第105話 帰りの準備
「ふ~、お腹いっぱい」
「……シュータ、食べすぎ」
「だって試験中はずっと洞窟にいたから、まともな料理を食べられてなかったんだもん」
「……洞窟では、何を食べてたの?」
「うーんとね、干し肉とか、でっかいダンゴムシとか」
あと魔石とか。
「……ダンゴムシ」
「意外と美味しいよ。えっと……あ、このサンドロブスターみたいな味かも。これよりもちょっと固いけど」
「……シュータのちょっとは信用できない」
俺はパワーのランクが結構高いので、食べ物を噛む力もアクリより強いのだ。
アクリが嚙み切れなさそうな硬い干し肉の塊も気にせず食べてたから、俺の感想は参考にならないらしい。
「……でも、にょんきち生きててよかったね」
「うんっ」
にょんきちを調べてくれた先生とは、あれから他の受験生の魔石を確認しなきゃいけないので詳しい話を聞けなかったけど、にょんきちが死んじゃったわけではないと分かってちょっと安心。
「でも、最後に先生が言ってたことがやっぱり気になるな」
「……さなぎの状態」
にょんきちは身体を魔石化することで、サナギ状態になっているという。このまましばらくしたら、ちょうちょみたいになって出てくるのだろうか。
さっきすーくんの魔力が回復して使えるようになったから聞いてみたんだけど、にょんきちのことについては何も知らないみたい。魔石化についても、先生から聞いた話以上の情報は分からなかった。
「まったく、俺ががんばって採った魔石を爆食するし、いつの間にか石になっちゃうし、なんなんだお前は」
でも、にょんきちの成体ってどんな感じなんだろう……元々がウサギ頭のカメだしなあ。羽とか生えるのかな?
「ぜ、全然想像つかないや……」
「おーい、シュータ~!」
「ツノとか生えたり? う~ん……ん? あっザジク先輩!」
「わん!」
「わおーん!」
「ばうばう!」
「……うわ、なにこの犬、ちょっやめっ」
「はっはっは! 嬢ちゃん、シロに気に入られたみたいだな。魔物使いの才能あるぜ」
シロがアクリの周りをくるくるして匂いを嗅ぎまわっている。
「たまにいるよね、何故か動物に懐かれる人」
「いやシュータもそうだけどな」
カラスには食い物盗られたけどね。
「二人とも試験お疲れ! 魔石洞窟はどうだった?」
「……疲れた」
「美味しくなかった」
「なんだその感想」
__ __
昼食を終え、馬車に乗り込む。後は王都まで帰るだけだ。
「アクリは採った魔石、どうするの?」
「……全部買い取ってもらう」
試験で集めた魔石は自分で持って帰っても良いし、このまま渡して学園に買い取ってもらうことも出来る。
アクリは俺と違って高品質な魔石を狙うより、とにかく量を集めたから持ってても使い道がない、ということで全部買い取りに出すようだ。
「俺も何個か買い取ってもらおうかな」
次元収納カバンが使えるようになったから、全部入れて持ち帰ることはできるんだけど、正直あんまり価値も分からないしなあ。
「商業ギルドで売るのとどっちの方が高く売れるんだろう」
「高く売れるかは魔石次第だね」
「あっ先生!」
俺たちとアクリがいるDクラスを監督している先生が馬車に戻って来る。
「商業ギルドだと、魔石の需要によって値段が変動するからね。今だと水や氷の魔石が高値で売れるかな。学園で買い取る場合は、学園内で消費するからほとんど基準価格から変わらないよ」
なるほど。めんどくさかったら全部買い取ってもらっちゃうのが楽そうだ。
「……先生、洞窟で会わなかった」
「試験中、私はダンジョンの外を見回っていたからね。君たち受験生に会うのは3日ぶりだ」
「試験官の先生なのに、俺たちを見てなくて良かったんですか?」
「ああ、実はシュータくんに魔法を使わせたのがバレちゃってねえ。監督業務から外されちゃってたんだ」
「あ~……ごめんなさい」
「いや、アレは全部私の責任だからね」
キャンディのことはごまかせたが、どうやら他の先生に魔法を発動したことが感知されてしまっていたらしい。
「もし帰りにまた盗賊から襲撃されても、今度は私たち試験官と在学生にお任せ、というわけだ」
「またまた~。そんな毎回襲われるわけないですよね~」
「……そういうこと言ってると、来ちゃうよ」
「い、いやいや。考えすぎだって」
……ない、よね?
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