第104話 にょんきちの魔石?



「……はい、到着」



「すううう……うん、やっぱシャバの空気は美味しいね!」



「……しゃば?」



「シャバシャバだよね」



「……しゃばしゃば」



 アクリに連れられて、無事に洞窟の入り口まで戻って来ることができた。



「アクリ、迎えに来てくれてありがとう。それにしてもよく俺の場所が分かったね」



「……ん、まあ、シュータは分かりやすいから」



「分かりやすい?」



「……それに、ものすごく強い熱が見えた」



「熱?」



「……なんでもない」



 喋りすぎたとばかりにそっぽを向いてしまうアクリ。なんだろう、なんかそういうのを調べられるスキルでも覚えているんだろうか。



「はい、それでは受験生の皆さん、こちらにいる試験官に採取した魔石を確認してもらってください。確認が終わった方から在校生たちがいる奥の広場へ向かってください。お昼ご飯を用意してますので」



「お昼ご飯!」



「……まずは魔石の検査」



「はい」



 二日ぶりのまともなご飯だもん、待ちきれないよね。



「シャバシャバしちゃうね」



「……ソワソワでしょ」



 ……。



 …………。



「はい、次は……アクリさんですね」



「……お願いします」



 ジャラジャラジャラ、と持っていた袋の中から魔石を取り出すアクリ。取り出すって言うか、袋をひっくり返したというか。



「うん、品質はそこまで高くないけど、かなりの量を採掘してきたね」



 魔石の確認をしてくれる試験官は、丸眼鏡をかけた優しそうな男の人だ。白衣のようなものを羽織っていて、なんだか理科の先生みたい。



「アクリが採ったのはこれで全部?」



「……ううん、これは今日採った分。毎日採った分を確認してもらって、別の場所に保管してる」



「アクリさんは合計で大樽2つを満タンにするくらい採ってきてるね」



「すごっ」



 さすが、最初から質より量を狙って採っていただけある。低品質の魔石ばっかりっていっても、それなりに探すの大変だったと思うんだけど、なにかコツがあるのかな。



「はい、確認終了です。お疲れさまでした」



「……ありがとうございました。シュータ、次どうぞ」



 魔石を袋に戻したアクリは、広場に向かう前に俺の確認が終わるのを待っててくれるみたいだ。



「えーと、次は……シュータさんですね」



「はい! よろしくお願いします!」



「シュータさんは魔石の提出は初めてですね」



「はい! 試験始まってからずっと洞窟にいました」



「それはそれは。なかなかにサバイバーですね。さすがDクラスの馬車の……おっと、これは失礼か」



「? Dクラスの馬車だとなにか良くないんですか?」



「いや、そういう訳じゃないんだ。Dクラスの馬車に乗ってる受験生は、シュータさんみたいにスラム暮らしの子も多いから、他の受験生と比べて野宿に慣れてる人が多い傾向にあるってだけさ」



「……たしかに」



 なるほどなあ。冒険者になったら今回みたいに野宿することもあるだろうし、そう考えるとスラム暮らしも冒険者になるための良い経験なのかもしれない。

まあ最近は茶々丸くんの宿屋で寝泊まりしちゃってたから、実は全然サバイバルしてないんだけど。



「それじゃあシュータさんの魔石を……」



「はい!」



 ゴンッ!! ドスン!! ゴトッ!! ガンッ!!



「…………」



「ちょっと事情があってあんまり数が採れなかった、というか残せなかったんですけど……」



「いや、それは全然……むしろかなり大ぶりで高品質の魔石が多いですね。うわっ“堅硬の魔石”だ! すごいなこれ、滅多に見れないんだよ!」



「せ、先生……?」



「はっ! ごめんごめん、僕は普段、学園で魔石の研究をしているんだ。久々にこんな良い魔石が見れてテンション上がっちゃってさ」



「そ、そうですか」



 巨大ダンゴムシから採れた黒い魔石をキラキラした目で見つめる試験官の先生。

学園にはこんな研究者みたいな人もいるのか。ますます興味がわいてきた。



「はい、確認終了です。二人とも、もし合格して学園に通うことになったら、是非とも僕の魔石学を履修してね」



「あ、はい。考えておきます」



「……行けたら行きます」



 アクリのは行かないときの奴だよね。俺は魔石、かっこよくて結構好きだけどなあ。女の子はあんまし興味ないのかも。



「あ、そうだ先生。魔石、かどうかは分からないんですけど、これも見てもらっても良いですか?」



 俺はカバンから石になったにょんきちを取り出す。洞窟から出たら次元収納カバンの機能が使えるようになっていたので、そこに入れておいたのだ。



「ん? どれどれ。……!? こ、これはっ!!」



 先生はまるで信じられない、といった表情を浮かべ、食い入るようににょんきち(石)を見つめる。



「……シュータさん、これはどこで手に入れたんですか?」



「あ、そのー、手に入れたというか……」



 先生に、にょんきちと出会ってからの出来事を説明する。



「……にょんきち、心配だね」



「うん……」



 俺の話を聞いたアクリもにょんきちが気になるようだ。



「シュータさん、このにょんきちさんですが……現在、確かに魔石になっています」



「や、やっぱり……」



「しかしそれだけではないのです。にょんきちさんは魔石化していますが、まだ生きています」



「そ、そうなんですか……!?」



「はい。にょんきちさんはおそらく……成体になる前の準備段階、つまり蛹になっていると思われます」



「えっ……?」



 さ、さなぎ……?

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