第79話 早馬便と不機嫌な少女



「うわーはやいはやい!」



「しっかり掴まっててねー!」



 王都に向かう途中の街道で偶然出会った早馬便のジェゼさん。

驚かせたお詫びということで、王都までジェゼさんの馬に乗せてもらえることになった。

あ、驚いたときに間違ってグランデ様のお守りを飲み込んじゃったんだけど、今のところ何も影響はなさそう。



「馬車より全然はやいね!」



「荷車を引かないで、単騎で走ってるからね! 急ぎの手紙とかを届けるのが仕事なんだー!」



 ジェゼさんの馬は“レッド・トーヴァ”という、普通のトーヴァよりもスピードに特化している種類だそう。

スピードに特化してる分、大量の荷物を運搬したり、馬車に大勢の人を乗せて引き歩くパワーは今ひとつらしい。



「ジェゼさんは、トーヴァの操縦が上手いんだね!」



「ウチは代々早馬便をやってるの! 子どものときから毎日この子に乗ってるんだー!」



「じゃあこの子はジェゼさんの使い魔だったりするの?」



「んー? 特にそういう訳じゃないけど、でも家族みたいなものかなー……ってか相棒だね!」



 なるほど、魔物とそんな感じで良い関係を築いている人たちもいるんだなあ。

俺もトルネードチキンと仲良くなって空の旅を……



「いや、それは無理だな」



「なんだってー?」



「なんでもないよー!」



 __ __



「はい、とうちゃーく!」



「はやーい!」



 いやマジで早かった。行きは3日かかったのに帰りは1日で戻って来れた。さすが早馬だ。



「それじゃあウチはお手紙届けてくるね! シュータくん、今度また会ったらごはんでも行こうねー!」



「うん! ジェゼさんまたねー!」



 トーヴァに乗って走るの楽しかったな。俺も乗れるようになりたいなー。



「さてと、これからどうしようかなー。とりあえず教会に行って、リネンさんにシソーバーを」



「シュータ」



「ん? あっシルクじゃん! 俺、今さっき大魔樹の庭から帰ってきてさ、これから教会に」



「今の女、だれ?」



「えっ」



「なんだか二人で楽しそうにトーヴァに乗ってたわね」



「あ、うん。ジェゼさんっていって、早馬便をやってる人で、帰りに偶然会ってさ、ここまで乗せてくれたんだ」



「ふーん」



 な、なんか機嫌悪い? どうしたんだろ。



「あ、これシルクにおみやげ……」



「リネン姉さんじゃなくて?」



「シソーバーじゃないよ。いやシソーバーも採ってきたけど」



 俺はシルクに1枚のハンカチを渡した。



「綺麗な水色のハンカチね。それに、ちょっとひんやりしてる……」



「フリーズミントっていう薬草を染料にして作った、冷却効果があるハンカチなんだ。これから暑くなるから良いかと思って」



「これ、シュータが作ったの?」



「そうだよ。作るときに手が凍らないように気を付けなきゃいけないんだけど、俺は凍結無効スキルがあるからさ、結構スムーズに染色できたんだ」



「染色方法とかは別にいいんだけど……でも、ありがと。大切に使うわね」



「うん!」



 良かったあ。気に入ってもらえたみたいだ。態度もちょっと柔らかくなって……



「このハンカチの作り方はタフタさんに習ってね。あ、タフタさんっていうのは大魔樹の庭に住んでる魔女さんで、そこで俺も一緒に暮らしながら薬草の事とか色々教えてもらって」



「シュータ、魔女と暮らしてたの?」



「うん。大魔樹の庭にいる間……って、あれどうしたのシルク」



「そっか、魔女とねえ……ふーん」



「あれ、な、なんか寒くなってきたね」



「シュータ」



「は、はい」



「お・か・え・り」



「た、ただいま……」



 この後しばらくシルクと一緒にいたんだけど、何故か寒気が止まらなかった。フリーズミントの効果が強すぎたのかな?

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