第117話 どっちもどっち



 前回までのあらすじ☆

茶々丸くんと隣のシロガネ寮に挨拶に来たら、寮母さんに毒を盛られて茶々丸くんが眠ってしまいました。

俺は毒耐性があるので大丈夫でしたが、寮母の双旦さんが実はホワイト・フォックスとかいう人に化ける魔物だったと知って驚きました。おわり。



「さてと、この姿を見られてしもたからには生かして帰すわけにはいかないどすね~」



「え~!? 自分で変身解除したんじゃん!」



 ど、どうしよう。ここでサンダーボール使ったら寮が吹っ飛んじゃうかもしれないしなあ。そんなことになったらさすがに退学じゃん。

魔人化もちょっとここの人たちに見られるのは良くないかもしれないし……いっそのことキャンディ呼んじゃおうかな?



「ただいまー」



「双旦さーんおなかすいたーって、えっなに? 修羅場!?」



「まさか泥棒!?」



「そうじゃおまへん。この人は……」



「あ、今日から隣のクロガネ寮でお世話になります。シュータ・ブラックボーンです」



「えっ!? もしかしてあのクレイジーパンプキン大会で完食優勝したっていう!?」



「悪食のブラックボーンさん!?」



「うわ久々に聞いたなその呼び方」



 てかやっぱあの大会そんな有名だったんだ。なんでだよ。



「なんや、皆はん知ってる人やったんどすか。クロガネ寮の人だっていうから、皆はんに言われた通りとっ捕まえようとしとったんどすけど」



「うーん、新人君ならまだクロガネのアホどもに染まってないから大丈夫じゃない?」



「いや、むしろ捕まえて色々と従順に……」



「よく見ると結構可愛い顔してるわね」



「あれ? こっちのさらに可愛い子は?」



 うわ、なんか俺、結局狙われてる……?

ど、どうしよう。茶々丸くんは机に突っ伏して爆睡してるし……



「ちょっと! さっきからわちゃわちゃうるさいですよ!」



 バン! と扉を開ける音がして、食堂の奥から一人の女の子がこちらにやってくる。あ、寮の部屋にも人いたんだ。



「ア、アサ先輩……」



 アサ先輩と呼ばれたその人は、長い黒髪を肩のあたりで纏めており、茶々丸くんや双旦さんとはまた違った意味で和服の似合う、なんか委員長って感じの美人さんだ。



「……この男子と、そっちで寝ている女子は誰ですか?」



「クロガネ寮の新しい寮生くんだって」



「寮生? そちらの女子もですか?」



「あ、茶々丸くんは寮生じゃなくてクロガネ寮の新しい寮母さんだよ。あと男だよ」



「あ、この子寮母さんなんだ……え? 男?」



「うっそだあ。めっちゃ女の子じゃん」



 めっちゃ女の子ってなんだろう。



「どうしてシロガネ寮に?」



「あ、その……お隣さんに挨拶しようと思って。そしたら双旦さんに毒を盛られて……」



「ど、毒ですって!?」



「ちょい眠くなる薬草を入れただけどすよ。それにアサはん、クロガネ寮から男が来たら捕まえるように言うてましたどすやろ?」



「いや確かに言いましたが……私が言った捕まえてっていうのは、“ちょっと立ち話に付き合わせる”くらいのニュアンスだったのですが」



「あらま」



 完全に捕獲の意味で伝わっちゃってるんだけど。



 ……。



 …………。



「ごめんなさいシュータさん。捕まえて脅すとか、そういうつもりはなかったの」



「いや、ほんまにすんまへん。それにしてもシュータはん、眠りの毒草が効かへんくて驚きやわ」



 自分でもちょっと驚きだよ。毒無効スキルは持ってたけど、眠り耐性はいつの間に……魔石食ったからかな。



「ちょっとクロガネ寮の奴らの共用エリアの使い方が悪いからさー、今度会ったらとっ捕まえて注意してやる! くらいの気持ちだったんだよ」



「いやワタシは普通に捕獲するくらいの気持ちだったけどね」



「あ、向こうに戻ったら『お風呂上りに半裸で中庭歩くのやめろ』って言っといてくんない?」



「夜中に烈火の魔石を空中で爆発させて『花火~!』とかやるのもうるさいからやめてほしいわ」



「さっきもゴミ捨て場になんかめっちゃデカい魔物の骨があってさー。めっちゃビビったわ」



 あ、それ今日みんなで食ってたトロール・チキンの塩焼きかも。



「シュータくんは何才?」



「12才です」



「えっじゃあ最年少合格じゃん! かわい~」



「なんでその感想が可愛いになるんどすか」



 それはそう。女子ってよくわからない。



「むにゃむにゃ……はっ!」



「あ、この子起きたよ~」



「おはようございます」



「お、おはようございますなのだ……?」



 そんな感じで、無事(?)シロガネ寮への挨拶を終えて、クロガネ寮に帰ってきた。

双旦さんと茶々丸くんは、最終的に『毒盛ってすまへんなあ』『お互い新米寮母同士がんばろうなのだ!』って感じで握手してたけど、だいぶ手に力が入ってた気がする。

ブラック・ラクーンとホワイト・フォックス、あんまし相性が良くないんだろうか。

でも双旦さんがお詫びにお茶菓子をたくさんくれたので俺としてはラッキーって感じだ。



「おう、お帰りふたりとも」



「シロガネ寮どうだった?」



「お菓子おいしかったのだ」



「お茶も美味しかったよ。俺は」



「あれ? 襲撃は?」



「血祭りにあげられなかったか?」



 さすがにそんなことはなかったよ。



「あ、クロガネ寮のみんな、お風呂上りに服着ないで外で歩いちゃダメだよ」



「えっ」



「夜中に魔石で遊ぶのも禁止なのだ」



「あっ」



「ゴミ捨てルールも守ろうね」



「「……はい」」



 お隣の寮生同士、仲良くやっていけるといいな。

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