第81話 完全回復! なんだけど…



「ん、ん~……あさだ!」



 熱もない、身体もダルくない。



「元気いっぱい!」



 ぐぅ~……



「お腹すいた!」



 いつも通りのシュータ・ブラックボーン、復活!



「ん、そういえばここ、どこだ……?」



 知らない天井……いや、知ってる天井だ。



「ここ……樂狗亭?」



 ガチャッ



「シュータくん! 元気になったのだ!」



「茶々丸くんおはよ~。もしかして茶々丸くんが看病してくれたの?」



「みんなでシュータくんの病気を治したのだ。 元気になって良かったのだ~!」



 感極まってガバッと抱き着いてくる茶々丸くん。なんかモフっとするな……



「茶々丸くん、耳としっぽ出てるよ!」



「うわぁあああん!! よかったのだぁああ!!」



「ほれ、朝飯の時間じゃぞーって、何やっとんじゃクソダヌキィ!!」



「あれっキャンディ……グェッ!?」



 俺から茶々丸くんを剥がそうとキャンディが参戦してくる。いや重いんだけど。



「オスじゃから安心しておったが、油断も隙もあったもんじゃないのう! ほれ離れるのじゃ!」



「嫌なのだ~! わっちは離れないのだ!」



 あ、暑い……あとお腹すいた……



「あ、シュータ……」



「シ、シルク助けて……」



「元気になって、本当によかった……」



「シ、シルク……?」



 な、なんかいつもよりトゲトゲしてない気がする。あれかな、風邪ひくと周りの人が優しくなるっていうやつ。



「ほれ大丈夫じゃろ。拒絶反応も出てないのじゃ」



「ん……そうね、シルクが無知だった。ごめん」



「なんの話?」



「ああ、昨日、おぬしの病を治すために血抜きをしたんじゃが」



「え!? 血抜き!?」



 魚かな? あ、お刺身食べたい。



 __ __



「ごちそうさまー!」



「どうじゃ? 拙者のスペシャル薬草粥の味は」



「美味しかった! 肉か魚が入ってるともっと良かった!」



「病み上がりなんじゃから我慢せい」



 キャンディが作ってくれたおかゆを食べて、シルクが教会から持ってきてくれた婦人薬? を飲んだ。婦人じゃないけど効果あるのかな。



「みんな、俺が寝込んでたときに色々看病してくれたんだね。本当にありがとう」



「困ったときはお互い様なのだ!」



 それにしても……



「樂狗亭に二人がいるってことは、みんなはお互いの正体を知ってるの?」



「そうじゃの。まさか拙者以外にも人型に変化できる魔物の知り合いがいるとはの」



「使い魔のヴァンパイアが女の子だったなんて……しかもかわいいし」



「シルクはすごいのだ! 能力鑑定が使えるのだ!」



 どうやらお互いに自己紹介済みたいだ。



「そういえば、さっきの血抜きって……」



「う……」



「シルク?」



 何故かバツが悪そうにそっぽを向くシルク。俺が寝込んでる間に何かあったのだろうか。正直熱があったときのことはあんまし覚えてないんだよね。



「おぬしの中の魔素を減らすか、魔素吸収を活発化させるかしないといけなかったんでの。それで拙者の魔素吸収の力で直接活性化させようと思ったんじゃが、この娘が反対しての」



「だって……魔物とそういうことしたら、シュータが別の病気になっちゃうかもしれないじゃない」



「あー……狂犬病的な?」



 野良犬に噛まれて狂犬病になるとほぼ100%死ぬってなんかの本で読んだ気がする。そうだよな、異世界はワクチンとかないもんな……え、なんか急に怖くなってきた。



「シルクにな、使い魔契約で血を飲み合ったけど大丈夫じゃった、と話して無理やり納得させたんじゃ。それで契約の時と同じく、おぬしの血を吸って魔素を減らし、更に拙者の血を飲ませて吸収を活性化させる方法をとったのじゃ」



「それで血抜き……補充もされてるけど」



 てかまた気付かないうちにキャンディの血飲まされたのか。



「シュータを鑑定したら見たこともない病気で、いきなりヴァンパイアも現れるし、茶々丸は魔物だったし……ちょっとパニックになっちゃって……シルクはシスター失格だわ……」



「まあ、人間族の考えなら拙者たちの接触を避けるのは妥当な判断な気もするがの」



「大丈夫なのだ! わっちもなにもしてないのだ」



「慰めになっておらんぞ」



 シルクは部屋の隅で体育座りモードになってしまった。元引きこもりシスターの本領発揮である。



「そんな、落ち込む必要なんて全然ないよ。シルクがいち早く鑑定してくれたから、キャンディだって治療に踏み切れたんだし、茶々丸くんには寝床を用意してもらった。みんなのお陰だよ。本当にありがとう」



「シュータ……」



「えへへ、シュータくんが元気になってくれたからなんでも良いのだ!」



「そうじゃぞ、まあ拙者はシュータの使い魔じゃからの! 一心同体なのじゃ!」



「っ! シ、シルクなんてシュータとプレゼントを贈り合う仲だし! ほらこのチョーカー! シルクがあげたやつ!」



「わっちはシュータくんとお風呂に入ったのだ!」



「「!!!!」」



「な、なんなのだ? 二人とも怖いのだ……」



 あれ……なんか、バチバチしてるな……



「そういえば、俺って結局なんの病気だったの? 熱が出て身体が重かったのだけは覚えてるんだけど……」



「シュータは“魔素熱暴走”っていう状態になっていたわ」



「魔素熱暴走? 魔素中毒とは違うの?」



「シルクも初めて見た病名だったから、よく知らないんだけど……」



「魔素熱暴走は拙者のような、魔人の血を引く魔物がかかる病と言われておる」



「魔人って、大昔に人間と戦ったっていわれてる魔物じゃない」



「わっちも長老様から聞いたことがあるのだ」



 魔人の血を引く魔物がかかる病気……俺、魔人の血なんて……いや、キャンディの血は飲まされたけど。



「それで、俺の魔素熱暴走っていうのは今は治ったんだよね?」



「おそらくもう大丈夫じゃろう。シュータの中の魔力の流れと魔素吸収の力は正常になっておる」



 キャンディが言うなら本当に大丈夫なんだろう。よかったよかった。



「まあでも、一応今の状態を見ておこうかな。すーくん、鑑定お願い」



 (確認します……完了。魔素熱暴走状態は現在治まっています)



「お、よかったよかった」



 (また、魔素熱暴走の治癒後に新たなスキルを獲得しています。確認しますか?」



「新しいスキル? えーと、なになに……えっ!?」



「シュータくん、どうしたのだ? 病気治ってなかったのだ?」



「いや、病気は治ってたんだけど……」



 (シュータは“魔人化”のスキルを獲得しました)


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