5章 魔石洞窟 編

第90話 12才になりました。



「うーん、朝からこの暑さ…もうすっかり夏だなあ」



 黒保根修汰、もといシュータ・ブラックボーン、異世界2年目の夏を迎えました。



「去年の今頃は何してたんだっけ……ああそうだ、たしか魔獣の森でリフレックスを倒すために色々やってたような……」



 そういえば、しばらくきゅーたろうに会ってない気がする。元気にしてるだろうか。



「今度久々に行ってみようかな? まあ、でもその前に試験を頑張らないと」



 春季の終わりごろに無事、王立冒険者育成学園の入学試験申し込みを終えたので、あとは今季に行われる試験を受けるまで準備を整えるだけ。



「そして試験に満点合格して、A級特待生になって、学食食べ放題……うへへ」



 王立学園はどんなごはんが出るんだろう。今から楽しみだ。



「あ、いたいた。シュータ!」



「デーミデミデミ、デミグラス~ハンバーグが食べたいな~っと、ん? げぇっ! シ、シルク」



「ちょっと、なによその反応は。失礼しちゃうわね」



 まだ地獄のモフモフ撮影会の傷が癒えてないんだよ……



「もうすっかり夏ね。ねえシュータ」



「そうだね。もう毎日暑くて仕方ないよね。だからモフモフの毛皮なんか身に着けてたら死んじゃうよね」



「え? ええ……そうかもしれないわね」



「……あれ? また俺を魔人化させて転写機で撮りまくるつもりじゃなかったの?」



「なっ!? ち、違うわよ!」



 違ったみたい。身構えて損した。



「今日はこれをシュータに渡したくて……」



「これって……お菓子?」



 シルクから手渡された袋を開けると、甘い香りがふわっと立ち込める、袋の中には色とりどりの焼き菓子が入っていた。



「シュータ、今日誕生日でしょ。だからプレゼントよ。お菓子焼いてみたの」



「誕生日……そっか、俺今日誕生日だ! これ食べていい?」



「忘れてたの? ふふ、シュータらしいわね。どうぞ」



「いただきまーす! サク……ん! 甘くておいし~!」



 今日は夏季の6日、つまり俺の12才の誕生日だった。ちょっと前までは覚えてたんだけどなー、最近色々あって忘れちゃってた。主にモフモフ撮影会とか。



「誕生日おめでとう、シュータ」



「うん、ありがとうシルク! ……そういえば俺、シルクの誕生日って知らないや。いつなの?」



 こんなに美味しいお菓子を貰ってしまったからには、なにかお返しをしないと。



「シルクの誕生日は冬季の1日よ」



「冬季の1日……去年はたしか……」



「シュータがドラゴンに攫われていなかった時よ」



 あーそうか、ちょうど雷鳴渓谷でさっちゃんやフロランタ達と暮らしてたときだ。



「今年はちゃんと王都に居なさいよ」



「うん!」



 __ __



「リッツさん、こんにちわー」



「シュータか、よく来たの」



「風の噂で、頼んでた装備品が完成したって聞いてさ」



「確かにちょうど完成したのじゃが……なんじゃ、監視の魔法でも使ってるわけではあるまいな」



「使ってないよそんなん」



 ちなみに完成を知らせてくれたのは風の噂っていうか、すーくんからだ。



 (リッツ様の平均製作時間から予想しました)



 この鑑定魔道具、優秀過ぎるな……まあ作った人が目の前にいるんだけど。



「ほれ、まずはこれじゃな……新しいナックルじゃ」



「おおー……なんか、金属で出来たゴツい手袋って感じ」



「“インドラナックル”じゃ。シュータは雷系統の魔法と相性が良いからの」



 “インドラガンド”という、電撃を放つミズヘビの魔物の鱗を素材にしていて、魔力を込めることで、電撃補整によりかなりのスピードと威力が出せるらしい。



「相性が良くないとただ魔力を消耗するだけになるんじゃが、シュータなら使いこなせるじゃろうて」



 インドラガンドは希少な魔物で、しかもかなり強いらしく、俺から預かった資金は、ほとんどこのインドラナックルの素材を手に入れるのに費やしたそうだ。



「あれ? 防具の製作資金は?」



「そっちはほれ、おぬしから素材を貰っておったからの」



「あ、それじゃあ使ってくれたんだ。トロール・ベアキングの毛皮」



 実はトロール・ベアキングを倒した時に、ブラック・ラクーン達が鞣した毛皮を茶々丸くん経由で貰っていたのだ。

商業ギルドで売っても良かったんだけど、あの鬼耐久の魔物の毛皮だし、何かに使えるかと思って、装備品をお願いするときにリッツさんに託していたんだよね。



「というわけでほれ、“ベアキングプロテクター”じゃ」



「めっちゃそのまま!」



 名称に素材の味を生かしまくってる。



「普通のトロール・ベアの毛皮は扱ったことがあるんじゃが、コイツはそれとは比べ物にならんほど加工がしにくくての。丈夫すぎる素材も考えものじゃな」



 ベアキングプロテクターはいくつかのパーツに分かれていて、服というよりも、急所をピンポイントでガードする感じの防具だ。

鎧みたいに動きを制限されないので、俺の戦い方的にはこっちの方が良いかも。



「武器も防具もとっても良い感じ。リッツさん、素敵な装備品をありがとう!」



「入学試験、頑張るんじゃぞ」



「うん!」

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