第91話 入学試験、開始!



 「ついにこの日がやってきた……」



 待ちに待った、王立冒険者育成学園、通称「王立学園」の入学試験日である。

俺が冒険者になるためには、まずはこの入学試験に合格しなければいけない。



「よーし、絶対合格してやるぜ!」



 入学試験初日の今日は最初に筆記試験、その後に面接があるらしい。試験会場は、合格したら実際に通うことになる王立学園で行われる。というわけで、俺は中層区の南西にある学園へとやってきていた。



「相変わらずでっかいなあ。東京ドーム何個分だろう」



 入学試験の申し込みをするために1度来たことがあるんだけど、王立学園の敷地はかなり広い。まるで王都の中にもうひとつ国があるみたいだ。

いや、ちょっと盛ったかも。さすがにそんなでかくないな。ちょっと広めの村くらい。



「えーと、受付は……」



「ああ~!! 庶民!!」



「あ、あっちか。すいませーん、今日試験受けに来た」



「まてまてまて~!!」



「……ん?」



 いきなり肩を掴まれる。なんだろう、急いでるんだけど……



「……あ!」



「思い出したか庶民! 僕はハンバーギ家の次期当主、デミ」



「君、どっかで会ったことあったっけ?」



「デミグラ様だ! デミグラ・ハンバーギだ!」



「……えっ!? デミグラくん!?」



 なんと、俺に話しかけてきた少年は以前戦った貴族のデミグラくんだった。全然気づかなかったぞ。だって……



「なんか見た目違くない? めっちゃシュッとしてるじゃん! 前はもっと……その、トンホーンの塩漬けみたいな」



「誰がトンホーンハムだって!?」



「ブフッ……!」



「じ、自覚が、おありで……」



 お付きの二人がめちゃくちゃ笑いをこらえている。あ、この人たちは見覚えあるぞ。じゃあやっぱデミグラくんかあ。



「おまえら笑うなっ! いいか庶民、僕は庶民の知らない所で、過酷な修行をしてきたんだ! 次は絶対にメッタメタのギッタギタにしてやるからな!」



「坊っちゃんはシュータ様に惨めに敗北した後、父であるご当主様にバチクソ叱られまして」



「いくら装備が良くても、使う人間が修行を怠ればただの重りになってしまうと。あとその体たらくで魔物討伐は無理だろ、と」



「なかなか厳しいお父さんだね」



 お付きの二人の話によると、デミグラくんのお父さんは、母親に甘やかされて傍若無人に育ってしまった彼に少し手を焼いていたらしい。

俺に負けて意気消沈しているのを見て、今がチャンスとばかりに、母親にバレないように気合いを入れて稽古をつけてあげたのだとか。



「ただまあ結局、坊っちゃんが痩せて筋肉も付き始めた頃に奥様にバレまして。最近、また甘やかされて少しリバウンドしてきたんですよね」



「ご当主様は奥様には勝てませんので、いっそのこと、まだかろうじてやる気が残っているうちに王立学園の寮にでも入れてしまおうと」



「そうなんだ」



 うーん、貴族も大変なんだな。



「今なら試験がドラゴン討伐でも合格できる自信しかないね! まあそれじゃあ僕以外全員落ちちゃうか! ガッハッハッハ!」



 デミグラくんは高笑いをしながら会場へ向かっていった。あ、お付きの人が手振ってる。ばいばーい。



「なんか、すごいな。よくあんなに自信が持てるよね」



 でも正直、あれくらいポジティブな気持ちで試験に挑むほうが良いのかもしれない。ちょっとだけ羨ましい。



「おっと、俺もはやく受付済ませなきゃ」



 __ __



「試験会場はD……ここか」



 受付で貰った番号札に書かれている教室へ。中に入ると、数十人の受験者が待機している。同年代の子がこんなに集まってるのを見るのは小学校以来だ。



「うーん、デミグラくんは別のクラスか」



 教室にいたら目立ちそうなものだけど、どうやらDクラスにはいないみたいだ。というか、教室内にはデミグラ君のような貴族っぽい感じの子は見当たらない。

それどころか、服装などを見るに、みんな下層区の子供みたいだ。スラムで見かけたことがあるような、ないような……そんな子もいる。



「俺の席はっと……ここか。あ、よろしくね」



「……よろしく」



 隣の席のひと、前髪が長すぎて表情が分からない。



「俺はシュータ。君の名前は……貞子?」



「……は?」



「ごめん。なんでもない」



「……アクリ」



「え?」



「……名前、アクリ」



「アクリか、うん、それじゃあよろしくアクリ。お互い頑張ろう」



「……ん」



 ガラガラッ ゴン!



「いてて……あ、どうもね……みなさんは教室入るとき頭ぶつけませんでした? あ、ぶつけてない? ならよかったね……」



「ええ……」



 なんか2mくらいある試験官? の人が教室の入り口にぶつかりながら入ってきた。で、でかい。



「でもフロランタの方が全然おっきかったかな。やっぱ竜人族は特別……」



「竜人!?」



「うわっ!?」



「……あ、な、なんでもない」



 アクリがものすごい速度で顔を寄せてきてびっくりしちゃった。てか危ない危ない、竜人族の話とか秘密にしてたんだった。気を付けないと。



「はい、そこ静かにね……」



「すいませーん」



 いかんいかん、気合いを入れ直そう。



「それじゃあこれから……王立冒険者育成学園、筆記試験を始めるね……」



 試験、開始……ッ!!

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