6章 入学・修練の森 編

第112話 新たな門出



「それじゃあ準備もできたし、もう行くね」



 色々あった入学試験を無事に……とはいかなかったけどなんとか合格して、王立冒険者育成学園、通称『王立学園』に通うことになった俺は、秋からの学園生活に向けてお引越しをすることになった。

まあ引っ越しといっても、カバン1つ持って学園寮に入るだけなんだけど。



「忘れ物は無い? お弁当持った?」



「うん、お昼ご飯作ってくれてありがとうシルク」



「合格証明書と入学案内も忘れてない? 水も持った?」



「大丈夫。てか寮に水くらいあるから」



「携帯用の保存食は? あと非常用の木の実と……」



「だ、大丈夫だって! 寮でごはん出るから!」



 なんか試験行くときにも同じようなやり取りしたな……。



「王立学園で寮暮らしか~。なんだか楽しそう。ね~トラちゃん」



「にゃあ」



「リネンさんは学校行ってないの?」



「まあ教会が学校みたいなもんだからね~。シスターやってるうちは死ぬまで学生って感じ。シルクちゃんは去年まで地下室登校だったけどね」



「う、うるさいわね」



 それにしても、シルクは相変わらず世話焼きだなあ。最近はよく教会の炊き出しに参加して、料理を作っているみたいだ。

1年前まで教会の地下に閉じこもっていたとは思えないほど元気になって、俺うれしいよ……



「ちょっとシュータ、その謎に生温かそうな目でこっちを見るのやめなさい! モフるわよ」



「それはかんべんしてください」



「私もシュータくんモフりた~い」



「リネン姉さんは加減を知らなそうだからダメよ……」



 いや君も相当だけどね。



「茶々丸くんも、しばらく楽狗亭には遊びに行けなくなっちゃうけど、元気でね」



「大丈夫なのだ! それにまたすぐ……」



「ん?」



「な、なんでもないのだ」



 茶々丸くん、どうしたんだろう。なんか言いたそうにしてるけど……



「まあいいや。それじゃあみんな、行ってきます!」



「元気でね~。あ、収穫祭の準備は手伝いに来てね」



「あはは、任せといてよ」



 クレイジーパンプキンの大会は……どうしよっかな。収穫だけ参加しようかな。



「ねこのすけ、今まで居候させてくれてありがとう。休日になったら遊びに行くね」



「にゃん」



 不便なことも色々あったけど、ねこのすけが住んでるスラムのガレキ山が俺の故郷だからな。解体されないといいんだけど。



「シュータ、その……たまには戻ってきなさいよ。美味しいお菓子、作って待ってるから」



「……うん!」



 __ __



「えーと、クロガネ寮、クロガネ寮っと……」



 学園に到着して受付を終えた俺は、これから生活することになっている学生寮である『クロガネ寮』を目指しつつ、学園内を散策していた。

いちおう地図も貰ったんだけど、なんかめっちゃ大雑把だった。



「相変わらず広い敷地だなあ。あ、森もある……って、なんだあのでっかい木!?」



 さすがに大魔樹グランデ様ほどではないけど、かなり大きい木がいくつも生えているのが見える。

しかも、よく見ると木には扉や窓のようなものが付いているのだ。



「“この先、ロクショウ寮”……へ~、あれも学生寮なんだ」



 学園の敷地内には、俺みたいに家が無かったり、なんらかの理由で自宅から通えない者、国外から入学する生徒などの為に、5つの学生寮が用意されている。



「ここがロクショウ寮で、残りがシャクドウ寮、カナリア寮、シロガネ寮……そして、俺が暮らすクロガネ寮か」



 一体どんなところなんだろう。今から楽しみだ。



「ん? おっ! シュータじゃねえか!」



「あれっ? ザジク先輩だ!」



「奇遇だなあおい! こんなとこでなにやってんだ ?」



「いや試験受かったからここにいるんだけど」



「はっはっは! そりゃそうか! 合格おめでとさん!」



「ありがとう! 学食奢って!」



「気が早えなおい。今は夏休みだから学食はやってねえぞ」



「そっかあ」



 俺はザジク先輩に、クロガネ寮という学生寮を探していることを説明する。



「なんだ、シュータはクロガネ寮に入るのか。それなら俺が案内してやるぜ」



「本当? ありがとう!」



「ちょっと待ってな……おーい! シロ~!!」



 タッタッタッタ……



「わん!」



「わおーん!」



「ばうばう!」



「うわっ!」



 目の前のロクショウ寮の方からザジク先輩の使い魔であるシロが走ってきた。

シロはスノー・ケルベロスという頭が3つある大きな犬の魔物だ。いきなり現れるから、一瞬魔物が襲いかかってきたのかと思ったよ。



「よっと。ほら、シュータも」



「えっ俺も乗せてくれるの?」



「わん!」



 ザジク先輩の手を取って、シロに乗せてもらう。



「うわあ! モッフモフだ!」



「それじゃ、クロガネ寮までご案内だ。しっかり掴まっとけよ!」



「うん!」



 学園生活、さっそく楽しいことがありそうだ!

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