第86話 魔人化の解除方法



「ぐー……すぴー……Zzz」



「むにゃむにゃ……もう食べられないのだ……Zzz」



 里でのお祭りも盛り上がりが落ち着いてきて、さっきまで食って飲んで騒いでいたブラック・ラクーン達は酔っぱらって寝落ちしている。

種族の習性なのか、数匹で固まるように身を寄せ合って眠っており、いたるところで巨大な毛玉の塊が出来ている。



「ふう、ようやく抜け出せた」



 魔人化してモフモフの獣人になり、ブラック・ラクーン達の毛玉の一部に巻き込まれていた俺は、なんとか脱出してキャンディやシルク達と樂狗亭の部屋に戻ってきた。



「それにしても、全然魔人化が解除されないんだよね」



「シルクはそのままでも良いと思うわ」



 もふもふ。



「良くないよ。こんな姿じゃ王都に戻れないし。ちょっと、なんかしっぽがくすぐったいんだけど」



「シ、シルクじゃないわ。トラちゃんが」



「にゃー」



「ねこのすけは俺の膝の上にいるんだけど」



「……」



 魔人化してから結構な時間が経ってるのに全然元に戻れる感じがない。とはいえ、なんというか別に正気が保てなくなるというか、変な気分になったりもしていないんだよな。



「すーくん、魔人化の解除方法教えてよ」



 (不明です)



「なんで!? 普通、変身方法知ってるなら解除方法も知ってるでしょ?」



 (過去に魔人化から解除されたデータが存在しません)



 それって、みんな解除する前に正気を失って……ってこと? ど、どうしよう……



「ふむ。シュータよ、魔人化が解けない原因が分かったかもしれんぞ」



「ほんと!?」



「おそらくじゃが……エネルギー切れにならないから、ずっと魔人化の状態が維持されてるのじゃ」



「エネルギー切れにならない?」



 キャンディの説明によると、魔人化してる時は、俺の中の魔力がものすごい勢いで放出され、人間には毒になる魔素に変わっていってるらしい。



「普通の人間ならば、放出された魔素に飲まれて正気を失う、という感じになるんじゃろうが、シュータは魔素を吸収できるからの。しかもかなり効率的に」



「それで、放出された魔素を吸収して魔力が回復して、また魔力を出して魔素を吸収して……っていうのが続いてるってこと?」



「おそらくそんな感じじゃな」



 一応少しずつ魔力が減ってきてるっぽいんだけど、自然に魔人化が解除されるにはだいぶ時間がかかるそうだ。



「どうにかして一気に魔力を使わないとダメってことね」



 もふもふ。



「……」



 ずっとしっぽをモフモフしてるなこの子。無意識? よほど気に入ったのだろうか。



「ふむ……もしかしたらアレが使えるかもしれんの」



「アレって?」



「拙者の持ってる魔道具じゃ。館にあるからちょいと行って持ってくるかの」



「ちょっと行ってくるって、あなたの言う館って死霊の館でしょ? そんなすぐには……」



「あ、キャンディなら大丈夫だよ」



 キャンディが部屋を出てから少しして、窓の外がピカッと光る。



「キャッ! なに? 雷?」



「キャンディが瞬間移動? したときに出る雷だよ」



「……ヴァンパイアって瞬間移動できるのね」



 うーん、どうだろ。キャンディだけかも。



 __ __



 ピカッ! ゴロゴロ……ピシャーン!!



「キャッ!」



「あ、帰ってきた」



「ただいまなのじゃ~」



 いいな~ライトニング瞬間移動。あ、でも外で寝てた茶々丸くんたちが落雷であわあわしてる。



「おかえりキャンディ。で、その手に持ってるのってもしかして……」



「これは“邪神の足枷”というてな、魔力を吸収して溜めることができる魔道具じゃ。これをシュータに装備して魔力を減らすのじゃ」



 キャンディが持っているのは一対の金属の輪っかで、先にちぎれた鎖のようなものが付いている。



「なるほどね。で、それってどこに装備するヤツ?」



「足枷じゃからな、もちろん足首にはめるのじゃ」



「なるほどね」



 ……。



 …………。



「どう? 似合ってる?」



「うむ、シュータにお似合いじゃな」



「なんかあんまし嬉しくないけど」



 両足に邪神の足枷を付け、首にはチョーカー。



「大丈夫。シュータが人間に戻れなくなったらシルクがお世話してあげるから」



 もふもふ……



「シルクはどうしちゃったの?」



「この娘はちと危ない気があるの」



 はやく元に戻りたい。シルクのためにも。



「……お?」



 足枷が赤く光り出した。なんだか身体もちょっと重くなってきたような……



「順調に魔力を吸収しているようじゃの」



 本来はこれを装着した奴隷の魔力を吸収した後、溜まった魔力を奴隷の持ち主が使う、といったような魔道具らしい。なんでそんなのキャンディが持ってるんだろう……



「あ、なんだか力が抜けていくような……」



「そろそろいい感じに魔力が減ってきたようじゃな」



「嫌だ、シュータ、モフモフ」



 シルクはなんかカタコトになってる。ちょっとねこのすけでも撫でさせて放っておこう。



 (魔力が減少しています。魔人化を解除します)



 パアアア……!!



「また謎の光が!」



「これでシュータも元に戻れるのじゃ」



「嫌だああモフモフゥゥゥゥ!!」



「あ、戻った」



 こうして俺の魔人化は解除され、なんとか元の人間の姿に戻ることが出来たのであった。

ちなみに足枷は魔力が溜まったら勝手に外れた。よかった、付けっぱのままだったら完全に奴隷だからな……。



「ねえシュータ、シルクの部屋に羽虫が出たから魔人化して倒してくれない?」



「嫌だよ」



 それからしばらく、シルクは俺を魔人化させようと色々ちょっかいをかけてきた。いや虫くらい自分で倒しなよ。

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