第92話 お昼休憩とでっかい犬
「ふぃ~、終わった終わった」
王立学園の入学試験1日目、筆記試験を無事に切り抜けた俺は、学園の食堂でお昼ごはんを食べていた。
「筆記はまあ、正直……余裕かな。あ、このコンポタージュみたいなスープ美味しい」
事前の情報通り、参考書に乗っていた問題がかなり多く出題されていた。あっこれ、進〇ゼミでやったところだ! 状態である。
「さすが“ファットモンキーでも分かる! 王立学園入試問題集!”だな。3500エルも払った甲斐があった」
「……ファットモンキー」
「うわっ! ……って、アクリか」
「……ども」
いつの間にか隣にアクリが座っていた。チョコレートケーキみたいなお菓子を食べている。
「あ、それいいな」
「……あげないよ」
「いや、べつにいいけど……」
「……でも、さっきのこと教えてくれたらあげてもいい」
「さっきのこと?」
「……竜人族」
「あー……」
まだ覚えてたか。
「いや、あれは言い間違いっていうか、リュー・ジンゾクっていう知り合いの人の話っていうか」
「……竜人族」
だめだー。全然ごまかされてくれない。
「……竜人族の話じゃなくてもいい。魔人族に関係する話。なにか知らない?」
「魔人族……アクリは魔人族の存在を信じてるの?」
「……魔人族は存在した。だってアクリの家は……いや、なんでもない」
「?」
相変わらずの長い髪でアクリの表情はよくわからないけど、どうやら茶化してるとかではなさそうだ。
いやでもなあ……王都だと魔人は大昔の人間の敵、みたいな感じの伝説が一般的だから、こんな所で気軽に話していいのかどうか分からない。
学園の人に聞かれたら、危険な人扱いされてアクリ共々試験落とされちゃうかも……それは避けないと。
「よし、それじゃあこうしよう。俺とアクリが無事、王立学園の試験に合格して入学出来たら、俺が知ってることをアクリに話すよ」
「……やっぱりなにか知ってるんだ」
「う……簡単には話せないんだよ」
あとでキャンディにも聞いてみるか。いざとなったらファミリアゲイトを使って呼んでみるとか……ここじゃあダメだけど。
「……合格したら話す。約束」
「うん、お互いがんばろう」
__ __
昼食を終え、この後の面接試験までは学園内を自由に散策して良いとのことだった。
教室に戻っても良いんだけど、気晴らしに少し学園の中を散歩しよう。
「Dクラスは1番最後か……」
番号札には魔法がかけられていて、自分の番号の下に、今面接をしている人のクラスと番号が赤く浮かび上がっている。
「それにしても、面接って何を話せばいいんだろう」
カリバーンからは筆記と実技って聞いてたから、他に何かやるなんて思わなかった。なんかちょっと緊張してきたな。
「わん!」
「……ん?」
今、犬の鳴き声が聞こえた気が……
「わん!」
「わおーん!」
「やっぱり! あっちの方かな」
学園で飼ってるのかな? ちょっと見に行ってみよう。
「わん!」
「わおーん!」
「ばうばう!」
「って、うわぁっ!! 頭が3つある!! ま、魔物!?」
向かった先にいたのは、3つの頭を持つ真っ白のでっかい犬? だった。てっきり数匹の犬が遊んでるのかと……
(スノー・ケルベロス。雪山に生息する三つ首の魔物です)
「ケ、ケルベロス!? なんでこんなところに魔物が……って、男の人が襲われてる!?」
スノーケルベロスの前に背の高い男性が1人立っている。ま、まずい……!!
「……ん? おーおー珍しいじゃねえかこんな所に! 学園生か? いや見ない顔だな……あっそうか、今日は入試か!」
「へ?」
男の人はスノーケルベロスの真ん中の頭をグリグリ撫でると、こっちへやってきた。だ、大丈夫なのか……?
「ま、魔物に襲われてたんじゃ……」
「カッハッハ! そうか、初見だとそう見えるよな! 問題ねえよ、コイツはオレの契約してる使い魔のシロだ」
「わん!」
「わおーん!」
「ばうばう!」
男の人がシロを呼ぶと元気いっぱいに走り寄ってきた。あ、ぶつかって男の人が吹っ飛んだ。
「だ、大丈夫なの!?」
「問題ねえ……ちょっとスキンシップが激しいだけだ」
いやまあまあダメージ受けてそうだけど。
「自己紹介が遅れたな。オレは魔物使いのザジク。ここの2年だ。まあ、秋季からは3年生だがな」
「俺はシュータ。秋からここの1年生……になる予定!」
「カッハッハ! 自信があって結構!」
そっか、魔物使いの生徒もいるんだ。じゃあさっちゃんとか連れてきても大丈夫かな? さすがにドラゴンはダメかな……
「ザジク先輩はここで何やってたの?」
「ああ、ちょっとシロに水浴びをな」
そう言うと、ザジク先輩は水魔法を使ってシロに水をかけ始めた。シロも楽しそうだ。
「コイツはスノー・ケルベロスっていう、寒い地方出身の魔物だから、暑いのが苦手なんだ。本当は氷魔法で雪でも降らせてあげられれば良いんだが、オレは水魔法しか使えなくてな」
たしかに、モフモフの毛皮に夏の日差しはきつそうだ。
「あ、そういえばカバンの中に……あった!」
フロランタから貰った冷却機能の付いた袋の中から、カチコチに凍った魚を取り出す。
「これ、シロは食べるかな?」
「わん!!!!」
「わおーん!!!!」
「ばうばう!!!!」
「あ、ああ。シロなら喜んで食ってくれると思うぜ。貰っていいのか?」
「うん。アイス代わりじゃないけど、ちょっとは涼しくなるかなーって思って」
シロに凍ったままの魚をあげると、嬉しそうにバクバク……というかガリゴリと食べだした。
「めちゃくちゃ喜んでるぜ。いやーありがとうなシュータ!!」
「どういたしまして! ……あっそろそろ面接の時間だ。じゃあまたねーザジク先輩! シロ!」
「おう! 入学したらお礼に学食奢ってやるから! 絶対合格しろよ!」
「わん!」
「わおーん!」
「ばうばう!」
犬? と触れ合って緊張もほぐれてきた。さーて、面接もがんばるぞ!
「絶対に学食奢ってもらうぞー!!」
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