第102話 地底湖魔石バイキング



「ふぅ~、ごちそうさまでした!」



「にょ~ん」



「久しぶりにちゃんとしたメシ……ではないけど、魔石よりはマシかな」



 いやダンゴムシなんだけどね。でも海老みたいで美味しかった。

外側の殻は固すぎて俺は食べられなかったんだけど、にょんきちはバリバリ食っていた。

めちゃめちゃ噛む力が強いんだな……足がロケットブーストしたり、のほほんとした見た目のわりに強い魔物なのかもしれない。



「さて、あとはこれなんだけど……」



 巨大ダンゴムシを解体して食べていったら、中から魔石が出てきたのだ。

今までに見たことがない、黒い魔石だ。昨日倒した虫の魔物とは比べ物にならないほど大きくてツヤがある。



「ふっふっふ。これはかなり良い魔石なんじゃないか……?」



 黒か……光陰の魔石の黒い部分とはちょっと違う感じがする。闇の魔石とか?



「黒い魔石、1番かっこいいな」



 うん、やっぱ黒って良いよな……これでリッツさんに何か魔道具を作ってもらおうかな。



「にょんきち、頼むからこれは食わないでくれよ」



「にょん」



「にょんきち?」



 にょんきちがてくてくと広場の壁に向かって歩いていく。どうしたんだろう? こんな美味そうな(?)魔石を食べようとしないなんて……



「……ん? あれっ!? また穴が開いてる!」



 にょんきちの歩く先には、さっきまでは無かった道が出現していた。

出現したというか、アレか。さっきのダンゴムシがハマってたところじゃん。戦うのに夢中で全然気が付かなかったよ。



「にょ~ん」



「あっ待ってよ、にょんきち~!」



 ……。



 …………。



「ここって……池?」



 にょんきちの後を追い、また細い通路を進んでいくと、奥に小さい池のようなものがある空間に出た。地底湖って奴だろうか。湖っていうには小さいけど。



「って、うわあ! 魔石がいっぱいだ!」



 池の底には、ぼんやりと光を放つ魔石が大量に落ちている。大きさもかなりのものだ。



「あれを拾えたらいいんだけど……」



 池の水は澄んでいるけど、底はかなり深そうだ。正直泳ぎは得意じゃないんだよな……。25メートルのプールが限界。



「あんな下まで潜っていけないよなー……ここで溺れたら助けも来ないし」



 どっかで試験官の使い魔とかが見てたりするのかな? でも周りにそれっぽいのは見当たらないし……



「うーん……って、あれ!? にょんきち!?」



「にょ~ぶくぶくぶく」



 俺の隣で池を覗き込んでいたにょんきちが池に飛び込み、どんどん底の方へ潜っていく。



「にょんきち……おまえまさか……」



 もぐもぐもぐもぐ



「あああ~!!」



 にょんきちが底にある魔石を爆食しだした。



「くそう! 素潜り出来るようになっておくんだった!!」



 水底でにょんきちが魔石を爆食いしているのを、俺は指をくわえて見ている事しか出来なかった……



 __ __



「にょっふ」



「お腹いっぱいになったかにょんきち」



「にょん」



「まああれだけ食べればそうだよな」



「にょ……」



 ひょいっ



 満腹になったのか、にょんきちは昨夜と同じように甲羅に引っ込んで動かなくなった。



「はあ、俺も寝ようかな……とりあえずこの黒い魔石だけは死守しないと」



 他にもいくつか採った魔石がまだあるけど、明日の朝になったらにょんきちに食べられてるかもしれない。



「この魔石がAランクとかだったら良いんだけど……明日は……洞窟から脱出、しないとな…………Zzz」



 こうして実技試験2日目の夜は過ぎていったのだった。



 ……。



 …………。



 実技試験3日目。



「ん……Zzz」



「……」



「ん~……もう魔石は食べられない……Zzz」



「……」



「……はっ! 朝! 魔石はっ!?」



「……」



「あれ? 減ってない」



 昨日、寝る前に確認した量とおんなじだ。今朝はにょんきちに食べられてないのか。



「昨日食べ過ぎてお腹いっぱいなのかな……おーい、にょんきちー」



「……」



「……にょんきち?」



 それからしばらく経っても、にょんきちは甲羅に引っ込んだまま、まったく動かなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る