第113話 クロガネ寮の寮母くん


「シュータ、着いたぜ」



 ザジク先輩の案内でやってきたのは、学園の北東にあるお寺のような建物だった。

修行中のお坊さんでも出てきそうだな……別にお墓とかはないんだけど。



「ようこそ後輩。ここが俺たちのアジト、クロガネ寮だ」



「俺たちの……ってことは」



「ああ、俺もクロガネ寮に住んでるんだ」



「なんだ~言ってくれればよかったのに」



「サプライズってやつだな」



「ワン!」



「シロもここに住んでるの?」



「普段はクロガネ寮の中庭にいるぜ。ファミリアゲイトで呼び出すときはここから登場するわけだ」



 そっか。試験の道中で盗賊と戦ったときに、みんなどこから使い魔出してるんだろうと思ったけど、普通にこういうところで暮らしてるんだな。

なんとなく魔界というか、別の世界から召喚してるのかな? みたいなイメージがあったけど、そういえばキャンディだって死霊の館に住んでるしな。



「庭も広いし、使い魔も一緒に暮らせるのは良いなあ……ってあれ? シロは?」



「ああ、アイツなら多分……」



「わお~ん!!」



「うぎゃ~!! やめるのだ~!!」



 ……!?



「な、なんだ?」



 寮の裏手からシロの声が聞こえる。それにもう一人、なんだか聞き覚えがあるような声が……



「この間、今までお世話になってたウチの寮母さんが、子供がいる田舎に帰らなきゃいけなくなったとかで辞めちまってよ。学園長が新しい寮母さんを雇ったんだが、何故かその子にシロがめちゃくちゃ懐いてんだ」



「ふーん」



 タッタッタッタ……



「わおーん!」



「ばうばう!」



「はぐはぐ」



「だ、誰か助けてなのだ~!!」



「って、あれっ!? ほんとに茶々丸くん!?」



 しっぽをブンブン振り回しながら戻ってきたシロの口には、ものすごく見え覚えがある和服の女の子……にみえる男の子が咥えられていた。



「あっシュータくん! クロガネ寮へようこそなのだ!」



「いやようこそなのだ! じゃないよ! なにやってんの!?」



「なんだ、シュータは寮母さんと知り合いだったんだな」



「知り合いっていうか、茶々丸くんとは友達……って、寮母!? 茶々丸くんが!?」



「そうなのだ! サプライズなのだ!」



 シロに咥えられたままブランブランしている茶々丸くん。いやめちゃめちゃ驚いたけどさ。今の姿に。



 ……。



 …………。



「それで、なんで茶々丸くんが寮母さんなんかやってるのさ」



 ようやくシロから解放された茶々丸くんにクロガネ寮を案内してもらいながら、これまでの経緯なんかを教えてもらう。

ザジク先輩はシロに茶々丸くんを咥えないよう注意していた。効果あるのかはわかんないけど。



「里にいたとき、学校の偉い人からお手紙が届いたのだ!」



 茶々丸くんの話によると、俺が試験に合格したのと同じくらいの時期に、ブラック・ラクーンの里にあの空飛ぶ折り紙がやってきて、茶々丸くんにクロガネ寮の新しい寮母をやらないか、とお誘いがあったらしい。



「学校の偉い人は、わっちのことや楽狗亭のこと、シュータくんと友達だということも知っていて、その上でわっちに寮母をやってほしいとお願いされたのだ。キャリア採用なのだ」



「それで、寮母を引き受けた茶々丸くんは、一足先に学園で働いていたと」



「そうなのだ。シュータくんがクロガネ寮に入ることも知ってたから、驚かせようと思って言わないでおいたのだ」



「うん、めっちゃびっくりしたよ」



 作戦大成功なのだ! とニコニコしながら茶々丸くんに案内されたのは、なんだか茶々丸くんの宿、楽狗亭を思い出すような和室の部屋だった。



「ここがシュータくんの部屋なのだ!」



「けっこう広いね! それに窓から見える景色も……でっかい犬が走り回ってるね」



「庭は使い魔の生活スペースになってるのだ。他にもでっかいムカデとかでっかいヘビとかいるのだ」



「ええ……」



 だ、だいじょうぶかな……襲われないかな……茶々丸くんが。



「続いて寮の食堂を案内するのだ!」



「食堂!」



「ついでにごはんも作るから、寮にいる生徒たちを集めてお昼にするのだ」



「ごはん! やったー!」



 あっでも俺、今日はシルクのお弁当があるんだよな。まあ両方食べればいっか。



「……あれ? でも茶々丸くんって料理できたっけ?」



「がんばるのだ!」

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