第84話 魔人化
「シュータ、魔人化はリスクがでかすぎる! 封印すると言ったばっかじゃろう!」
「でも他にコイツを倒せそうな方法が思いつかないんだけど」
トロール・ベアキング。茶々丸くんの里を襲い、食料を食い尽くそうとしているこの魔物は、ダメージを食らうとさらに耐久力を上げ、巨大化するというやっかいなクマの王だった。
「魔人化ってなんなのだ?」
「俺のスキルで、使うとめっちゃ強くなれる……かもしれないんだ」
「代償として、力を使いすぎると正気を失うかもしれんがの」
「そ、それは危険なのだ! やめといたほうがいいのだ!」
心配して止めてくれる茶々丸くんとキャンディ。しかし、キャンディが魔力不足で戦えず、ブラック・ラクーンの里のみんなもトロール・ベアキングをどうにかできる術がない……
なにより、コイツをここまで強くしてしまったのは俺のせいだ。俺にできることならなんでもやって、この無銭飲食クマ野郎を里から追い出したい。
「……シュータ、本気なのじゃな?」
「まあまあ本気!」
「ちょっとノリが軽いのだ」
「まあ、それくらいの心持ちの方が力に飲まれんかもしれんの」
だって一応病み上がりだし。
「キャンディ、俺が正気を失いそうになったら助けてね。 ……スキル発動! 魔人化!!」
「おう、拙者に任せ……って、タイミング早いわ! フライングじゃフライング!」
……。
…………。
「シュータくん、なにも変わってないのだ」
「あれ? おかしいな~」
別になんか、力がみなぎったり髪が金髪オールバックになったりなんもしないな。
「うーむ、魔力のオーラも特に変化は見られんようじゃの」
「なんか発動条件があるのかな」
「もぐもぐもぐ」
「ちょっと、俺が魔人化するまで食べるの遠慮してよ!」
「べあ?」
ど、どうしよう。魔人化するとかカッコつけてなにも起こらないとか恥ずかしすぎるぞ。
「ちょっとすーくん、魔人化する方法教えてよ」
(マジマジ・魔人チェーンジ☆ って言えば魔人化できますよ)
「絶対ウソでしょ!?」
そんな、日曜日の朝とかにやってるアニメじゃないんだから……
「大体なんだよ、マジマジ・魔人チェーンジ☆ って……」
パアアアアア……!!
「ん?」
「シュ、シュータ、お主身体が光って……」
「シュータくん、眩しいのだ!」
「べあっ!?」
「な、なんか周りが見えない! どうなってんの俺!?」
シュウウウゥ……
「ふう、やっと見えるようになってきたぞ。なんだったんだ今の……ん?」
なんだろう、なんか身体が……モフモフする。
(魔人化に成功しました。シュータは“雷魔獣人”になりました)
「らいまじゅうじん?」
「シュータくん、モフモフで可愛いのだ!」
「ふむ……良いの」
「え、なに? 俺、今どうなってんの!?」
近くの民家の窓に写る自分の姿を確認する。
「なんか、なんだろ……遊園地で風船とか配ってる、ネコの着ぐるみ……?」
ただし、攻撃力は高そうな見た目をしている。金色、というか黄色い毛に覆われた大きな手足と鋭い爪。ネコ耳の下のおでこには謎のカミナリマーク。例のあの人にやられた傷かな?
「うん、今度はちゃんと、力がみなぎって元気が湧いてくるぞ。今ならトロール・ベアキングも……」
「べ、べあ~……ッ!」
ドタドタドタッと、巨体を揺らして後ずさりするトロール・ベアキング。
「逃がさないぞタダ飯野郎! ……それですーくん、なんか一撃必殺みたいな技って使える?」
(両手に魔力を集中させ、相手に放つ“雷突”が使えます。ガード及びマジックガードを貫通してダメージを与えます。)
それってかめ〇め波……まあいいや、防御無視の攻撃か。それなら耐久なんて関係ないな。
「べ、べあべあべあべあ~!!」
遂にヤケになったのか、初めてこちらに攻撃をしかけてくるトロール・ベアキング。
「シュータッ!!」
「シュータくん!!」
「いくぞクマ野郎……雷突ッ!!!!」
ドゴォッ!!!!
「べ、べあ……?」
俺の両手から放たれた、魔力を凝縮した雷撃ビームがみぞうちにクリーンヒット。ズシン、と巨体を揺らし、トロール・ベアキングは倒れて動かなくなった。
「し、しんだのだ……?」
「……どうだろう、気絶しただけかも」
今までの魔法と違い、明らかに効いてる感じはしたけど……
「……ふむ、死んではおらんようじゃが、失神して、身体を覆っていた耐久上昇の魔力オーラも消えておるな。トロール・ベアキング戦闘不能! よってシュータの勝利じゃ!」
「あれっ? そんなポケモ〇バトルみたいな感じだったっけ!?」
「勝ったのだ! これで里は救われたのだ! やったー!」
どうやら俺の勝利、ということになったらしい。ちなみにトロール・ベアキングは、倒れたときにおもっきし食糧庫を押しつぶしていた。
これって俺の責任じゃないよね……?
「あとは、コイツをどうやって里から運び出すか……」
気絶してる間になるべく遠くまで持ってかないと、また里を襲いに来るかもしれないな。どうしようかな。
「あ、それなら大丈夫なのだ」
「茶々丸くん、なんか良い方法があるの?」
「今のうちに丸焼きにしてみんなで食べちゃうのだ」
「えっ」
「今日はべあべあ焼き肉祭りなのだ!!」
周りを見渡すと、他のブラック・ラクーン達もわらわらと集まってきて嬉しそうに調理の準備を進めている。そういえばブラック・ラクーンってお肉が好きなんだっけ。
「転んでもただでは起きぬ奴らじゃの。なかなかに見上げた根性じゃ。拙者たちも見習わねば。のうシュータよ」
「うん、まあそうだね。ところでキャンディ」
「ん? どうしたのじゃ?」
「魔人化が解けないんだけど……どうやったら元に戻れるんだろう?」
「知らん」
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