第87話 修行の息抜き
「それで、大魔樹の庭で、修行してきたってのか? おっと!」
「そう、だよっ! 薬草、採取とかっ! 勉強してきたん……だっ!」
ガキン! ドガッ!
「よーし、今日はここまでにするか!」
「ふぅ。ありがとうございましたっ」
魔素熱暴走や魔人化の件が落ち着き、巨大クマを倒してブラック・ラクーンの里から王都に戻ってきた俺は、当初の予定通り、カリバーンにお願いして対人戦の特訓をしていた。
「シュータ、正直に言うとな、お前の戦い方な……」
「な、なに? もしかしてダメダメ? 教える価値無し?」
「いや、教える価値というか、必要が無いな」
「免許皆伝?」
「俺は流派の師匠か。でもシュータのパワーなら、王立学園の試験担当の冒険者なら力任せでおもっきしぶん殴れば、相手がガードしてても大体いけると思うぜ。そもそも俺みたいなSランク冒険者は試験官やらないからな」
「なんか脳筋だね」
「シュータは得意だろ?」
まあね。
「というわけで、入学試験はまあそんなに心配しなくてもなんとかなるだろ。それよりこれからちょっと付き合ってくんねえか?」
「どこに?」
「トーヴァレース場だ」
__ __
「いっけー3番!! 逃げ切れー!!」
「おらしっかり走れ! 差せ差せ差せ!!」
「ちっくしょおおおお俺の10万エルがああああ!!」
「……なんか、すごい盛り上がりだね」
カリバーンに連れられてやってきたのは、王都の西、中層区と下層区をまたいで存在する闘技場のような謎のドーム。ここがトーヴァレース場らしい。
前から気にはなってたんだけど、まさか中でトーヴァ達のレースをやっているとは知らなかった。
「レースに出るトーヴァで誰が勝つか選んで金を賭ける。勝ったら金が何倍にもなって返って来るぜ。負けたらそれまでだ」
「ふーん。ギャンブルかあ」
「へっ、そんな安っぽいこと言うんじゃねえよ」
「へ?」
「トーヴァレースは……人馬が共に駆け抜ける栄光への架け橋、情熱とロマン、そして俺の」
「あっシュータくんじゃん! やっほ~!!」
「あれっジェゼさん!? やっほ~!!」
「俺の話聞けよ!!」
レース前のトーヴァが待機しているスペースに、俺を乗せてくれたトーヴァの世話をするジェゼさんがいた。
「ジェゼさん達もレースに出るの?」
「そうだよっ! 飛び入り参加オッケーのヤツがあってね、せっかくだからエントリーしてみたの!」
「ここにいるのはみんなレッド・トーヴァだね」
「そうだぜ。速く走ることに特化した優駿達だ」
「あ、カリバーンにいちゃん。話し終わった?」
「終わったんじゃなくて打ち切られたんだよ」
ジェゼさん達はどうやら初参加のようだ。周りにはジェゼさんのトーヴァと同じく赤い色をした、スピードに特化したレッド・トーヴァ達が待機している。
「よく見るとみんな模様とか色が違うね」
「血統や固有の生息地なんかによっても変わってくるからな」
待機しているトーヴァには、毛色がオレンジ寄りの馬や紅色の馬、足元だけ白くて靴下を履いてるように見える馬、額に月の模様がある馬など、それぞれに個性がみえる。
「ジェゼさんのトーヴァは……って、なにしてるの? 三つ編み?」
ジェゼさんは、自分のレッドトーヴァのたてがみを編み込んで三つ編みにしていた。
「女の子だからね。レースもオシャレしないと」
「ファッションリーダーだね」
この子、女の子だったんだ。燃えるような深紅のたてがみに、少し金色が混じっていてカッコいい。
「だーっはっはっは! レースにそんなオシャレは必要ないんですなあ!」
「ん?」
奥で待機しているトーヴァの傍にいたおじさんがこちらに話しかけてくる。
「おじさんだれ?」
「む? オイラを知らないとは。これだからシロウトのキッズはダメなんですなあ」
「あ、あんたもしかして……“クロック・トーヴァカンパニー”のムッシュ・クロックか!?」
「ムッシュ……」
かま〇つ?
「そう! オイラこそがトーヴァレースの最高峰、ハイパーハイスピードカップ、通称HHCの最多優勝を誇るクロック・トーヴァカンパニーのオーナーなんですなあ!」
「ハイハイカップ? 赤ちゃんレース?」
「スーパーウルトラハイパーミラクルカップ?」
「ハイパーハイスピードカップだよ! この人はトーヴァレースのトップ馬主ってことだ」
なるほど。速いトーヴァをたくさん持ってるってことか。
「今回の“バイキング杯”は飛び入り参加可の低レベルなレースですが、こんな田舎娘のままごとに付き合わされてるトーヴァでは勝負にすらならんでしょうなあ!」
「……ふうん?」
「こんなちっこい馬体では他のトーヴァに吹き飛ばされてしまいますなあ! せいぜい参加賞のシュガーキャロットでも貰って田舎に帰るんですなあ!」
そんな捨て台詞を吐いてムッシュは去っていった。
「……ジェゼさん」
「お、俺は君のトーヴァ、良いと思うぜ。馬体は小さいがよく仕上がっているし、毛ヅヤも……」
「ウチ、自分が田舎娘とか言われるのは別に良いんだけどさ」
「え、うん」
「ウチの子が馬鹿にされるのは許せないんだよね……」
ジェゼさんから物凄い魔力オーラを感じる……いや俺はオーラとか見えないんだけど。多分出てると思う。
「……このレース、絶対勝つよ!!」
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