第95話 盗賊団、襲撃



 試験会場へ向かう馬車に乗り込んで数時間が経っただろうか。

未だに行き先を知らされず、平坦な街道を走り続けている。南の街道方面にはザルティス湖と、さっちゃんと出会った森くらいしか行ったことないから、おそらく俺の知らないダンジョンに向かっているのだろう。



「ってか、南の街道に集合した時点で大魔樹の庭には行かないよな。ガックシ」



「……大魔樹の庭?」



「アクリは行ったことある?」



「……ないけど」



「東の街道の先にある、大きな魔樹が生えてる森だよ。薬草に詳しい魔女が住んでるんだ」



「……魔女」



 そういえば、この間スラムの市場で通信魔法が受信できる魔道具が売っているのを見かけたんだけど、高すぎて全然買えそうになかった。

あれが手に入れば、『大魔樹グランデ様のぐらっとラヂオ☆』が聴けるんだけどなあ。



「……ッ!!」



「ん? どうしたのアクリ?」



 今までほとんど身じろぎをせず、静かに座っていたアクリが突然立ち上がる。



「……敵、こっちに向かってきてる」



「えっ? て、敵……?」



「……多分、盗賊。数は、10人。トーヴァに乗ってる」



「な、なんで分かるのさ? 外見えないのに」



「……魔法」



 どうやらアクリは魔法で外の状況が分かるらしい。感知系の魔法? すごいな。



 ガッコン! と馬車が急ブレーキを踏む。



「……っ」



「うわっ……っと! 大丈夫アクリ?」



「……ん、ありがと」



 立ち上がっていたアクリが倒れ掛かってきたので慌てて支える。



「あれ? アクリ、その目……」



「ッ!!」



 一瞬前髪が乱れ、普段は隠れているアクリの目が見えたんだけど、なんというか、人の目じゃなくて……ネコの目? みたいな感じだった……。



「……見た?」



 すぐに両手で髪を押さえ、こちらを見上げるアクリ。な、なんか見られたくなかったっぽいな。



「見てないよ、なにも」



「……ウソ」



「ほ、ほら、今はとりあえず、何が起こったのか確認しなきゃ!」



「…………」



 __ __



 馬車を覆っている幌の隙間から外の様子を確認する。一緒に乗っている受験者たちは、怯えていたり、他の受験者をなだめていたり、俺と同じように外を覗いていたり。

同乗している試験官の先生からは外に出ないように言われたので、今のところはここでおとなしくしていよう。



「うわ、なんだあのでっかいトーヴァ! かっこいーな!」



 普通のトーヴァの3倍くらいある巨大なトーヴァに乗った人たちが、俺たちの馬車を囲んでいる。



「あれは“ブラック・トーヴァ”だね。スピードはそこまで出ないが、頑丈で力が強い。単騎で突っ込んできたら家だって木っ端微塵にできる」



「ええ……」



 試験官の先生がニコニコと説明してくれる。この状況でも何故か余裕そうだ。



「あいつらは何なんですか?」



「この辺りを根城にしている盗賊だね。名前は確か……†漆黒重戦車団摩利支天†」



「しっこくじゅう……え、なんて?」



「……しっこくじゅうせんしゃだん、まりしてん」



 なるほど……?



「でも、大丈夫なんですか? このままじゃ襲われて……あ、もしかしてあいつらを倒すのが試験とか?」



「あはは、違う違う、アレはたまたま襲いかかってきた哀れな盗賊さ。それにほら、ウチには優秀な護衛が付いてるから」



「……護衛?」



「ファミリアゲイト!」



 パアアアアアアア……



「な、なんだ!?」



 突然、俺たちが乗っている馬車と盗賊たちの間に巨大な扉が出現する。



 ギイィ……



「わん!」



「わおーん!」



「ばうばう!」



「あれっ!? シロだ!」



 扉が開き中からは巨大な三つ首の白い犬……スノー・ケルベロスが現れた。



「よおし! いくぜシロ!」



「ザジク先輩!」



 シロに乗って盗賊に突撃するザジク先輩。他にも巨大なトカゲやゾウの魔物が出現し、それを使役しているであろう、学園の生徒たちが盗賊に向かって攻撃を仕掛けている。

魔物を召還しないで、カリバーンにいちゃんが使ってたような巨大な剣で戦っている人もいる。



「今回の実技試験の護衛を請け負ってくれた、学園の最上級生、それも成績上位のAクラスの方々です。そこいらの盗賊には負けませんよ」



 実際、盗賊たち……なんだっけ、漆黒のジューシーマリネだっけ。そいつらはかなり苦戦しているようだ。



「それにしても、ファミリアゲイトってあんな感じで使い魔を呼べるんだ。かっこいいな……」



「ははは、君も将来、魔物と契約したらどうですか。といっても、使役ではなく使い魔契約をしないといけませんし、A級魔法ですからなかなか習得するのも大変ですがね」



「あっいえ、俺、実はあの魔法覚えてるんですよ」



「へ? もう覚えてる?」



「はい。でもいつも使い魔の方から来てくれるから、発動したことなくって」



「来てくれる……? ま、まさかそんな。相当知能の高い魔物でない限りありえないでしょう」



 知能はめちゃめちゃ高い気がする。人間より長生きだし。



「……あ、もしかして試験結果でプラスにしてもらうための嘘ですね? それは良くありませんよ」



「いや、全然嘘じゃないですけど……」



「それなら君も是非、使い魔を召還して盗賊と戦ってくれませんか?」



「え、良いんですか?」



 あ、でもここでヴァンパイアを呼んじゃうのは大丈夫なのかな……



「ええもちろん。出来るものならどうぞやってみてください。あ、無理でも別に構いませんよ。今なら聞かなかったことにしておきますので」



「…………」



「……シュータ?」



 よし、やるか。

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