第109話 シルクときゅーたろう



「おーい、きゅーたろう~」



 王立学園の試験が終わり、後は結果を待つだけとなったある日のこと。

俺は久しぶりにきゅーたろうに会いたくなって、魔獣の森まで足を運んでいた。



「ねえ、そのきゅーたろうって、どんな魔物なの?」



「うーんとね、モモンガ……ムササビ? こう、バッてなってて、空が飛べるネズミだよ」



「ぜ、全然分かんない……襲ってこないわよね」



「きゅーたろうは友達だから大丈夫だよ! 多分」



 森に薬草採取の用があったシルクも一緒だ。

ここへはたまに教会の人と来ているらしいんだけど、きゅーたろうには会ったことがないとのこと。



「キュウ~」



 ヒュイ~っと、奥の方の木からなにやら小さいものが飛んでくるのが見える。



「あっきゅーたろうだ! おーいきゅーたわぷっ」



「シュータ!?」



 飛んできた勢いそのままにぺたっと俺の顔面に着地するきゅーたろう。い、息が……



「~!! ぷはっ!! はあ、はあ」



「キュッキュウ」



「ひ、久しぶりだね、きゅーたろう」



「ちょっと! めちゃめちゃ襲われてるじゃない!」



「いや、これはスキンシップだよスキンシップ……」



「キュイ」



「そ、そうかしら……」



 ……。



 …………。



「鑑定結果、不明……」



「やっぱシルクの鑑定でも分かんなかったかー」



 きゅーたろうのことをシルクの鑑定スキルで調べてもらったけど、結果は俺の持ってるすーくんと一緒だった。

そう、なぜかきゅーたろうの種族について情報が出てこないのだ。



「きゅーたろう、あなた何者なの?」



「キュキューキュ」



「いや全然分かんないんだけど。木の実食べる?」



「キュッキュ!」



 シルクに割ってもらったクリミの実を嬉しそうに頬に詰めていくきゅーたろう。あっ木の穴に隠しに行っちゃった。



「……てかシルク、クリミの殻よく割れたね。それけっこう硬くない?」



「ふっふっふ。シュータ見てて」



 パキィ! と親指と人差し指でつまんだクリミの殻を粉砕するシルク。ええ……シルクって意外とパワーが……



「す、すごいね。まるでオラクルモンキーみたい」



「ちょっと! あの怪力ザルと一緒にしないでよ!」



 オラクルモンキーっていうのは、筋肉ムキムキでめちゃめちゃ力の強い……まあなんというか、ゴリラみたいな魔物だ。



「“パワフルブースト”っていう、身体強化の魔法を使ってるのよ。普段だったらクリミの殻なんて素手じゃ割れないわ」



「なるほど~! すごいねシルク、そんな魔法が使えるんだ」



「補助系の魔法に適性があったみたいで、役立ちそうなものをいくつか覚えているわ」



 ……あれ、じゃあ魔法を使わないでクリミを割れる俺がオラクルモンキーってこと?



「キュ~ウ」



「あら、きゅーたろうが戻ってきたわ。おーいこっちこっわぷっ!?」



「あ」



 手を振るシルクの顔面に着地するきゅーたろう。なんだろう、やっぱ人の顔にくっつく習性でもあるんだろうか。



「~!! ぷはっ!!」



「キュウ」



「ハア、ハア……キュ、キュウじゃないわよ……まったく……」



「キュ」



「え? あ、ありがとう。なにこの木の実。初めて見るわね」



「あ、それ……」



 きゅーたろうがシルクに渡したサクランボのような木の実、めちゃめちゃ見覚えがある。



「鑑定結果、デビルズフード……試作品001? なにこれ?」



「それ、食べるとめちゃめちゃステータスが上がる激レア木の実だよ」



「そうなの? ありがとうきゅーたろう!」



「でも普通の人が食べたら身体が耐えられなくて化け物になっちゃうかもしれないんだって」



「…………シュータ、あげる」



「あ、ありがとう……」



 興味はあったみたいだが、さすがに化け物になるかもしれない物はね。



「かわりになにか欲しいものとかない? トンホーンの丸焼きとか」



「それはシュータが食べたいものでしょ」



「うーん……あっ! じゃあ日除けの香水は? そろそろ補充した方が良いんじゃない?」



「そういえば結構減ってきたわね……でもあれはとても高価なものだし、そんなポンポン貰う訳には」



「よーし、じゃあ新しいのを作ってもらいに行こう!」



「キュ~!」



「あっちょっとシュータ!?」



 この後、シルクを背負ったままダッシュで死霊の館まで行き、日除けの香水を作ってもらうために『キャンディを絶対泣かせる話選手権』が開催されたのはまた別のお話……。

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