第119話 1年ザルティス組
「1年、ザルティス組……」
入学式の後、先生から貰ったクラス案内の紙を頼りに向かった先は『1年・ザルティス組』と書かれたプレートのある教室だった。
「1年1組とかじゃないんだ」
席は自由だということで、なんとなく窓際に座る。
小学校の時のクラスと違って、席が階段みたいになっていて、前の人の背が高くて黒板が見えない、みたいなことにはならなそうだ。
「……シュータ」
「ん? あっアクリ!」
隣の席に見覚えのある顔……いや顔は相変わらず見えないんだけど、長い前髪で顔を隠した女の子、アクリが話しかけてくる。
「アクリも合格したんだ。おめでとう」
「……シュータ、実技試験1位だったんだ」
「筆記試験はビリだけどね」
「……そうなの?」
入学式のときになんとなく探したんだけど見つけられなかったから、受かってて良かった。
「はい、じゃあみんな席に着いたね……」
教壇の前に背の高い男の人が立って話し始める。あの人、どこかで見覚えが……
「みなさんは今日から1年ザルティス組の生徒だね……僕はこのクラスの担任のカルヴァド。これから3年間、よろしくね……」
「あ、筆記試験の時の試験官の人だ」
入り口に頭ぶつけてた背の高い猫背の先生だ。
先生の説明によると、この学園は進級してもクラス替えは無く、担任の先生も変わらずに卒業まで面倒を見てくれるらしい。
「薬草学と毒草学も担当してるから、授業の時はよろしくね……」
「……毒草学、興味ある」
「アクリ好きそうだよね」
「……陰気そうってこと?」
「違うよ」
なんだろう、理科とか好きそうな感じ。リトマス試験紙とかフェノールフタレイン溶液とか。
__ __
「はい、今日はこれで終わりになりますね……」
カルヴァド先生から今後の授業の日程なんかの説明を受けて、今日は解散となった。
「明日は説明した通り、能力鑑定と魔力測定を行いますね……それじゃあお疲れさまでした」
「「「先生さよーなら!」」」
「はい、さようなら……」
今なんかすごい、小学校って感じだったな。
「よーし! 学校終わったし、学食行こうよアクリ!」
「……いや、行かないけど」
「1日1個デザート無料なんだよ。毎日食べに行かないと」
「……私は無料じゃない」
「じゃあギロくんのバッジをアクリにあげるよ」
「やらねえよ……」
「あ、ギロくん」
いつの間にか背後にギロくんが立っていた。そう、実は同じクラスだったんだよね。
「アクリ、この人はギロくん。実技試験で1位だったんだよ、すごいよね」
「それはシュータもだろ……」
ギロくんは俺やアクリが受けた魔石洞窟での試験とは別の実技試験でトップ合格をした生徒だ。
ちょっと雰囲気がアクリと似てる。
「……私はアクリ。よろしく」
「お、おう……」
「……そのバッジちょうだい?」
「嫌だよ」
なんとなく3人で学食を目指して歩く。
「ギロくんたちはどんな試験だったの?」
「ああ……魔物退治、だな」
「……魔物退治?」
「“マッシュモス”っていう……物理攻撃が効かない魔物を魔法で倒す試験だ」
もう一つの実技試験は魔法特化の受験生が集められていたみたいだ。
「それで、ギロくんが最速で倒したってこと?」
「まあ、正確にはキルトって女と同率1位だったが……」
キルト……そういえば、表彰の時にもう一人呼ばれてたっけ。ちょっとタフタさんっぽい感じの女の子だった。
「……あ」
「ん、どうしたのアクリ?」
「……学食、今日は半日授業だからやってない」
「「…………」」
……。
…………。
「いや、そんな落ち込むなよ……明日食おうぜ、デザート」
「うん……」
学食が閉まっていたので、しょんぼり気分で寮に帰ることに。
「あ、オレこっちだから……」
「あれ、そっちって、森とかがある方だよね」
「ああ、オレが住んでるシャクドウ寮があるんだ……」
「……あの、ドラゴンの骨の寮?」
「そうだ……よく知ってんな」
「ギロくんも学生寮暮らしだったんだ」
てかドラゴンの骨の寮ってなんだ? めっちゃ興味あるぞ。
「今度遊びに行ってもいい?」
「いいよ別に……じゃあな」
「バイバーイ」
ギロくんと別れてクロガネ寮がある学園の東側へと歩き出す。
「……シュータも寮に入ったんだよね」
「うん、クロガネ寮ってとこ」
「……クロガネ寮? 本当に?」
「えっ、うん……それがどうかした?」
「……お隣さん」
「えっ?」
「……私、シロガネ寮」
「そうだったの!? 前に挨拶行ったときは見かけなかったけど」
「……入寮したの昨日だから」
アクリはまさかのお隣さんだった。また今度茶々丸くんと遊びに行こうかな。
「あ、寮母の双旦さんに貰ったお菓子おいしかった~って伝えてくれる?」
「……わかった」
「あとついでに、今度遊びに行くときは毒盛らないでねって言っといてくれない?」
「…………毒?」
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