第76話 実技試験のウラ話?



「よーし、結構正解できるようになってきたぞ!」



 大魔樹の庭、というかタフタさんの家で住み込み試験勉強を始めてからしばらく経った。

森に自生している植物も結構見分けられるようになったし、薬草を使って簡単な薬の調合も出来るようになった。



「この、ファットモンキーでも分かる! 王立学園入試問題集! もずいぶんやり込んだな」



 これでどんだけ屁理屈っぽい問題が来ても正解してやるぜ。



「シュータくんお疲れ様~。はい、薬草茶。今日はローズマリンよ」



「ありがとうタフタさん。ローズマリンは精神的リラックス効果で、魔力の回復を促進する……だっけ」



「その通りよ。よく覚えてたわねぇ偉いわ」



 タフタさんに頭を撫でられる。なんだか本当のお母さんみたいな……いやこれ言ったら怒られるやつだな。



「どうしたの?」



「ううん、なんでもないよ。そろそろ王都に戻らないとな―って思っただけ」



「あら、もうそんな時期なのねぇ」



 夏季に行われる入学試験の受験申込をやらないといけないのをすっかり忘れていたので、ここでの修行を早めに切り上げて王都に帰る必要があるのだ。



「短い間だけど、タフタさんにはいっぱいお世話になりました」



「あらあら、こちらこそいっぱい魔力を貰っちゃったわ」



 うん、それはそう。でもお陰で俺の中の魔力量がかなり増えた気がする。結果的に修行になっちゃったな。



「それにしても、冒険者になるためとはいえこんなダンジョンまで勉強に来るなんて、シュータくんはアグレッシブなのねぇ」



「まあ、ここが試験会場になるかもしれないからね。でもこれで今年の実技試験が薬草採取だったら合格間違いなしだよ」



 そして全問クリアして、A級特待生になって学園食堂で食べ放題……完ぺきな流れである。



「でも王立学園の入学試験、実技で薬草採取になったことなんて数えるくらいしかないわよねえ」



「……えっ?」



「大体は弱い魔物の討伐試験とか、現役冒険者との摸擬戦なんかが多いんじゃないかしら」



「あれ?」



 じゃあなんだ、カリバーンにいちゃんの年にやった薬草採取の試験はめっちゃ珍しかったってこと……? てか冒険者との摸擬戦とかあるの!?



「魔獣の森に瞬足ラビットを放って、それを捕まえるなんてのもあったわねぇ。シュータくんは……シュータくん?」



「俺、対人戦の経験ほとんどない……」



 というか1回しかない。しかも相手はデミグラくん……冒険者とかじゃなくて貴族の子供だったし、ほとんどなにもしないで勝っちゃったし。



「あらあら、対人戦は魔物討伐とはまた違った戦い方をしないとだから、経験しておいたほうが良いわねぇ」



「タフタさんは……」



「魔女と戦うと変な癖ついちゃうわよ。あ、ヴァンパイアなんてもっとダメよ。王都に帰ってから、現役の冒険者を探したほうがいいわ」



「そういうもんかあ」



 たしかに、魔女がダメならキャンディと戦うのは更にダメな気もする。現役冒険者かあ……知り合いにいればちょっと練習相手になって欲しいんだけど……誰かいたっけ?



「……あ」



「あら、誰か練習相手になってくれそうな冒険者がいるの?」



「うん。なんか凄腕のドラゴンハンターらしいんだけど」



「ドラゴンハンターねぇ。あ、もしかしてカリバーンくん?」



「えっうん、そうだけど……タフタさん知ってるの?」



「ここで入学試験をやったときに彼が参加しててね、ウチの近くで薬草を探してたんだけど、カリバーンくんったら、薬草が全然見つからなくて泣いちゃったのよ」



「へ、へえ」



 うわ~これ聞いてよかったのか微妙なやつだな。



「ちょっと可愛……じゃなかった。可哀想だったから、わたしの薬草をコッソリ彼の近くに魔法で出現させてあげたのよ」



「それでカリバーンにいちゃんは合格したのか……」



 いやズルじゃん。



「というわけで、この話をすればカリバーンくんも摸擬戦の練習に付き合ってくれるんじゃないかしら?」



「なるほど……タフタさん、良いお話をありがとう」



「うふふ、どういたしまして」



 タフタさんに感謝をすると同時に、彼女には弱みを握られないようにしよう、と心に決めたのであった。

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