘩は禁止である。

 は……別に試合をする分には認めらているのだ。



「なるほど……わかりました。3Kに近いミッシェルさん。訓練場で試合を――」

「ラーミ!」



 ラーミの実力を見たわけじゃ無いがSランクである。

 一方ミッシェルはAランク。この壁はとても厚い。マルクの人生の中でAランクの冒険者は見た事あってもSランク冒険者を見たのはラーミが初である。



「あのマルクさん、ですからまだ私が喋って……」

「すまない」

「いいえ。仕切りなおします。

 『試合をしましょう。勝った方がいう事を聞く』って事で」

「ああ。いいだろう」



 ミッシェルが返事をすると、ラーミは続きを話し出す。



「と、でも言うと思ったのですか?」

「へ?」

「断ります。ランクBの私が貴方に勝つ勝っても負けても私にメリットが何もありませんし」



 ラーミは一呼吸置くと「いいですか?」と、追撃する。



「私が負ければ依頼は受けれないしハゲちゃぴんはドヤ顔するでしょうし。

 逆に私が勝っても女子供だから手加減したって周りにでも言うつもりなんですよね。

 それでしたら別に試合なんてしないで依頼を受けたほうが私にはメリットがありますので。この依頼書には前提条件として『A級冒険者と力試しをしてから行く事』なんて文字一つもかいてません」

「おまっ……」



 喧嘩を売りに言ったのに口喧嘩すら負けて顔を赤くする。



「では行きましょうマルクさんっ」

「お、おい」



 マルクの服を引っ張り外へでた。

 あっけに取られるギルド内であった。

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