第129話 魔石獣の洞穴



「よし、周りに誰もいないよね……それじゃあ、“マジマジ・魔人チェーンジ☆”」



 パアアアアアアと謎の光が俺の身体を包み込む。すると……



「雷魔獣人、シュータ参上!」



 学園に来てから初めての魔人化をしてしまった。

あんまり人に見られたくないし、一応封印してたんだけど……



(どうです? なんか視えるようになっていませんか?)



 脳内に直接流れ込むようなすーくんの声に従って、辺りを見渡す。

すると、森の奥へと続く獣道の上にギザギザした黄色い光の線のようなものが浮かび上がっていた。



「うわっなんだこの光線……ってか俺の身体から出てるのか……?」



 (それが現在、シュータ様と私を繋げている魔力オーラです)



「これが魔力オーラなんだ」



 ちょっと電撃っぽく見えるのは、俺の魔法適性によるものだろうか。



 (そのオーラを辿って進んでもらえれば、私がいる洞穴までたどり着けると思います)



「なるほど、それじゃあ今から向かうから、ちょっと待っててねすーくん!」



 (はーい)



 こうして俺は、囚われの身となってしまった(?)すーくんを取り戻すため、森の深部へと更に突き進むのであった。



 ……。



 …………。



「ここか……」



 魔力オーラを追ってしばらく森を進むと、大きな岩に囲まれた洞穴を見つけた。

光はその穴の中へと続いている。



「すーくん、中には魔物が沢山いるんだよね?」



 (いっぱいいますね。この森の魔物大集結! ってくらいいます)



「そんなに!?」



 そういえばここに来る途中、全然魔物に出会わなかったな。



「でもどうしよう。そんなにいっぱいいたらさすがに一人で突撃するのはなあ」



 下手したらすーくんを壊されてしまうかもしれない。中の魔物が寝落ちするのを待とうかな。



 (魔人化してるなら大丈夫じゃないですか?)



「あっそういえば俺、今人間じゃなかった……いや人間ではあるんだけど」



 (魔物の仲間のフリをしてしれっと来てください)



「よし、その作戦でいこう!」



 魔物のフリでお近づき作戦、開始! ……作戦?



「まあいいや。おじゃましまーす」



 (邪魔するなら帰ってー)



「いや帰らないし邪魔するよ」



 たまに出るすーくんのこのギャグセンスはなんなんだろう。リッツさんが作ったからかな。



「魔力オーラは……こっちか」



 洞穴の中は途中でいくつか分かれ道があったけど、魔力オーラの光が見えるほうに進むだけだから迷わなくて済んだ。



「ん、なんか声が聞こえる……」



 魔物たちがワイワイ、ガヤガヤと奥で騒いでいる声がする。どうやらこの先にみんないるみたいだ。



「……よし、行くぞ」



 タッタッタ、と小走りで奥に進んでいく。



「が、がお~」



 …………。



 うわ、なんかみんな一斉に振り向いたぞ。これバレちゃったかな……



「キッキィ~」



「ギャオ~」



「ビギャゴッギギギガアモヌン」



 ふう、どうやらいきなり襲われるみたいなことはなさそうだ。鳴き声的にみんな友好的に迎えてくれている気がする。なんかすごい鳴き声のヤツがいたけど。



「さてと、それですーくんは……あっアイツ!」



 すーくんを盗っていったサルのような魔物を見つける。どうやらすーくんの使い方が分からず裏返したり噛んだり叩いたりしている。

このままじゃ壊されてしまいそうだ。



「どうしよう……あっそうだ」



 カバンの中にある冷凍バッグから凍った果物を取り出す。前にフロランタから貰ったこの冷凍機能が付いたバッグの中には果物や魚など、非常食用の食材を凍らせて入れてあるのだ。



「ちょっとそこの……きーくん」



「キィ?」



「その手に持ってる奴とこの果物、交換しない?」



「キッキィ!!」



 サルみたいな魔物、もといきーくんはものすごい勢いでこちらに近づいてきた。人工の魔石獣だからにょんきちみたいに魔石を食べてるのかな、とも思ったけど、どうやら果物も食べるみたいだ。



「はい、交換」



「キィ」



 なんかあっさりと交換してくれたな。よし、これですーくんも取り戻したし、さっさとここから出て……



「ギャギャーオ!」



「ピピピッピィ!」



「ビギャゴッギギギガアモヌン!」



「うわっみんなどうしたの? もしかして、食べ物が欲しいの?」



「ビギャゴッギギギガアモヌン」



「いや鳴き声どうしたの君」



 きーくんに果物を渡すのを見ていた周りの魔物たちが食べ物を求めて一斉に近づいてきた。



「いや~でもな~タダであげる訳にはちょっとな~」



「ビギャゴッギギギガアモヌン」



 バギィッ!



「えっ」



 すごい鳴き声の魔物が自分の頭に付いていた魔石をもぎ取ってこちらに手渡してくる。えっこれと交換ってこと?



「ギャオウ!」



「ピッピピィ!」



 他の魔物もボギィ! バキィ! と自分の身体に付いている魔石を取ってこちらに渡してくる。いやそれ取っちゃって大丈夫なの?



「はい、じゃあ交換ね」



 こうして俺は、持っていた食材を失う代わりに新鮮な(?)魔石を大量に手に入れたのであった。

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