第4話 結婚したら離婚しよう
マルクは自ら掘った井戸から水を汲むと、顔を洗う。酒の匂いは直ぐには取れないが少しすっきりしてくる。
小屋の扉が開かれるとラーミがマルクを見つめて来た。
寝ぐせがとれていなく慌てているよだ。
「マルクさんっ!」
「ああ、ラーミおはよう」
「あ、おはようございます。
じゃなくてっ! 見ました!?」
マルクは当然ヘソから上の事と思っているのでドキリとする。
「大丈夫だギリギリ見えていない」
「では見てください」
「それは不味いだろ! まだ明るい時間だ」
暗かったら見てもいい。とも取れるがラーミは「何の話でしょう?」と逆に聞いて来た。
「その……ラーミの――――じゃないのか?」
「肝心な部分の声が小さくで聞こえないんですけど……とりあえずコレですよコレ」
ラーミはマルクに一枚の紙を見せた。
結婚状と書いてあり、二人の名前が書かれているし、一度でいい母音も何度も押してあるのが見えた。
マルクは、持っていたタオルをその場へと落とした。
◇◇◇
二人は室内でそれぞれに座っていた。
合意の下に結婚します、その紙に名前と血印が押してある紙をテーブルへと広げた。
(何故こうなった……確かに昨夜は記憶が飛ぶぐらいに飲んだ。俺はどうしたらいい? 子供と結婚? 俺に養えというのか? いやまて、彼女は俺よりも高ランクだ。十四才のヒモになるのか……そういう問題じゃないな、彼女に悪い。薬草王も返上だな明日からゴブリン退治でもするか、いやまてよ? こんな紙切れ一枚で)
「疑問なんだがこんな紙一枚で結婚とは横暴だろう。俺がラーミと結婚をしたくないわけじゃ無くて、その黙っていればいい話ではないのか?」
もっともな疑問をラーミに伝えるとラーミは「それはできませんよ」と、伝えてきた。
「結婚状と遺言状は魔法がかかっており本物は王都に保管されていますよ。名前と母音を押した瞬間に発動するらしいですし、その昔に結婚状を使った詐欺が流行ったらしくそれを抑止するためとかみたいです」
「そうなのか……結婚なんてした事ないからな」
ラーミが紙をみながらポツリと話す。
「一応ですけど、ギルドで定期的に状の交換もありますし、その時に異議申し立てもあるらしいですけど……します? マルクさんがそこまで私との結婚がどうしてもどうしても嫌であれば、でも同棲は許したのに」
「同棲は最悪別れる事が出来るからな……しかし結婚となると」
ラーミが言うには書類の劣化を防ぐために定期的にギルドで取り替える決まりがある。との事。
それを行わないともちろん罰則があり、それゆえの国王の印が押してある奴なのだ。
「この場合、もし片方が死んでいたら、どうなるんだ?」
「はい? ええっと、既に印は押していますので、残されたほうは相手を選ぶ選択肢が復活する――」
ラーミは何かに気づいたように両手をテーブルに叩きつけた。
「ダメですよっ! 変な事考えてないでくださいっ」
「まだ、何も言っていない」
「じゃぁ、何を考えていたか言ってくださいっ!」
言ってはいないが少し考えていた。
「別に自殺するわけではない。ご覧の通り、オレはもう冒険者としてのピークを過ぎている。
死んだ事にしてくれれば、何処か離れた山奥でひっそりと暮らそう、幸い薬草には詳しいんだ」
(孤児院の寄付も、もうそろそろ大丈夫と言ってくれたしな)
ラーミが極端に肩を落としてため息を出してきた。
(別に変な事は言ってはいないと思うのだが)
「昨夜聞きましたけどマルクさんはEランクですよね。私が……――ランクです」
ランクの所がマルクにとって聞こえなかったがマルクは特に不思議にも追わないまま聞いている。
「その場合ですね。私がマルクさんを殺した。と、思われ罪を……そこで私は拷問されて言うのです。マルクさんの逃げた方向を、マルクさんは山狩りにあい、どうでしょう望む結果になりましたか?」
「脅迫されている気分だ」
「私としては逆に脅迫されています」
確かにラーミに「失礼だった」と、マルクは素直に謝る。
夫婦となった者が殺し合いをすればもちろん重罪だ。
一応この国ではやむ得ない場合と特例での殺人以外は罰せられる。
そうしないと、国として成立しないからだ。
特例というのは冒険者ギルド所属の冒険者や国の兵士などである。
兵士の場合はもちろん国の命令。
冒険者の場合は、依頼主を守るためなど、こちらは主に山賊や盗賊、さらには殺人集団などを殲滅する時に適用される。
しかし殺す事が可能だからといって、殺人が推奨されているわけじゃない。
じゃないと冒険者を雇った主に貴族がどんどん殺人をしてしまう。
「いいじゃありませんが同棲まで決めたんですし」
「うーむ…………」
マルクのほうも、口では嫌がっているが、そこまで嫌でもないのに気がついている。
数年ぶりに飲む、他人と酒。
いつもは楽しくないのに、ラーミと飲むと自然と酒の量が増え、楽しい時間だったのを思い出してるからだ。
マルク自身はロリコンじゃないと思っていても、ラーミの肌を見て少し興奮しそうになったのもある。
「俺が言う事でもないが、そんな簡単に決めていいのだろうか……普通は両親との挨拶とか」
「お墓に報告します?」
「…………そのすまない、つらい事を思い出せてしまって」
「悲しい事は悲しいですけど、であれば私がマルクさんの両親に挨拶ですよね?」
「俺の両親というか……言っていなかったか俺は孤児院出身だ。兄妹は多いが親というとシスターアンだな」
マルク自身は思わず胸に手をあてて固まる。
いくらシスターアンから結婚して子供でも作れと言われたが昨日の今日でラーミを連れて行って何を言われるか怖い。
「問題ありませんね」
「問題ないのか?」
「ありません」
ラーミに言われると何も問題ないようにマルクは思い始めた。
「よし、責任はとろう……」
「また何か変な事考えてますよね?」
「何も」
親友であり雑貨屋を営むヤットは妻のササリーと喧嘩した時に別れる、別れない。との大喧嘩をした事があった。
と、言う事があったのを思い出したからだ。
別れる事が出来る事も離婚状を手配してきて。とササリーに頼まれた事がある。
「あの離婚状は大金貨100枚しますよ?」
「なっ! 普通は金貨20枚だろ! あっ…………」
しまった。と思った時にはもう遅い。ラーミが物凄いため息をだす。
「一応これでも年齢の割に冒険者ランク高いですし、元貴族ですしー普通の結婚状とは違うんですよねー。わかりました、マルクさんがそこまで嫌というのであれば大金貨100枚だします」
大金貨1枚で金貨10枚分だ。
一般には流通してるのが少なく主に商人が扱ったりする金貨である。
「ま、まて! だから別に嫌では……」
「いいんです。出しますから気にしないで下さい」
「だから、別に嫌いではない! むしろ」
力強くマルクが言うと、ラーミは静かになった。
「むしろ?」
マルクはもう一度しまった。と思うまで時間はかからない。
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