第94話 実技試験のご案内
「集合場所は……南の街道?」
王立学園の筆記試験から2日後。ブラック・ラクーンの里周辺に仕掛けてある罠の強化を手伝っていたところ、紙で折った鳥のようなものが1枚、パタパタと俺の元へ飛んできた。
紙をひらくと、中身は王立学園からの実技試験の案内状で、そこには『3日後の朝、数日野宿できる準備で南の街道へ来るように』と記されていた。
「まさかブラック・ラクーンの里まで連絡が届くとは……さすが王立学園」
いや届かなかったら俺が試験行けなくて困るだけなんだけど。
「街道で試験をやるのだ?」
「いや、多分ここに集まってから、試験会場に馬車かなんかで移動するんだと思う」
移動先はどこかのダンジョンか、はたまた冒険者が待ち構える学園の闘技場か……いやでも学園なら普通に学園集合にするよな。じゃあやっぱ少し離れたダンジョンにでも行くのかな。
「これはもしや、大魔樹の庭で薬草採取の試験になる可能性も……そしたら大楽勝……A級特待生で学食フリー……じゅるり」
「シュータくん、よだれ出てるのだ」
「おっと」
いかんいかん、まあでも、あとで薬草図鑑でも見直しておこうかな。
「それで、この設置されてる魔石に魔力を流していけば良いんだよね?」
「そうなのだ。そしたら繋がってる鉄線に雷撃効果が付与されるのだ」
ブラック・ラクーンの里では、先日のトロール・ベアキングの襲撃を受けて、今まで仕掛けてあった落とし穴の他に追加して、触れると電撃が発生する、いわゆる害獣対策の電気柵のような物を設置することになった。
里をぐるっと1周する柵の途中途中にある、雷の魔石を使った魔道具に、更に俺の魔力を込めていく。そうすることで、魔道具から鉄線に強力な電撃が流れ、触れた魔物を感電させるというわけだ。
「……串刺しの落とし穴作ったり、電気柵作ったり、ブラック・ラクーン達、意外とやることえげつないね」
「食料も手に入って一石二熊なのだ」
「一石二鳥だよ」
あとこれ石どころじゃないから。
__ __
学園の案内状を貰った3日後の朝。
「それじゃあ試験、行ってくるね」
「忘れ物は無い? お弁当持った?」
「うん、お昼ご飯作ってくれてありがとうシルク」
「案内状も忘れてない? 水も持った?」
「大丈夫。薬草図鑑も入ってる」
「携帯用の保存食は? あと非常用の木の実と……」
「だ、大丈夫だって! いざとなったら現地採取するから!」
いやシルクめちゃめちゃ心配してくるじゃん。しかも食べ物のことばっかり。
「うふふ~シルクったらもう、シュータくんのお母さんみたいだね~」
「リネン姉さん! どっちかっていったらシュータのお姉さんなんだけど?」
いやどっちでもないけど……。
「シュータ、頑張って来いよ! お前ならドラゴンが相手だろうと、凄腕の冒険者が相手だろうと、余裕でぶっ倒して合格できるって信じてるぜ!」
「うん! 稽古つけてくれてありがとうカリバーンにいちゃん!」
こうして俺は、温かい(?)声援に見送られて南の街道へと向かうのだった。
……。
…………。
「着いた!」
というわけで、到着しました。南の街道。徒歩15分くらい。だってここ、王都のすぐ外だし。
「おっきい馬車が、1、2、3……8台もある」
受験者が乗るのと、学園の試験監督用と、あとは食料とかかな?
「はい、シュータ・ブラックボーン君ですね、おはようございます。君は……あのDの旗が付いている馬車に乗ってください」
「はい」
言われた馬車に向かうと、既に数人の受験者が集まっていた。みんな筆記試験の時にいたような気がする……クラス分けはあの時と一緒か。
「……シュータおはよ」
「うわっ! って、アクリか。おはよう」
いきなり背後から至近距離で話しかけてくるのやめてくれないかな。
「アクリも実技試験、同じところなんだ」
「……そうみたい。簡単なのが良いな」
「お互い、がんばろうね」
「……ん。そういえば、Aクラスの馬車からシュータを呼んでる人がいる」
「ん?」
「おい庶民! まさか同じ実技になるとはな! 絶対に僕の方が良い成績を取ってやるからな!」
「はい君、静かにね。減点しちゃうよ」
……デミグラくんじゃん。一緒の試験だったんだ。今回はお付きの人はいないみたいだけど、大丈夫かな。
「あれはまあ、気にしなくて良いよ」
「……そうね」
「皆さん集合しましたね。それでは馬車に乗ってください。これから試験会場まで移動します。数日後、全員無事でこの場所に戻って来れることを期待していますよ」
え、なにそれこわいんだけど。
「……実技試験、スタートね」
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