第122話 キャンディの懐き度?



「はい、それじゃあこれから従魔、使い魔登録を始めまーす」



「はーい」



 学園の中庭に出ると、十数人の学生がそれぞれ魔物と一緒に待機している。

新入生だけではなくて、在学中に従魔契約や使い魔契約を習得した上級生も、新たに契約した使い魔の登録をするために集まっているとのことだった。



「うわあ、見たことない魔物がいっぱいいるよ。すごいね、キャンディ」



「そうじゃのう、それよりもシュータよ」



「ん? どうしたの?」



 登録の為にファミリアゲイトで呼び出したキャンディがキョロキョロと周りを見渡す。



「なんか拙者たち、物凄く目線を向けられておる気がするんじゃが」



「ああ……それは俺も思ってた」



「みんな、登録したい魔物の準備は出来てるね? それじゃあ順番に……」



 ざわ、ざわ……



「準備は出来てるってことは、やっぱあの男子の隣にいるのって魔物……?」



「ああ、なんか7、8才くらいの女の子にしかみえねえけど……」



「いや、逆にあの男子が使い魔かもしれないぜ……」



「…………」



「クックック。おぬし、拙者の使い魔だと思われておるぞ。中々良い趣味じゃなあいつら」



「全然良くないよ」



 キャンディは背中に生えている翼を隠すことで人間とほとんど見分けがつかなくなるため、周りからはちょっと学園生としては幼い少女、として見られているみたいだ。



「ねえ、もうちょっとヴァンパイア感というか、『拙者、魔物だぜ……』感を出してよ。このままじゃ俺が幼い女の子を従わせてるみたいになっちゃうよ」



「それもちと面白そうじゃが、さすがにシュータが可哀想じゃからな、翼を出しておくとしようかの」



 キャンディが隠していた翼を広げ、周りの生徒に向かってちょっとカッコつけたポーズを取る。



「拙者はライトニング・ヴァンパイア! ある時は死霊の館の主として眷属を従え、またある時は悪食のブラックボーンの使い魔として賊をなぎ倒す……その名もキャンディ様じゃ!」



「はい、そこ静かにね。みんなもざわざわしない」



「あ、ごめんなさい」



「すまんのじゃ」



 先生が注意してから静かになるまでに3分かかりました。



 __ __



「はい、それじゃあ次はシュータくんだね。さっきも確認したけど、鑑定証明書には……うん、ちゃんと使い魔契約をしていることが書かれているね。それじゃあ使い魔になにか簡単な指示を出してみてもらえるかな」



「簡単な指示かあ……キャンディ、お座り」



「拙者は犬っころか」



 文句を言いつつもその場にペタンと座るキャンディ。



「よしよし」



「こ、これ頭を撫でるでない……えへへ」



「先生、こんな感じで大丈夫ですか?」



「大丈夫だけど、伝説のヴァンパイア相手にその扱いは見ててちょっと心臓に悪いかな……いや、そんな、指示を出したのはシュータくんだからね、私はヴァンパイアに敬意を払っていますので」



「どうしたの先生?」



「君は怖いもの知らずだね」



 その後もいくつかの確認を行なったけど、なんというか確認項目が“普通の魔物”を基準にしたものばかりだったため、『さっきから拙者を犬っころ扱いしおって……』と文句を言いながらもキャンディは余裕で作業をこなしていった。



「それじゃあ最後に、他の従魔や使い魔たちとの相性を……」



「キャアアアア!!」



「大変だ! 従魔が!」



 ギャオオオオオオウ!!



「な、なに? どうしたの? ……あっ!」



「あれは……!」



 生徒たちが逃げ惑う中心に、尻尾がヘビになっているオオカミのような魔物が暴れているのが見えた。



「クソッ! おい! 大人しくしやがれ! オレの命令に従え!」



 どうやら俺たちとは少し離れた所で登録作業をしていた生徒の魔物が暴走してしまっているようだった。



「アレは“ヴァイパーウルフ”だね、かなり強い魔物で、扱うには高ランクの魔物使いじゃないと厳しいんだけど……」



「チクショウ! ポーションの効果が切れたか……? しかしこれくらいは……ッ!!」



「ポーションじゃと……シュータよ、あの魔物の主は“アッパーポーション”を服用しておったのかもしれん」



「アッパーポーション? って、あれか! グール・ヴァンパイアのときの!」



 死霊の館で戦った魔物使いは、アッパーポーションという一時的にステータスを上昇させるアイテムを使って、従わせたい魔物よりも強くなり、強制的に従魔契約を行なっていた。

おそらくあの生徒もアッパーポーションの効果によって一時的に従魔契約を保っていたのだろう。効果が切れて、魔物の制御が効かなくなってしまっているのだ。



「あの様子じゃと、もう主の命令はまったく届いておらぬようじゃの」



 ヴァイパーウルフは見境なく、他の生徒の従魔や使い魔に襲いかかろうとしている。



「どうしよう、このままじゃ……」



「大丈夫だよ、毎年1人や2人はこうなるからね」



「先生……?」



 アルマニ先生がヴァイパーウルフへと近づいていく。



「先生にお任せあれ」

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