第108話 試験終了
「さあもうすぐ王都だよ。数日間、お疲れ様でした」
「ふ~やっと家に帰れる」
洞窟を出た俺たち受験生の馬車は、空賊の‡第801烏合戦闘飛行団・腐衛弐苦巣‡の襲撃に遭って以降は特にトラブルもなく、無事に集合場所だった王都前の南の街道までたどり着いた。
「まあ家っていうか、ガレキ山だけど」
「……シュータは、どこのスラムに住んでるの?」
「俺が住んでるとこは北東のスラムだよ。下層区から魔獣の森に向かう途中にあるガレキ山」
「ああ、あのガレキ山か。あの辺り、昔は魔石を加工する工場があったんだよ」
「そうなんですか?」
「……潰れちゃったんですか?」
「あそこでちょっと私たち……じゃなかった、若者の武闘派グループの衝突があってね。魔石を保管してた倉庫が爆発して全部ガレキの山になってしまったのさ」
「ええ……」
「その後に事件の調査が入ったんだけど、どうやら違法な魔道具を作るための工場で、国に登録してたデータも偽物だったみたいでさ。工場の責任者も逃げた後で、ガレキの撤去にもお金がかかるし、そのまま放置されて今に至るって感じかな」
あそこそんな危険地帯だったのか……引っ越そうかな……。
「……スラムで一人暮らし、ちょっと羨ましい」
「アクリは下層区にある家に住んでるんだよね。もし合格したら自宅から通うの?」
「……学園の寮に入るわ。家に私の居場所はないもの」
「……?」
後半、呟くような声だったので聞き取れなかったけど、どうやらアクリは学園の寮に入るつもりのようだ。
「学園寮は面白いよ。毎日がお祭りみたいでさ」
「寮なのに、お祭りですか?」
「寮ごとに特色もあるし、寮母さんもいるけど中での生活は基本的に生徒の自由だ。寮対抗のイベントなんかも盛り上がるよ」
「へえ~たのしそう!」
ますます合格したくなってきたぞ。といっても、これで試験は終わったから、もう出来るのは合格を神に祈ることくらいだけど。
「イーツ様、どうか合格しますように……」
「……イーツ様?」
「聞いたことない神だ。教会の信仰対象とは違うんだね」
「俺が一応信仰してる神様だよ。いや、神様……なのかなあ」
「信仰心がだいぶ薄めだね」
__ __
「ただいま~」
「にゃ~」
「ねこのすけ、元気にしてた?」
「にゃん」
スラムのガレキ山は俺が試験に行く前と何一つ変わってないようだ。よかった、先生の話聞いてから急に撤去とかされてないか心配だったんだ。
「さて、これはどうしようかな」
ゴロン、とカバンに入っていた堅硬の魔石を取り出す。結局、採掘した魔石はほとんど学園に買い取ってもらった。
残ったのはこの結構レアそうな堅硬の魔石と……
「にょんきち……」
「にゃい?」
ねこのすけが魔石化したにょんきちの周りを回ったり、匂いを嗅いだりしている。あ、上に乗った。
「ルンバに乗ってるネコみたい」
ねこのすけはにょんきちの上で丸まって眠ってしまった。どうやらお気に入りの寝床を見つけたみたいだ。
「このままねこのすけに温めてもらったら羽化したりしないかな」
にょんきち、一体どんな姿になるんだろう? ちょっと楽しみだ。
……。
…………。
「こんにちは~」
にょんきちの魔石をスラムに放置するのも危険なので、ガレキ山の奥にある茶々丸くんの宿におじゃまして、眠ったねこのすけごと預かってもらいにきた。
「あっシュータくんおかえりなのだ! 試験どうだったのだ?」
「いや~なんか盗賊に2回も襲われちゃってさ」
「ええっ!? それは大変なのだ! 大丈夫だったのだ?」
「先生たちが応戦して倒してくれたよ。俺もキャンディを召還して戦ったんだ」
俺っていうか、キャンディが戦ったんだけど。
「そっか、そういえばキャンディはシュータくんの使い魔だったのだ」
「うん。学園にも魔物使いの生徒とか先生がいてね……」
こうして俺は、試験の話やにょんきちのこと、ザジク先輩の使い魔のシロや先生のピヨちゃんのことなんかを茶々丸くんにお話した。
そのあとは二人で大衆浴場「ほっとランドリィ」に行き、久々に湯船に浸かって、今までの試験の疲れを癒したのであった。
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