第96話 ファミリアゲイト
「アニキィ~奴ら結構強いですぜ」
「クソッ……ガキばかりで楽勝だと思ったのによ」
「団長! あのDって旗が出てる幌馬車だけ守りが薄いっすよ! ツッコミましょう!」
「よっしゃ! 1台だけでも成果が無いよりはマシだぜ! おうお前ら! 狙いはあのDマークの馬車だ! 捨て身の一点突破だぜ!」
「「「アイアイサー!!」」」
「ファミリアゲイト!!」
パアアアアアアア……
「チィッ! また魔物召還か!」
「構わねえ、突っ込むぞ! 俺たちは泣く子も黙る†漆黒重戦車団摩利支天†だ!」
「命なんか惜しくねえ! うおおおおお!!」
ギイィ……ピシャーン!!
「拙者、参上!」
「なっなんだァ!? 女のガキが出てきたぞ!!」
「魔物じゃねえのか!?」
「シュータよ! ようやく呼んでくれたのう! 拙者は嬉しいのじゃ! で、これはどういう状況じゃ?」
「いや、アイツ背中に羽が生えてるぜ! 魔物だ!!」
「なるほど、賊に襲われておるのか……あの黒馬に乗った連中をどうにかすればよいんじゃな? 任せておけ! 消し炭にしてくれるわ!」
「怯むなお前ら!! このまま突っ込んじまえ!!」
「なに? 馬が可哀想だからそれはやめろ? まったく、仕方がないのう。それじゃあ……“ライトニングプリズン”」
「ヒヒィ~ン!!」
「うわあああああ目がああああああ!!」
__ __
キャンディが魔法を唱えると、こちらに向かってきていた数人の盗賊たちが薄い光の壁に囲まれる。中からはトーヴァと盗賊たちの絶叫が聞こえた。
「な、なんなんだ今の?」
(ライトニングプリズン。“フラッシュ”の最上位魔法。相手は強烈な眼痛に襲われ、一時的に視力を失います)
「な、なるほど……」
光の壁が消えた後には、両目を押さえてうずくまる盗賊や、痛みで失神したトーヴァたちだった。
「ほれお前、今のうちに賊を捕縛せい。トーヴァは使役契約を解除させて逃がしてやるのじゃ。学園の者なら強制解除くらい出来る人間がおるじゃろ」
「えっ、あ、はい……!」
キャンディが近くで立ちすくんでいた魔物使いの生徒に後処理を指示してこちらに戻って来る。そこは自分でやらないんだ。
「お疲れ~」
「おうシュータお疲れじゃ! まあこのくらいなら朝飯前じゃがの」
「…………」
「あっ先生、紹介しますね。俺の使い魔のキャンディです」
「拙者はキャンディじゃ! ライトニング・ヴァンパイアなのじゃ! 主のこと、よろしく頼むぞ」
「あ、その、こちらこそ……」
「こっちはアクリ。一緒に合格目指してがんばってるんだ」
「……あっ、アクリです。キャ、キャンディ様」
「キャンディでよいのじゃ。シュータと仲良くしてやってほしいのじゃ」
「……は、はいっ!」
「…………」
先生はなんか、どうしたんだろう。馬車に乗ってる他の受験者たちと一緒に口をぽかーんとさせて動かなくなっちゃった。
「それにしてもシュータ、おぬしならあれくらいの賊など一人でどうにかできたじゃろ」
「いやそんなわけないじゃん。最初は護衛の先輩たちに任せて様子を見てたんだし。でも先生がファミリアゲイト使ってみろっていうからさ」
「ほう……それはなんでじゃ?」
「なんか、俺にもあの護衛の先輩たちみたいに使い魔がいて、召還魔法も使えるんだ―って言ったら、めっちゃ疑われてさ、そんなに言うなら見せてみろっていうから」
「ほう……?」
「ヒ、ヒィッ」
キャンディがギロリ、と先生をにらみつける。
「……キ、キャンディは、ヴァンパイアなの?」
「うむ! 拙者はヴァンパイアじゃ! あ、ただのヴァンパイアじゃないぞ、なんとライトニング・ヴァンパイアなのじゃ! 日光にも強いのじゃぞ!」
「ライトニング・ヴァンパイア! よくわからないけど、すごい……!!」
「そうじゃろうそうじゃろう!! アクリは素直で良い子じゃな。シルクもこれくらい素直になってくれると良いんじゃが」
キャンディ、なんか嬉しそうだな。
「馬車、そろそろ出発しまーす! 魔物使いの方は使い魔を戻してくださーい!」
「お、そろそろ動き出すみたいじゃな」
「キャンディにも戻ってもらった方がいいのかな? 先生、どうですか?」
「あ、その……お戻りになられていただいても、よろしいでしょうか……」
「うむ、それじゃあ拙者は戻るとしようかの」
「なんかごめんね、これだけの為に呼んじゃって。ファミリアゲイトで戻る?」
「拙者はシュータのためならいつでも駆けつけるぞ。帰りは大丈夫じゃ、いつものひとっ飛びじゃからの」
そういうとキャンディはパチッとウインクをして帰っていった。雷光をまき散らせながら。
「うわっなんだ!? 落雷か!?」
やっぱ今度はファミリアゲイトで帰ってもらおうかな。
「シ、シュータくん……疑ってすまなかった。ファミリアゲイトが使えるどころか、使い魔がヴァンパイアだとは……君は一体何者なんだい?」
「いや、ただの受験者ですけど……信じてもらえてよかったです」
実際、毎年数人は習得していない上級魔法などを使えると嘘をつく受験者がいるらしい。
俺も自分の魔法や使い魔を信じてもらえなくて、少しムキになってしまった。いけないいけない。試験なんだから平常心が大切だ。
「おい、さっきのってライトニングプリズンじゃないか? あんな魔法使えるやつ、ウチのクラスにいたか?」
「なんか、小さい女の子だった気がするけど……」
…………。
「先生」
「なんでしょう?」
「ヴァンパイアを使い魔にしてる生徒って、学園にいますか?」
「私の知る限りではいないと思いますね。魔人族の血を引く魔物は珍しいですから。それに……」
「それに?」
「一部、そういった魔物を嫌う方々もいますので」
「……先生、あの、キャンディのことは」
「そうですね、ここでは秘密にしておきましょうか」
もっとも、受験生がヴァンパイアを召還して盗賊の一部を追い払った、などと私が話しても信じてもらえないでしょうけど。と先生は笑った。
「……シュータ」
「あ、アクリ」
「……キャンディのこと、聞かせてくれるよね?」
「えっ? いやでも、もうすぐ会場に着くかもだし」
「ふふ、多分もうしばらくかかりますよ」
せ、先生……
「……シュータ」
「はあ、わかったよ」
こうして俺は試験会場に付くまでの間、キャンディの事についてアクリから質問攻めの刑に処されたのであった。
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