第116話 一服盛られちゃったのだ
「うわあ……すごいねこの鳥居」
茶々丸くんと一緒にクロガネ寮の隣にある女子寮、『シロガネ寮』へと挨拶にやってきた俺たちは、寮の手前にある大きな白い鳥居を見上げていた。
「おっきい門なのだ」
「これはね、鳥居っていって……いやでもこの世界だと普通の門なのかな」
「奥に小さいのがいっぱいあるのだ!」
「あっ本当だ!」
入り口の大きい鳥居のインパクトで気が付かなかったけど、寮の中には人が通れる高さよりちょっと大きいくらいの白い鳥居がたくさん並んでいた。
「なんだか神聖な気持ちになるね」
「トンネルみたいで楽しいのだ!」
「そうだね」
俺も日本から転生してきてなかったら茶々丸くんと同じ感想だったかもなあ。
鳥居のトンネルをしばらく歩くと、白い瓦屋根のお屋敷が見えてきた。ここがシロガネ寮か、なんか雰囲気あるね。よくわかんないけど。
「ごめんくださーいなのだ!」
「こんにちはー」
タッタッタッタ……と誰かこちらにやって来る足音が聞こえ、寮の引き戸がガラガラッと開いていく。
「はいはい、どちらさまどすか?」
「あ、俺たち隣のクロガネ寮に入ることになった者で」
「お隣さんにご挨拶に来たのだ」
「まあ、クロガネの……そらわざわざどうもおおきにどした。ウチはこのシロガネ寮で寮母をやってます、“双旦”と申します」
「そうたん、さん?」
「わっちはクロガネ寮の寮母、茶々丸なのだ! お隣同士よろしくなのだ!」
「あっ俺はシュータです。秋から学園生になります。よろしくです!」
「ウチこそご挨拶に行けずごめんなさいな。寮に来たばかりでちょいバタバタしちゃって」
どうやらシロガネ寮に新しく入った寮母さんというのはこの人で間違いないようだ。
見た目的にはシスターのリネンさんや、大衆浴場「ほっとランドリィ」のラミーさんと同じくらいの年齢だろうか。
綺麗な銀色の髪を腰まで伸ばしていて、和服が似合う美人のお姉さんって感じだ。あと話し方がちょっと独特。まあそこは茶々丸くんもだけど。
「わっちも最近クロガネ寮で働き始めたのだ」
「俺も今日来たばっかりです」
「あらそうやったんどすな。それじゃあ立ち話も何どすし、おぶを入れますからどうぞ中へお入りください」
「おぶ……?」
「お茶のことなのだ」
「そういえば田舎から戻ってきた寮生から美味しいお菓子も頂いとったわ。よかったら食べていってください」
「お菓子!」
「いただくのだ!」
__ __
双旦さんに案内されて、シロガネ寮の食堂でお茶菓子をいただく。
寮の中はクロガネ寮とあまり変わらない造りになっていて、もっとこう、女の子の寮! って感じかと思ってたから意外だった。
いや女の子の寮ってどんなのか知らないけどさ。
「お菓子おいしい!」
「このお茶も良い茶葉使ってるのだ」
「茶々丸くん茶葉の良し悪しとか分かるんだ。やっぱ名前の由来とかお茶が……」
「適当に言ったのだ」
知らないんかい。
「先ほど茶々丸はんも寮母をやってると言うてましたが、クロガネ寮はどうどすか?」
「わっちは元々宿屋をやってたから、お仕事的には結構楽しいのだ。お料理がちょっと苦手だからこれからがんばるのだ」
「宿屋の店主をしとったんどすか、そら驚きどす」
驚き……? 宿屋で働いてた経験があるなら、寮母をやるのも納得かなーって俺は思ったんだけど。
「それってどういう……こと、なのだ……?」
ゴトン。
「……ん? 茶々丸くん?」
「ぐー……すぴー……Zzz」
「え? ね、寝ちゃってる……」
「まさかこんな化けタヌキが人に交じって働いとったら、そりゃあ驚くではおまへんどすか」
「えっ?」
ちゃ、茶々丸くんが魔物だって気付いてる……!?
「ウチの寮生にクロガネ寮から男が来たら捕まえろって言われとったけど、まさか女の寮母が来るとは」
「茶々丸くんは男だよ」
「いやこの見た目だしオスダヌキってことは無いやろう……って、どうしてあんたは眠ってへんの?」
「え、なんで?」
「そのおぶには睡眠状態になる毒草が入ってるんやけど」
「あー……眠っちゃうやつかあ」
俺たち、毒盛られてたのかあ。
「すや……もう食べられないのだ……Zzz」
「あー俺はほら、耐性スキル持ってるから……多分」
眠っちゃう毒草が効かないってことは、睡眠薬とかも効かないのかな。それはちょっと不便かも。
「そうどしたか。そないなら力づくで口封じせんといけへんなあ」
双旦さんが何かを呟くと、彼女の周りにパアアアアと謎の光が現れる。いや、なんかこういうの見覚えあるなあ。
「……えっ? 耳としっぽ!?」
光が消えると、そこには長い耳とフサフサのしっぽを生やした双旦さんが立っていた。
「そ、双旦さんって、何者?」
「ウチはそこの化けダヌキと同じく、人に姿を変えられる魔物、ホワイト・フォックスどす」
ホワイト・フォックス……?
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