第111話 シュータの決断



「にょんきち、と言ったかの。魔石学の教授から話を聞いたときは驚いたわい」



 おじいちゃん先生の話によると、にょんきちのような魔石化をして、サナギ状態になった後、成体に変態するという魔物はとても珍しいらしい。

しかし、成体になった魔物ではなく、サナギ状態、つまり魔石としての価値が物凄く、通常の魔石とは比べ物にならないほど高値で売買されるとのことだ。



「シュータさんがもし魔物を学園に売ってくださるようなら、今回の試験は合格、それもA級特待生として迎え入れたいと考えています」



「A級、特待生……」



 にょんきちには散々採取した魔石を食われたし、ここで学食食べ放題と交換して元を取って……いやいや。



「学園に売ったにょんきちは、そのあとどうするんですか?」



「それはお答えできません。そのまま羽化するまで管理して、成体になった魔物を調査するか、あくまで貴重な魔石として扱い、場合によっては加工して新たな魔道具の開発に着手するか……」



「か、加工されたらにょんきちはどうなるんですか?」



「成体になることはできず、魔石からエネルギーを取り出され、死んでしまう可能性が高いでしょう」



 …………。



「元々は試験中に手に入れた物です。試験に合格するために利用しても、誰も文句は言いませんよ」



「お、俺はどうしたら……」



「つらい決断を迫ってしまって済まないのう。じゃがな、シュータくん。自分の心に正直に。後悔しない選択肢を選ぶと良いぞ」



「…………」



 正直、そこまでにょんきちにこだわるくらい、仲深まる時間を過ごしたかというと、そんなことはまったくないんだよな。

一緒に巨大ダンゴムシは倒したけど、魔石食われたし、石になって運ぶのめっちゃ重かったし、魔石食われたし、あと魔石食われたし……。



 でもなあ……。



「……すいません。にょんきちは売れません」



「理由を聞いても?」



「友達は……売れません。あと、ねこのすけ……俺の友達も、なんか気に入ってるみたいだし」



 寝床としてだけど。



「そうですか……シュータさん、気持ちは変わりませんか」



「変わりません。にょんきちは売れません」



 あーあ、これでまた1年、冒険者になる夢が遠ざかっちゃったな。



「それではシュータさん、今まで保留としていたあなたの試験結果ですが……」



「はい」



「合格とします」



「はい、それではまた来年……え?」 



「試験は合格です。後日、手続きの連絡を……」



「ちょ、ちょっと待ってください。俺、にょんきちは売らないって……」



「ほっほっほ。にょんきちはシュータくんの友達なんじゃろう?」



「でもそれじゃあ、筆記試験のことが……」



「まあ、あのエセ参考書を全て廃棄できていなかったのは学園の落ち度です。もちろん、それだけの理由で合格とすることはできませんが、実技試験が優秀だった方を不合格にするのも惜しいのです」



「ウチは王立なもんで、色々と融通が利かんでな」



 不合格にするなら、にょんきちの魔石が売られて他国に渡る可能性もある。

それなら学園生として、にょんきちを所持してもらっていたほうが王国としても良いでしょう、という感じで落としどころを付けるそうだ。

学園の人たちも色々と大変なんだなあ。



「じゃあ、本当に合格……やったあ……!!」



 まあでも、結局学食無料は叶わなかったけど。はかない夢だった……



「とはいえ実技試験トップ合格の生徒に何もご褒美が無いのもアレじゃろうて。シュータくんには……そうじゃな、学食のデザート毎日1品無料なんてどうじゃ?」



「が、学園長いいんですか? そんなこと勝手に決めて」



「ワシの給料から天引きで良いぞ。のうシュータくん」



「それでお願いします!! えっ学園長?」



 こうして俺は、まあなんか色々あったし、学食の食べ放題は逃しちゃったけど、無事に王立冒険者育成学園への入学が決まったのだった。



「あっそういえば合格したらザジク先輩が奢ってくれるって言ってたな。よーしテンション上がってきた!」





 __ __





 修汰くん、無事に試験に合格したみたいで良かったの。とりあえずあのエセ参考書の作者には天罰が下ってほしいの!

あと修汰くんはもっとワタシを敬ってお祈りとかしてほしいの! 毎朝二礼二拍手一礼なの!



 さて、次章からいよいよ学園生編がスタートなの。

修汰くんが試験で仲良くしていたアクリちゃんの結果も気になるところなの。



 修汰くんの学園寮生活も始まって、学園の実習で新たなダンジョンにも行くみたいなの。

それに、秋といえば収穫祭! そして……あのパンプキンの季節なの。

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