第5話 ハーフエルフのギルドマスター
マルク達は再び、冒険者ギルドへと足を運んだ。
雑談所、依頼掲示板、総合受付から買取受付など、多種にわたる業務をしている分、昼過ぎでも人はそれなりに多い。
いつもは薬草王や雑草王と言われているマルクが、かわいらしい少女を連れているのでギルド内が静かにざわつきはじめた。
一方その原因といわれるラーミは平気な顔でマルクの横を歩いていく。
誰かか『迷子の子だろう』と、言うとそれが広まりマルクから視線が外れていった。
マルクは顔なじみの買取カウンターへと足を運ぶ。
今日も眼鏡をかけた女性職員ミーアである。
「マルクさん、おはようございます。買取でしたら今週はもう買い取れませんけど……昨日のさらに半分ほどになりますので来週売った方がいいと思います、そこまで困っているのでしたら他の依頼も……」
当然の話である。
昨日でさえ半額以下なのに今日も売りに来るとなるとギルドも困る。逆にマルクの事を心配してくれての発言で、嫌いな冒険者であれば黙って昨日の半額以下で買い取る。
「今日は違う用件ができた、ギルドマスターは居るだろうか?」
「…………申し訳ありません。直にお会いする事は、その許可や紹介状などがないと」
これも当然だ。
誰でも彼でもギルドマスターに会えるなら大変でギルドマスターの体が足りない。
「それと、こちらの女の子は、昨日来てましたね」
「はい。おかげ様で探していた人に会えました」
「人探しの依頼でしたので、お金を出してもらえれば、それなりに探します」
それなりにというのは、ギルドには個人情報を守らなくてはならない義務もあるからだ。
人を探したいといって誰でも彼でも冒険者の家など秘密を教えるような事はしない。
闇討ちし放題になる。
ラーミがマルクを探せたのは、ランクと他の冒険者ギルドの紹介状などもあったからだ。
高ランクが低ランクの家を教えた所で問題は余り起きないのもある。
「あら、特別発行書。この封は王家の印!? が入ってますね。なるほど各委任状などの取替えですよねええっと……確かにギルドマスタークラスじゃないと……中を確認してもいいですか?」
「そのすまない。中を見るのは構わないがあまり大きな声では……今日は手続きに来た」
いつにもなく緊張してくる。
各状の取り換え期間と結婚の正式な手続き、この二つを同時に行いに来たのだ。
一般人との結婚であれば一般職員でもいいらしいが貴族が絡むとそうはいかない。様々な理由で上位と呼ばれる人間が行う事になっている。
「わかっています。冒険者のプライバシーは守るつもりです!」
少し不機嫌になった受付のミーアはその内容を目で追っていく。
ラーミ・ランフ・ヴァミューは、母サナ・ランフ・ヴァミューの遺言により、ツードリーの街に居た冒険者、マルクの伴侶もしくは奴隷となる事を誓います。
奴隷の場合は右に、結婚の場合は左にサイン。
王都ギルドマスターラック、王家宰相ナルラモーネ発行
その左側にラーミ・ランフ・ヴァミューとマルクのサインそして葡萄酒や白い小麦粉などで何度も押した母音が汚く押してある。
受付のミーアは書かれている文を目線で確認したのち、立ち上がる。
満面の笑みで、「結婚おめでとうございます!」と、拍手をする。
これは別に嫌味でもない。
心ではどう思っているかは置いておいて、マニュアルみたいなものである。
めでたい事は是非祝おうという精神だ。
数秒前のプライバシーはどこ行ったと思わせるが、仕方がない事なのである。直ぐに後ろにいる冒険者達がざわつく。
雑草王が結婚っ! 相手は、おい犯罪じゃないかっ!
ばーか、連れ子だろ。
いや、他に女性が見当たらない所をみると、隣の子じゃないか?
なるほどな、変態主義者で今まで女性の話聞かなかったわけだ。
薬草じゃなくて、違法な薬を使ったんじゃないか?
はー、冒険者ランクCなのに俺に彼女できないのはなんでだっ!
あら、女の子は可愛いじゃない、あの二人の中には愛があるのよ。
俺も薬草から彼女作るんだ。まで多種多様な声が二人を包む。
「いや、そうじゃなくて……ギルドマスターに」
「あ、そうですね。王家の紋もありますし直ぐに手続きをしますので」
マルクの話を聞かないで、パタパタと席を外すミーア、マルクは先ほどから汗が止まらなくラーミにハンカチを渡された。
暫くすると、二階から元気が良さそうな長身の女性が降りてくる。
長い金髪を一つにまとめている。透き通るような白い肌で歳はマルクより若い20代の女性に見える。
ただ、彼女はエルフと人間の混血、ハーフエルフという種族で歳は当然マルクよりも上だ。エルフらしい長い耳をしているが左耳はちぎれていて痛々しい。
めったに表に出てこないギルドマスターを初めて見た者も多く、ギルド内がざわつき始める。
「君がマルクだな。ギルマスのフィだ口を聞くのは始めてかもしれないな、何時も薬草をありがとう。
他の者は悪く言っているかもしれないが、君の薬草は良く効くし、顧客にも評判がいい。この度はおめでとう」
社交辞令としても、自ら集めた薬草を褒められるとマルクも嬉しくなる。しかもギルドに貢献をした事のないようなEランクのマルクを知っている。というだけで驚きだ。
その言葉で全員が驚く中ラーミは興味無さそうにフィを見てはお辞儀をする。
「あまり歓迎されていないかな?」
「いえ、マルクさんが貴女に見とれているようで妻となった私としましては複雑なのです」
「はっはっは素直だねぇ」
マルクとしては、ラーミにそういわれると慌ててフィから視線を外す。
「もっと見てくれても構わないのに。噂は聞いているよ、いろいろとね。ミーア、この二人を上へ。あとは事務に戻ってくれて構わない」
「ギルドマスター。ギルドマスターの判子さえあれば私でも出来るんですけど……暇なんです?」
「もちろん暇だよ?」
「わかりました」、と、ミーアは命令を受け、二階へ通した。
ギルドマスターの部屋と書かれたプレートの部屋に招かれる。
室内は高そうなソファーに、テーブルに本棚。あとは机ぐらいな簡素な部屋であった。
鼻歌交じりのフィは二人をソファーに座らせると自らお茶を入れだす。ガチガチに緊張したマルクと違いラーミはそのお茶を素直に口に入れた。
「あ、この味」
「ああ、薬草王が持ってきた薬草を煎じた茶だ。さすがに妻となる者は味がわかるもんなんだな。傷薬を作ってもいいがこうしてお茶にすると魔力の回復にもいいし、美容効果も高いそうだ。若い職員の中ではひそかに人気なのだよ」
マルクとしては初耳で当然驚く。
自分には一生合う事も無いと思っていたギルドマスターが自分が取った薬草をお茶にして飲んでくれてる。というだけで信じられない話だったのにさらに上を行く。
「そうなのですか?」
「そうだよ。よし判子は終わった、これで君達は正式に夫婦だ。この書類では姓は決まってないからお互い好きに名乗ってかまわない。しかしSランクと結婚かぁ……君も中々運がいいね」
ん?
あまりの突然の言葉でマルクお茶を落とした。
高そうなソファーに全部こぼれるとそのままフィを見ている。
「飲まないでこぼす。これも何かの作法だろうか? 色々人間の作法は覚えたつもりでも見逃しはあるからね」
「あちゃーせっかく黙っていたのに……なんでいうんですかね?」
ラーミの声が現実離れをしている。
「いや、いまSランクって……」
「君達夫婦になったんだろ? サナ・ランフ・ヴァミューが生涯をかけて育て上げた娘。黄昏の魔法剣士ラーミ・ランフ・ヴァミューといえば私は一人しか知らないよ?」
「いやでも冒険者ギルドカードはBと……」
ギルドマスターのフィはラーミに手を差し出すのでラーミは素直に冒険者カードを手渡す。
フィはその冒険者カードにお茶をかけると、足して書いた文字は消えていきいびつなBがSに戻った。
「まーこっちとしても、Sランク冒険者がゴロゴロと身分証見せて回ったら問題が起きそうだからね、偽造させてもらってるよ」
マルクはそんなのありか!? と思っているがありなのである。
あくまで偽造が問題になるのは冒険者個人がやる事で、組織の上が実行し、尚且つ黙認すれば問題ない。
「ともあれ昨日マルクを探しに少女が来たって聞いてね。無事で何よりだ。
風の噂で彼女を手篭めにしようとした貴族連中は全員再起不能になって没落したと聞いているし、一応明日まで君が来なかったら様子を見にいく所だったよ」
ラーミが立ち上がり、直ぐに座った。
「なっ違います、全然ちがいますからっ!
ただ、余りにもしつこいですし、金で買ったランクだろうと騒ぐので私より強ければいう事を聞きますよ。とちょっと訓練しただけです」
「ラーミ! 君がどれだけ強いかは俺は想像がつかないが分の悪い賭けは避けるべきだ、世の中には魔法を封じるアイテムもあるという……万が一負けていたら」
フィがうんうんと頷くと手を叩く。
「さすがは旦那様だね、嫉妬だよ嫉妬」
「え!?」
「そういわれると、私も反省すべきです。マルクさんごめんなさい。次からは全力で叩き潰します」
「い、いや俺が言っているのはそういう事ではなく……」
じゃぁどういう事だ? と問われるとマルクも説明がしにくい。
心配したのは事実であるからだ。
「では今後はどうする? 薬草だけでは稼ぎがつらいだろ」
フィにいわれるとマルクは再び固まる。
何も考えて無い。というか結婚の報告だけして明日からも薬草を取りに山にこもるつもりだったからだ。
「考えてもいなかった……ランクを上げるべきか、その方が仕事も増える」
「マルク、君のカードを見せてくれたまえ」
フィに言われるままに冒険者カードを見せる、マルクの名前と特徴とともに支部とランクが書かれており『E』のマークがついている。
フィはそのEを何十回も指でなぞるといびつであるがBの文字に切り替わる。
「これで今日からBだ」
「良かったですねマルクさん、一緒のBです」
マルクは少しだけ頭を抱えて前を向き直る。
「ダメでしょ」
2人の女性は不満を言うがマルクのランクは『E』に戻してもらった。
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