第88話 チキチキトーヴァ猛レース


 パパパパッパ♪ パパパパーン♪ 



 壮大なファンファーレが鳴り響くトーヴァレース場。



「さあ間もなく本日のメインレース、第108回バイキング杯が始まります。会場はものすごい盛り上がりです」



「うおおおおお!!」



「きたきたきた!!」



「ここで今日の負けを取り返すぜえ……!!」



「バイキング杯は出走するトーヴァの戦績およびランクは関係なし、レース場所属以外の乗り手及びトーヴァも参加可能、しかしコースは柵や側溝水路などの障害ありの長距離、という非常にフリーダムかつ過酷なレースとなっており……」



「シュータ、レース券買ったか?」



「うん、一応……」



 レース券とは、トーヴァレースの順位を予想してお金を賭けたものだ。予想方法によっていくつか種類があり、1着のみを予想する券や、1~3着の順位を当てる券など。

複雑な物ほど当たったときに貰えるお金は多いけど、まあ俺はそんなのわからないから、シンプルに1着を予想する券を買った。



「何買ったんだ? っていってもまあ、シュータはアレだろ、ジェゼさんの馬」



「うん、18番の……ミスインフェルノ」



 てかジェゼさんのトーヴァ、名前めちゃくちゃカッコ良いな。



「まあ、そうだろうとは思ったけどよ……最下位人気だぜ?」



「なんで人気ないんだろうね」



 そう、ジェゼさんのトーヴァは現在の優勝予想で最下位人気だった。あんなに速いのになあ。



「仕方がねえ、周りのトーヴァ達よりふた回りくらい小さいからな、まるで大人と子供だぜ」



「大きい方が速いの?」



「一概にそうとは言えねえんだが……」



 とりあえず1万エル分買ってみた。ミスインフェルノが勝ったら、この1万エルが100万エルになるらしい。



「100万エルかあ。新しい装備品でも買おうかなあ」



「最下位人気の券を買っといてよくそんな自信持てるな」



 男のロマンだからね。



 __ __



「さあ、レースに出走するトーヴァ達が姿を現しました! ここからはゲストで来ていただいたトーヴァレース予想家の方に解説をお願いしています」



「どうも~。予想家のリネンで~す」



「えっリネンさん!?」



 相変わらずなにやってるんだあの人……



「まずはリネンさんイチオシのトーヴァを教えていただけますか?」



「私のイチオシは~やっぱり1番人気のレッドクロックですね~」



「やはりそうですか! 1番人気、あのクロック・トーヴァカンパニー所属のレッドクロック。デビューしてから現在まで無敗を誇ります」



「やっぱムッシュさんの所のトーヴァが1番人気だな……実際、俺もレッドクロックを軸に流している」



「流す?」



 そうめんかな?



「他には4番人気のシュンソクも良いですね~。馬体が仕上がってるっていうか」



「えっ!? シュンソク!?」



 そんな名前のトーヴァがいたのか! くっそ~絶対速いじゃん! 券買っとけばよかった。



「あっ大穴なんですけど、ミスインフェルノも良いですよ~。フレームが素晴らしいです」



「なんと、最下位人気18番のミスインフェルノですか。意外な伏兵となるかもしれない可能性をわずかに感じないこともないですね」



「ほぼ来ないときの言い方じゃねえか」



 がんばれジェゼさん、ミスインフェルノ。



「さあ各トーヴァ、ゲートに入ります……1番人気レッドクロック入りました。最後にミスインフェルノが収まって……」



 パアン!!



「スタートしました!!」



 __ __



「ハナを切るのはやはりこの馬、9番ファイアーブースト、相変わらずレース後半を考えていないかのような飛ばしっぷりです」



「あの馬めっちゃ速いね!」



「ああ、最初だけな」



「1番人気の7番レッドクロックは先行集団の少し後ろに付けています。そのすぐ後ろに2番スコビルエンジン……最後方にミスインフェルノです」



「あっジェゼさん、1番後ろだ」



「別に足が遅いから後ろにいる訳じゃねえ、といってもあそこから届くかどうか……」



「さあ各トーヴァ、設置された障害を越えていきます。おおーっと14番ヒダルマンティスが落馬です!」



「あっ乗ってる人が落ちちゃった!」



「あのトーヴァは見たことねえな。飛び入り参加か。さすがに障害越えは技術がねえとな……」



 ジェゼさんたちが落馬しないか心配だったけど、危なげなく飛び越えていた。さすがだ。



「レースも終盤になってまいりました。おっとここで先頭を走っていたファイアーブーストが減速していきます。どうやらスタミナ切れのようです」



「いつものパターンですね~」



「先頭が10番テディサラマンダーに変わりまして、最終コーナーに入っていきます。ここを抜けて残りは直線! さあ各トーヴァにエールが入ります!」



「エールってなに?」



「補助魔法の一種だな。これをかけると、トーヴァは全速前進でゴールまで駆け抜けるのさ」



「なんで最初から使わないの?」



「エールの効果は長くはもたないからな。最後の最後に出すとっておきだ」



「足を溜めていたトーヴァ達が一斉に上がっていきます! ここでレッドクロックが先頭に立ちました! 2番手にシュンソク!」



「うわあ! みんな速い! がんばれー!!」



「レッドクロックがこのまま抜けるか! シュンソク苦しい! レッドクロック! ……おおっと!? 大外からミスインフェルノ! ミスインフェルノが上がってきました!」



「きたー!!」



「ま、マジかよっ!?」



「レッドクロック逃げる! レッドクロック逃げる! しかしミスインフェルノが上がってくる! シュンソクは離されたか!?」



「いけー!! ジェゼさん!!」



「レッドクロック、ミスインフェルノ、レッドクロック……ミスインフェルノが抜きました! ミスインフェルノ先頭! ミスインフェルノまだ伸びる! そのままゴールイン!! これはまさかの大波乱! 最下位人気ミスインフェルノー!!」



「あはははは! やったー1番!! いえーい!!」



「うおおおおおおお!!」



「オイラの馬があああああああ!!!!」



「私の10万エルがああああああ!!!!」



「やったあああああああ!!!!」



 1万エルが100万エルになっちゃった! トーヴァレースってたのしいね!



「お、俺の20万エルがただの紙切れに……だ、大丈夫だ、まだ最終レースがある、そこで全て取り返すぜ……」



「…………」



 トーヴァレースってこわいね。


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