第106話 空賊、襲来



 魔石洞窟での試験が終わり、俺たちを乗せた馬車が王都へ向かって出発した。

来たときと違うのは、食料を積んでいた荷馬車2台のうち、1台は消費された食料の代わりに、俺たちが洞窟で採掘した魔石が積んであるということくらいだろうか。



「そういえば、筆記試験のときのクラスもそうだったけど、この馬車のAとかBとかって振り分けはどうやって決まってるんですか?」



 受験生はA~Dクラスに分けられていて、それぞれ人数もバラバラだ。

最初は受験の申し込みをした順番なのかな? と思ったけど……まあ、周りの服装とか、雰囲気とかでなんとなくは分かってるんだけど。



「そうだね、まあこれは別に隠してる事じゃないから言ってしまうと、Aは上層区の貴族クラス、Bは中層区の商人や下級貴族、Cは下層区の庶民クラス、で、ここDクラスは……」



「……親がいない人」



「まあ、そんな感じかな。Dクラスは孤児院や教会、スラム暮らしの子が多いかな。他には王都の外の小さい町や村、部族の集落なんかから来た子もいるよ」



 つまり、お金持ちというか、身分が良い順に分けられているという事だろう。まあ俺は冒険者になってギルドカードが手に入れられればなんでも良いんだけど。



「本当はこういう分け方にしたくないんだけど、試験以外の所でトラブルが発生するのを減らすためにね。でも、王立学園は身分で受験資格や合否を判断しない。他の学校だと多かれ少なかれ、そういったことが影響してくるものだから」



 実際、他の学校だと試験申し込みをするときに、教会で発行してもらうステータス確認の証明書が必要なんだけど、王立学園ではそういったものは求めていない。

あの確認もお金が結構かかるし、それが理由で受験できない前途ある若者をなくすためだとかなんとか。



「王立学園は入学金も授業料も無料だ。そして、その分志願倍率も高い。ちゃんと試験に受かる実力が無いとダメなのさ」



「他の学校は違うんですか?」



「……入学金をたくさん払ったら合格できる学校があるって聞いたことある」



「ええ……」



「まあ、先生からは立場上、そうとも違うとも言えませんが」



 ほぼそうだよって言っちゃってるじゃん。



 __ __



 魔石洞窟を出発して半日ほど経った。そろそろ日が暮れて、夜営の準備が必要になってくる時間だな、と考えていた時だった。



「……っ! 敵が来てる……!」



「……えっ!? また!?」



 前回襲撃されたとき同様、アクリが近づいてくる気配を感知したらしい。



「今回はどちらの盗賊でしょう……おや? あれは」



 先生が幌の隙間から外の様子を確認する。



「ど、どうしたんですか? もしかしてまた前回の漆黒のなんとかですか?」



「いや、今回のは……“空賊”だね」



「く、空賊?」



「見てごらん」



 先生の横に立ち、外の様子を確認する。



「あれ? なにもいないけど」



「……地面じゃない。空」



「空? ……うわっ! なんだあれ!」



 アクリに言われて空を見上げると、そこには翼の生えたトンホーンみたいな魔物に乗っている人達が馬車の上を飛び回っていた。



 (……鑑定完了。トングリフ。空中からドリルのように身体を回転させて突撃してくる)



「トングリフかー」



 やっぱトンホーンみたいな味なのかな。



「……あいつらは、何者?」



「あれは、ここから少し先の山を根城にしている空賊、‡第801烏合戦闘飛行団・腐衛弐苦巣‡だね」



「だいはちまるいちうごう……え、なんて?」



「だいはちまるいちうごうせんとうひこうだん、ふぇにっくす」



 な、なるほど……?



「……あれ? 今回はみんな使い魔を召還してないね」



 護衛をしている学園生たちは、馬車に近づけないよう警戒はしているが、前回のように使い魔を召還して応戦している人が見当たらない。



「この辺りで魔石狙いの空賊が襲ってくることはこちらとしては想定内なのさ。そして、その場合は応戦しないで待機するよう伝達されているからね」



「そうなんだ。でもどうしてなんですか? このままじゃ突撃されちゃうんじゃ」



「ふふ、大丈夫だよ」



「あっ先生!」



 そう言うと先生は馬車から飛び降り、単身で空賊たちの元へ向かっていく。



「ちゃんと戦うさ。私のかわいい使い魔ちゃんがね」

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