第89話 100万エルの使い道



「リッツさーん、いるー?」



 トーヴァレースで1万エルを100倍に増やすことに成功した翌日、俺は魔道具を作っているリッツさんの工房へやってきた。



「おーなんじゃ、シュータか?」



「シュータだよ。ちょっとリッツさんにお願いがあってさ」



 ガチャン!!



「ここに100万エルあります」



「お、おう。いきなりなんじゃ、大金持ってきおってからに」



「昨日トーヴァレースで勝ってさ」



「ほう、その若さでトーヴァレースに手を出すとは……将来が心配じゃな」



 あの雰囲気は嫌いじゃなかったんだけど、みんな目がちょっと……怖いんだよね。



「知り合いの早馬便の人がレースに飛び入り参加してたから応援でやってみただけだよ」



「最初はみんなそう言うんじゃ、最初は。それで、その金を持ってきたってことは、ワシに何か作って欲しいものでもあるのかの」



「うん、このお金でリッツさんに俺の武器と防具を作ってほしくて」



「なるほどの。たしかに以前作った魔撃ナックルは特殊武器じゃからなあ」



 あれはリフレックス対策で作ってもらったやつだからな。まあ他にも結構使えてるんだけど。デミグラ君とか。



「上限はここにある100万エルで、今回は普通に物理攻撃の威力を上げるナックルと、防具は……そうだなあ、軽くて動きやすいヤツがいいかも。あとはリッツさんに任せるよ」



「貴族みたいな金の使い方じゃの」



「そうかな?」



 毎日お任せで100万エルくらいのコース料理とか食べてるのかな。よく分かんないけど。



「まあ、ワシはこういう依頼のほうが好きに作れるから気に入っておるがな。シュータの戦い方に合った武具を作ってやるから、楽しみに待っておれ」



「うん! あっそうだ、これ、防具の素材に使えたりしないかな」



「む、なんじゃ? これは……」



「クマの毛皮だよ」



 __ __



「あ、1万エルくらい残しといて何か高級な料理とか食べに行けばよかったかなー……まあいいか」



 ……高級料理について考えてたらなんだかお腹が空いてきた。おっちゃんの串焼きでも買いにいこうかな。



「シュータ! やっとみつけた」



「……ん? あれ、シルクじゃん。どうしたの?」



 俺の住処があるスラムの方からシルクが歩いてきた。日光が眩しいのか、俺があげたグラサンをかけている。なんかセレブの娘みたいでカッコいいな。あれが貴族か。



「シュータのアジトに行ったけど居なかったから探しちゃったわ」



「ちょっとリッツさんの工房に行ってたんだ。俺に何か用だった?」



「うん。シュータって今時間ある?」



「ん? まあ用事は済ませたから、今日はもうヒマかな。ごはん食べに行こうと思ってた」



「よし! じゃあシルクがごはん作ってあげるから、シルクの部屋に来ない?」



「シルクの料理!? 行く行く!」



「……よし」



 ……。



 …………。



「ふう、おなかいっぱい。ごちそうさま~!」



「美味しかった?」



「めっちゃ美味かった! シルクはやっぱり料理上手だね」



 教会にあるシルクの部屋にお呼ばれして、美味しい手料理をご馳走してもらった。



「すこしずつ料理の勉強をしてるの。前はブラッドスープしか作れなかったけど、少しレパートリーが増えたのよ」



「シルクも頑張ってるんだね」



 是非ともこのまま料理上手になって色々ご馳走してもらいたい。



「……それで、ちょっとシュータにお願いがあって」



「お願い?」



「これなんだけど」



「これは……なにこれ?」



 シルクが取り出したのは、大きなレンズのようなものが付いた四角い謎の物体。



「これは“転写機”っていって、写したいものに向けて魔力を込めると、こっちの転写紙にその映像が描き出される魔道具よ」



「へーすごいね!」



 まるでカメラみたいだ!



「それで、あの、これでシュータを写したいんだけど……いい?」



「えっ俺を撮ってくれるの!? やったー! もちろん良いよ!」



「それじゃあ、その……魔人化してくれる?」



「魔人化ね、オッケーオッケー! ……ん? 魔人化?」



 な、なんかちょっと良くない流れかもしれない……



「魔人化したモフモフのシュータを写したいの」



「いや、魔人化はちょっと……」



「シルクの料理、美味しかった?」



「う、うん。いや、それとこれとは」



「この転写機ね、シルクが頑張って働いて貯めてたお金で買ったのよ」



「そ、それは偉いね」



「モフモフ。転写。おねがい」



「…………はい」



 こうして、再びモフモフのケモノモードになった俺は、シルク監督の気が済むまで撮影に付き合わされ、その後、元に戻ることを嫌がる監督の説得に時間を費やし、1日を終えたのであった。





 __ __





 まさか修汰くんがあんなモフモフの姿になっちゃうなんて……ワタシもモフモフしたい! ワタシもモフモフしたいの!

モフモフ修汰くん吸いをすればあと1万年は健康に生きられる気がするの。



 あ、シルクちゃんが部屋にモフモフ修汰くんを転写した紙を飾りまくってるの。ちょっと怖いの。



 それはさておき、色々あった第4章、完! 修汰くんの転生ライフはまだまだこれからだ! って感じなの。



 次章……遂に冒険者学校の入学試験が始まるの。修汰くんの修行の成果はいかに……?

って、あれ? 実技試験の会場は洞窟ダンジョン? 薬草は生えてない?

い、一体どうなっちゃうなの……!?

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