第78話 魔女とお別れ
「それじゃあシュータくん……気を付けて帰るのよ……」
「うん。タフタさんも元気でね」
大魔樹の庭での修行を終えた俺は、楽しかった(?)お疲れ様パーティーから一夜明けて、王都に帰る日となった。
「はいこれお弁当。まあ、昨日の残り物なんだけど……それから、乾燥させた薬草を色々詰めて置いたわ……あとシソーバーもたくさん入ってるから」
「うわ~ありがとう! ……タフタさん、お酒はほどほどにね」
「ええ、そうするわ……昨日のこと、お酒飲んでからあんまり覚えてないのよねぇ」
「まったく、大変だったのじゃぞ」
「……あら? なんでキャンディちゃんがいるのかしら」
「こやつ……!!」
「ま、まあまあキャンディ落ち着いて。俺は来てくれて嬉しかったよ」
「むぅ……!!」
「あら照れちゃって……あいたたた」
お酒を飲みすぎると頭が痛くなるらしい。俺の母ちゃんもよく二日酔いってヤツになってた。タフタさんは二日酔いになっても機嫌が悪くならないのでまだマシかも。
「お主、もう奥で寝ておれ」
「見送りはキャンディに任せるんだナ」
「カー」
「お世話になりましたー」
「ま、またいつでも遊びに来てねぇ……あと魔力も……」
「シュータの魔力はもうやらん」
……。
…………。
タフタさんの家を出て、ダンジョンの入り口までやってきた。
「ここからまた走って3日かあ。遠いなあ」
「馬車でも買ったらどうじゃ?」
「そんなお金ないよ。それに免許も持ってないし」
馬車……正確には“トーヴァ”という馬の魔物らしい。じゃあヴァ車ってこと?
まあいいや。それはさておき、馬車を運転するのには免許がいるのだ。
「馬を買っても世話する場所が無いしなあ」
まず俺の住む場所が無いし。
「でも良いんだ。さっちゃんが大きくなったら乗せてもらうから」
「む、さっちゃんって誰じゃ?」
「サンダードラゴンだよ」
俺はキャンディに、さっちゃんと出会ったことや、雷鳴渓谷で過ごしたことなどを話した。
「シュータは相変わらず破天荒な人生を歩んでおるな」
「はてんこう……」
「毎日楽しそうで何よりってことじゃ」
「そっか」
たしかに、色々あるけど充実した日々を送っていると自分でも思う。ごはんも美味しいし。
「キャンディはこれから死霊の館に帰るの?」
「その予定じゃが……そうじゃな、ちょっと帰るまえに大魔樹殿に挨拶でもしておこうかの」
「キャンディもグランデ様知ってるんだ」
「あの方は魔人族と人間族が争っていた時代からおるからの。生き字引ってやつじゃ」
グランデ様からしたら、俺もキャンディも子供みたいなものなんだろうな。いや見た目の話ではなく。
「それじゃあ、俺はもう行くよ。キャンディも元気でね」
「うむ。またなにかあったら助けを呼ぶのじゃぞ」
「ヒーローみたいでかっこいいね」
「お主だけのヒーローなのじゃ」
あらやだイケメンじゃんか。俺が女の子だったら惚れてたね。
__ __
「やっぱ3日間走って歩いてはキツイなあ……自転車とか欲しいかも」
いっそ自分で発明しちゃう? なんちゃって。そんな知識は俺にはない。
「俺もキャンディみたいに、落雷! ピシャーンバリバリ! って感じで瞬間移動できればな」
あれはそれこそ魔女みたいに、100年単位で魔法の修行をしないと習得出来なさそうだけどね。
まあ、しばらくはこの自分の足というか、瞬足ラビットシューズに頑張ってもらおう。
「よーし、この辺でちょっと休憩~!」
タフタさんにもらったお弁当を食べて、体力を回復させる。
「うん、やっぱりタフタさんの料理は元気が出るなあ。薬草が入ってるからかな?」
王都で食べる食事より、疲れが取れやすい気がする。俺も結構薬草の知識が身に付いたし、料理のときに色々試してみようかな。
「ふぅ~おなかいっぱい。ごちそうさまでした!」
満腹になって草の上に寝っ転がると、遠くの空に見覚えのある鳥が飛んでいるのが見えた。
あれってもしかして……トルネードチキンかな? うーん、今はお腹いっぱいだから狩るのはやめておこう。
「そういえば、これ……」
俺はポケットに入れていた小瓶を取り出す。中にはエメラルドグリーンの綺麗な結晶が入っている。
「グランデ様の魔素で作ったお守りかあ」
勉強しても自信が付かない、と相談したらくれたものだ。俺は小瓶から結晶を取り出して、太陽にかざしてみる。
「綺麗だな。これもキャンディがくれた飴みたいに、食べたら魔力が回復したりするのかな?」
まあ、これはお守りだから食べないけど。グランデ様も食うなって言ってたし。
「わっ人が倒れてる!!」
「うわっ!?」
ぱく。
「んっ!? ゲホッゴホッ」
「あっゴメンゴメン! 大丈夫ー!?」
「ゴホッ……ごっくん」
……あ。
「の、飲んじゃった」
「何を?」
「グランデ様にもらったお守り……って、えっと、君だれ?」
「ウチの名前はジェゼ! 早馬便のジェゼだよ!」
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