第97話 実技試験、開始!


「さあ、到着しましたよ。順番に降りてくださいね」



「うーん、やっと着いた!」



 盗賊の襲撃を乗り越え、それからまた2日ほど経過し、遂に試験会場へ到着。



「よいしょっと、さて、一体どんなダンジョンに……って、ここは……」



 馬車が通ってきたであろう、背後の道は木々に囲まれ、これから俺たちが進むと思われる前面は高い岩壁に覆われている。そして壁の中心には、フロランタでも余裕で入れそうな巨大な穴が開いていた。



「……洞窟?」



 後から降りてきたアクリと一緒に、岩壁に開いた大穴を見上げる。



「ここは“魔石洞窟”。今回の実技試験の会場です」



 洞窟型ダンジョン、魔石洞窟。内部では周辺の魔素、魔力を吸収し、魔石が生成されています、と先生が説明する。



「そのため、この洞窟内では魔法も魔道具も使うことができないんだ。更に体内の魔力が徐々に減少していくという、中々に厳しい環境となっていますね」



「うわあ……それはなんというか、魔女泣かせなダンジョンだね」



「今回の試験では、事前の面接により魔法特化の受験生に関しては別の会場へ行ってますので、ここにいるのは、魔力が無くてもそれなりに動ける方が選抜されています」



 なるほどなあ。あれ、でもデミグラくんは前に会ったときに魔法剣を使ってた気がしたんだけど。修行して普通の剣でも戦えるようになったのかな。



「……って、あれ? デミグラくんが見当たらないな」



「……デミグラ?」



「ほら、出発するときにAクラスの馬車から俺を呼んでた人」



「ああ、デミグラ・ハンバーギ君ですか。彼なら昨日王都に戻ったよ」



「えっ!? ど、どうしてですか?」



「なんでも、盗賊に襲われてから馬車の中でパニックになっちゃったらしくて。『僕になにかあったらハンバーギ家が学園を許さないぞー!』とかなんとか騒ぎまして、お連れの方がどこからともなく現れて一緒に帰っていきました」



「そ、それは、試験は大丈夫なんですか?」



「まあ普通に不合格だね。王立学園はその辺り厳しいから」



 お金を払えば試験免除で入れる学校もあるらしいが、王立学園はそういうことに関してはちゃんとしているとのことだ。

どうやらデミグラくんと同級生になる可能性はなくなったらしい。ドンマイ。



「はい、みなさん長旅ご苦労様でした。といってもこれからが本番ですが」



 一人の試験官の男性が洞窟の前に立ち、これからのことについて説明を始める。



「さて、肝心の試験内容ですが、みなさんには洞窟に入り、魔石の採取をしてもらいます」



「魔石の採取?」



「採取用の工具を一振り配布します。魔石は洞窟内の壁や地面に生成されるので、それを採掘するか、魔石を餌とする魔物がいますので、それらを討伐してください」



 魔石を摂取している魔物は、身体の一部が魔石化しており、それらは通常の魔石よりも高品質のものが多いらしい。



「魔石は大きさや品質、種類などによってランク分けされます。合格基準は、“Cランク以上の魔石を一定数採取”すること。高ランクであればあるほど採取数は少なくても良いです。また、Cランク以下の魔石でも採取量によっては合格とします」



 採取した魔石はそのまま自分の物になり、試験が終わった後は自由にして良いらしい。Bランク以上の魔石ならそこそこの値段で売れるとのことだ。

でも俺が目指すのは、ただの合格じゃないんだよね。そう、A級特待生だ。特待生になるにはおそらく、Aランクとか、それ以上の魔石を手に入れなければならないだろう。



「洞窟内部には私たち試験官や、監視用の使い魔を配置していますが、各自好きなタイミングで入り口に戻ってきて休んでください。食料や、休憩できるテントを設置しておきます」



「あれ、なんだ。それなら非常食とか持って来なくてよかったじゃん」



「ただし、洞窟深部にある高品質の魔石を狙うなら、いちいち洞窟の外まで戻っていては手に入りませんがね」



 ……なるほどね。Aランクの魔石や、良い魔石を持ってそうな魔物は洞窟の奥深くにいるってことか。



「中には洞窟内で寝泊まりする人もいると思いますので、こちらを持っていてください」



 先生から渡されたのは、白黒の勾玉が組み合わさったような、小さな丸い石だった。



「“光陰の魔石”です。これで大まかな時間を知ることが出来ます」



 時間によって石の一部が光るようだ。なんというか、大昔の時計みたいだ。



「試験の終了は2日後。明後日のこの時間です。それまでにこの場所に戻って来てくださいね。それではみなさんご武運を……始めっ!!」



 こうして、魔石洞窟での採掘活動と半分サバイバル生活のような実技試験がスタートするのであった。



「ってか薬草採取の知識、全然役に立たないじゃん!」

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