第99話 ウサギとカメとダンゴムシ
「おーい、だれかいますかー? 先生ー?」
…………。
「まじか」
どうしよう、カメみたいなウサギを追っかけてたら全然人気のない所まで来てしまった。
「ええ……なんで誰もいないんだ?」
他の受験生はともかく、試験官の先生も見当たらない。まさか気付かないうちに落とし穴で下の階層に……いや落ちてないけど。
ぐー……
「よし、とりあえずごはんを食べよう」
ここから更に進むにしても、戻る道を探すにしても、まずは栄養補給が大事だからね。
「本日のお料理はこちら! トロール・ベアキングの干し肉~!」
以上、干し肉だけ。ちなみに魔素抜きはしていないので栄養(?)たっぷりだ。
「はぐ、はぐ……うん、美味しい! ちょっと味が濃いけど」
野菜と一緒にパンに挟んで食べると丁度良い塩加減かも。
「でもどうしよう、これ食べたらもうまともな食料が残ってないよ」
カバンの中の食料は、水を入れたビンと木の実が少し。ちなみに次元収納カバンも冷却袋もこの洞窟では効果が発動せず、ただの入れ物になっている。
魔力が吸い取られる魔石洞窟、恐ろしいな……。
「この光ってるキノコも食えるのかな。でもこれ食っちゃったら暗くなっちゃうな……」
洞窟には所々、光るキノコや苔のようなものが生えていて、お陰で懐中電灯とか無くても周りがよく見えるのだ。
「この辺に魔石があれば良かったんだけど」
アクリたちと別れた広場ですら小さい魔石がそこそこあったのに、ここにはそんな魔石も見当たらない。
「このままだと普通に合格すらできないぞ、どうにかして見つけないと」
ゴソゴソ。
「……ん?」
何かが俺のカバンの中身を漁っている。なんだ? ネズミか?
「ちょうどいいや、ネズミなら食べられる……って、あー! お前さっきのウサギ頭のカメ!」
「バリボリ……にょっ?」
「おまえ、カバン漁ってなに食って……ってそれ魔石じゃん!? ダメだって食べちゃ!!」
「にょーん。バリボリ……ごくんっ」
「あ~もう、全部食べちゃったの……?」
ちょっと前に倒した、虫の魔物から取り出した小さい魔石をカバンに入れてたんだけど、たった今すべて食い尽くされてしまった。マジかコイツ。
「にょうん」
「こ、こいつ……!」
なんだかめちゃめちゃバカにされてる気がする。よし、倒そう。油断してる今がチャンスだ。そして魔石部分を外して中身は食べよう。
「……っ! くらえっ怒りのシュータドロップキーック!!」
「にょっ」
ドゴォ!!!!
「ちくしょう、避けられた!!」
カメのクセにめちゃくちゃ動けるんだよなコイツ。
「あーあ、壁に穴開いちゃった」
俺の全力キックを魔物の代わりに受け止めた岩壁が崩壊し、人ひとり通れるくらいの穴が開いてしまった。大丈夫かなこれ、修理代とか請求されないといいな。
……ってかこの先道があるぞ? どっかの通路とつながっちゃったのかな。
「ゴ……ギギィ……」
「って、これ岩壁……? じゃない! 魔物だ!」
俺が蹴り飛ばしたのは岸壁の一部ではなく、全身が岩で覆われた巨大なダンゴムシだった。どうやら壁にぴったしはまるようにして息をひそめていたらしい。
「ギギィ……!!」
「あっ逃げちゃった」
さすが全身岩肌。一撃では倒せなかったみたいだ。
「にょーん」
「あっちょっと待てって!」
ダンゴムシが居なくなり、岸壁に出来た穴、というか隙間の中にカメウサギが入っていく。うーん、カメウサギ……
「にょいん」
「よし、お前のことは“にょんきち”って呼ぶことにしよう」
なんかもう全然倒せそうにないし、道も分からないからコイツに付いて行ってみよう。
「にょんきち、さっき俺の魔石食ったんだから、お礼に良い感じの魔石スポットまで連れてってくれよ」
「にょ」
「うーん、話通じてるのかなー」
こうして、俺とにょんきちの成り行き洞窟探検が始まるのであった。
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