第98話 魔石洞窟
魔石洞窟での実技試験1日目。
「よーし、さっそく魔石採りに向かうぞ! アクリも一緒に行く?」
「……私はごはん食べてから行く」
「そっか」
ぐー……
「俺もそうしよ」
シルクにもらったお弁当は当たり前だけど初日に食べてしまったので、どうしようかなーっと思ってたけど、護衛で来てた先輩たちが洞窟前の広場で料理を作ってくれていたので貰いに行く。
「おうシュータ! 試験の前にメシ食ってくか?」
「ザジク先輩!」
肉の焼けるいい匂いにつられてフラフラ近づいたら、ザジク先輩が何かの肉を串で焼いていた。
「これ、なんの肉?」
「これは“トンベアー”の肉だな。シロが獲ってきたんだ」
「トンベアー?」
ブタなのかクマなのか……洞窟周辺は魔道具が使えないので、また今度すーくんに聞いてみよう。
「ほらよ、焼き立てだ」
「ありがとう!」
「そっちの嬢ちゃんにも。試験頑張れよ!」
「……ん、ありがとうございます」
トンベアーの串焼きは、ちょっとかたいけど食べ応えがあって、結構満足感がある。
でもやっぱ、串焼き屋のおっちゃんの料理のほうが美味かったな……。
「お肉焼くだけでも技術がいるんだなあ」
「ん? なんか言ったか?」
「な、なんでもないです」
……。
…………。
「それじゃあお腹もいっぱいになったし、魔石採取に出かけるぞ~!」
「……おー」
のんきにメシ食ってたら、俺とアクリ以外は既に出発していた。まあ時間はまだまだあるし、余裕をもって行こう。
「なんか、意外と道がちゃんとしてるね」
「……この辺は入り口に近いから」
洞窟の中は、夏真っ盛りだとは思えないほどひんやりしている。しばらく奥へ進むと、他の受験者たちが集まっている広場に出た。
「あ、先生」
試験の説明をしていた先生を見つける。一緒にDクラスの馬車に乗ってた試験官の人は……この辺にはいないみたいだ。
「この辺りでも魔石が採れるんですか?」
「ああ、低ランクのものが多いけど数は採れるよ。この辺は魔物も出ないし、試験官も多いから安全だしね」
「……安全第一」
奥に行けば行くほど高品質の魔石が採れる確率は上がるけど、強い魔物も増えてくる。
場合によっては試験官の先生がいない所で戦闘になってしまうこともあるらしい。
「魔物にやられそうになってたら助けるけど、奥に行けば行くほど危険だ。監視に出してる使い魔より強い魔物がいるかもしれない。試験の申込用紙に書いてあったと思うけど、試験中の魔物との戦闘による負傷や死亡は自己責任だからね」
「そんなこと書いてあったっけ……」
「……確認、大事」
なるほど、だからこの辺にいる受験生たちは品質よりも自分の安全を取っているというわけか。
「俺はもっと奥に行こうと思うんだけど、アクリはどうする?」
「……私は、この辺で探す」
「わかった。それじゃあお互いがんばろうね」
「……ん」
この先が危険だとしても、俺は高品質の魔石を手に入れるために進まなくてはいけない。だって、学食食べ放題が待っているのだから……
__ __
「うーん、ここは……洞窟のどの辺なんだろう」
アクリ達と別れた採掘広場のような場所をいくつか抜けて、更に奥に進む。途中の広場にいる生徒たちや試験官の先生は徐々に少なくなり、ここしばらくは出会ってすらいない。
途中、数匹の魔物を倒したんだけど、ちょっと大きいクモやムカデみたいなやつで、持ってた魔石も石ころみたいなサイズだった。
「さすがにこれはAランクどころか、Cランクも無さそうだよなあ」
そもそも1回先生に確認してもらわないと、品質の判定とかできないんだよね。前の広場までいったん引き返そうかな。
「……ん?」
「……」
ふと横を見ると、背中に大きな結晶のような甲羅が付いている魔物が壁に張り付いていた。
「……カメかな? 頭が引っ込んでるけど」
すーくんが使えれば鑑定出来たんだけどなあ。試しに呼んでみたけど、すーくんは電池が切れてしまったかのように無反応だ。
「……」
魔物はこっちに気付いていないのか、まったく動く気配が無い。もしあの甲羅が魔石なら、かなり高品質なんじゃないだろうか。
「よし……」
おれはジリジリと魔物との距離を縮めていく。
「にょきっ」
「うわっ頭出てきた……って、えっ!? ウサギ!?」
「にょ!?」
びっくりして大きな声を出してしまい、魔物に気付かれた。だってカメかと思ったらウサギの頭が出てきたんだもん……。
「にょーん!!」
「あっ待てっ! この~逃がすか!!」
魔物は思ったよりも素早い動きで、壁を這って逃げている。なんであの動きで逃げ足はやいんだ……
「はあ、はあ……ちっくしょ~見失った!」
瞬足ラビットの革靴も効果が弱まっているのか、いつもよりスピードが出ない。
「きっとアイツの魔石はレアなやつに違いないぞ。次に見つけたら絶対に捕まえてやる! ……って、あれ?」
ここ、どこだ?
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