第123話 暴走従魔とアルマニ先生



「ギャオオオオオオウ!!」



「せっかくだし、学園内で従魔や使い魔が暴走したときの対処法を教えるね。はい、ちょっと注目~」



 暴走状態のヴァイパーウルフの前に立ち、にこやかに話し出すアルマニ先生。そういえば使い魔関係の実習も教えてるって言ってたっけ。

それにしても周りでパニックになっている生徒たちとの温度差が……



「あれ? 冷静な生徒も結構いる……そっか、上級生の人たちだ」



「ここでしばらく学んできた者ならば、これくらいの騒動では驚かんようじゃの」



 魔物の暴走でパニックになって騒いでいたのは新入生の人たちだったみたいだ。



「まず、今回のように従魔が暴走してしまう原因だけど、これには主に2パターンあって……おっと」



「ギャオオオオオウ!!」



 ヴァイパーウルフの攻撃をかわしながら説明を続けるアルマニ先生。さすがの身のこなしだ。



「一つ目は、魔法や薬などの効果により契約者の能力が従魔よりも下がってしまう、または従魔の能力が上がってしまう場合。二つ目は、従魔を暴走させる魔法を使われた場合だね」



 今回は、契約者がアッパーポーションという薬で能力を上げて従魔契約をしていたから、それが解除されて契約者の能力が従魔よりも下がってしまったというか、契約できない元の能力差になってしまったのが原因だ。



「従魔契約というのは、魔物の能力よりも私たちの能力の方が上回っている場合に契約成立となるんだ。だからギリギリの能力差であったり、本来なら契約できない魔物を、契約者の一時的な能力上昇、または魔物に能力低下の攻撃を加えて強制的に従魔契約を結ばせると、今回のようなことになってしまうよ」



「う……」



 従魔を暴走させてしまった生徒が苦い顔をする。やはり心当たりがあるようだ。



「こういった場合、魔物を討伐するか、再び従魔契約を結び直す必要があるんだ。でも暴走状態の魔物は、たとえ能力で勝っていたとしても従魔契約を弾いてしまうんだよね」



「それじゃあ、基本的には倒さないといけないんですか?」



「そういう考えの人も多いね。誰も使役していない状態の従魔は、ただの魔物だから」



 でもね、とアルマニ先生は続ける。あ、この喋ってる間ずっとヴァイパーウルフの攻撃を避けまくってます。すごいぞアルマニ先生。



「そんな簡単に、自分の家族を失うことを許容しなきゃいけないのは悲しいよね」



「「「…………」」」



 周りの生徒たちは自分の従魔、使い魔を見つめる。それは……確かにそうだ。もし仮にキャンディが暴走してしまったら、周りにものすごい被害が出てしまうかもしれない。でも、だからといって彼女と戦うようなことになったら、それはとてもつらい事だ。



「安心せい、使い魔契約は従魔とは違うでの。そんな簡単に解除もされないし、暴走状態にする魔法なんぞ拙者には効かん。拙者が暴走するときは……おぬしが殺された時かもしれんな」



「はは、じゃあ死なないように注意しないとね」



 俺が死んだら王国が半分くらい壊滅しちゃうかもしれないな。ちょっと、気を付けよう、うん。



「というわけで、今回はあの子の暴走状態を解除して、私が従魔契約を結んで収めることしよう。そのためにはこの魔法を使うんだ。……“ゾラム”」



 パアアアアアアアア……



「か、輝いてる……先生が」



「ものすごい後光だぜ」



 アルマニ先生が魔法を唱えると、先生の周りが青白く発光する。



「魔石洞窟の光るキノコみたいだね」



「その例えはどうかと思うのじゃ」



 発光したアルマニ先生がヴァイパーウルフへと近づいていく。そして、まるで『私は敵じゃない』とアピールするかのように両手を広げてヴァイパーウルフを抱きしめ



 がぶっ。



「「……あっ」」



「よーしよしよしよし! もう怖くないでちゅからね~私は敵じゃない、リラックスリラックス~」



「グルルルル!!」



「ええ……」



 腕にガッツリ噛みつかれた状態でヴァイパーウルフをわしゃわしゃしまくるアルマニ先生。なんか前世で見た気がする……こういう感じで動物と仲良くなるおじいさん……



「せ、先生、痛くないんですか?」



「めっちゃ痛いよ。でもこの状態で一定時間相手に接触しないと鎮静効果を付与出来ないんだよね」



「そ、そうなんですか……」



 それからしばらくするとヴァイパーウルフの暴走状態が解かれ、そのままアルマニ先生の手によって従魔契約が結ばれ、無事(?)問題解決したのであった。



「この暴走状態を収める魔法に必要なのは、相手を思いやる気持ち、つまり魔物への愛情だね……あとHPとガードのランクは上げておいた方が良いね」



「……シュータよ、拙者が暴走したらあの魔法で拙者を助けてくれるんじゃよな? よーしよしよしってしてくれるんじゃよな?」



「えっいやっ俺が死ぬ以外で暴走しないでよ」



 もっと身体を鍛えておこう、と俺はこっそりキャンディに誓うのであった。

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