第75話 雨の日



「雨、止まないね」



「カー」



「止まない雨は無いんだナ」



「雨をずっと降らせる魔道具とかあるかも」



「そういうことじゃないんだナ」



 本日の大魔樹の庭は、朝からシトシトと雨が降り続いている。



「今日は採取行けないなー」



「カーア」



「ネルちゃんなんて言ってる?」



「雨くらいで甘えんなって言ってるナ」



「厳しいね」



 大魔樹の庭で過ごす時間はなんだかあっという間のような、ゆっくりのような不思議な感じがする。

これで街に戻ったら、浦島太郎みたいにめっちゃ時間経ってたらどうしよう。



「今日は家の中で筆記試験の勉強でもしようかな」



 ここに来てから実地試験対策の薬草採取ばっかで、なんだかんだ筆記試験の勉強は全然やってなかった。



「というわけで……じゃーん! ファットモンキーでも分かる! 王立学園入試問題集!」



 ここへ来る前に王都で買った参考書だ。これ3500エルもしたんだよ。絶対合格して元取らないと。



「カーッ」



「ファットモンキーには分かんないだろって言ってるんだナ」



「そこは俺も信じてないけど」



 まあ、それくらい分かりやすいってことかな。



「えーと、なになに……庶民のAさんは所持金35000エルを持って、中層区の市場へ1個10000エルの最高級ハニープラムを買いに行きました。Aさんはハニープラムを何個買えたでしょうか?」



 え、めっちゃ簡単じゃん。小学生低学年レベルの算数だぞこれ。筆記試験とか余裕なんじゃないか?



「答えは3個! えーと、正解は~……Aさんは庶民なので購入を拒否されました。よって正解は0個です。……は?」



「シュータ、間違えたんだナ」



「カーッカッカ」



 いやおかしいでしょこの問題。下層区の庶民は中層区で買い物出来ない場合とかあるの?



「はいもう次いこ次! えーと、庶民のAさんは乗り合いの馬車で2日かかる道のりを、お金が無いので行きだけ馬車を使い、帰りは徒歩で戻って来ることにしました。徒歩は馬車の3倍の時間がかかります。往復で何日かかるでしょうか?」



 普通に考えたら8日だけど、さっきの問題の傾向からすると、1日中歩いたりできないから休憩時間も入れて9日です。みたいな感じかな?



「とりあえず正解見とくか……Aさんは徒歩での帰り道、山賊に襲われて死んでしまいました。徒歩の場合は護衛を付けましょう。Aさんはお金が無いので護衛も雇えず死ぬ運命でした。いやおかしいだろ!!」



 Aさんが強ければ撃退できるかもしれないじゃん!



「何日って聞いてるのに帰って来れないは問題としてダメじゃないか」



「冒険者なら、想定外の事も予想しないとってことなんだナ」



「そう言われると、そう……そうかなあ」



 とりあえず出る問題は毎年あんま変わらないらしいから、暗記していくしかないか。



「えーと、次は……冒険者になったばかりのAさんは、ダンジョンで薬草の採取クエスト中にドラゴンと遭遇してしまいました。このときAさんが取った模範的な行動は?」



 これは、そうだなあ……襲いかかってくるようなら戦う、そうじゃなければクエスト目標の薬草を死守して逃げる、とか? うーん、これは普通に分からないかも。



「正解はっと……冒険者になりたてのAさんではドラゴンに勝てないので、死んだふりをしてやり過ごしました。10回に1回くらいの確率で見逃してもらえます。ええ……」



 ほとんどやられちゃうじゃん。もうちょっと生き残れる方法教えてほしいんだけど。てかこれは学校入ってから学ぶことじゃない?



「ドラゴン討伐のクエストはAランク以上の冒険者じゃないと受けられないんだナ。Fランクの新人冒険者が遭遇したら確実にやられるんだナ」



 サンダードラゴンのときは、相当運が良かったんだろう。ちゃんと普通の冒険者の基準を身につけて行った方がよさそうだ。

あと、この国の庶民とか貴族の生活についても学ばないと。中層区で買い物出来ないとかは常識なんだろうか。



「カーカーカー」



「シュータはファットモンキー以下だなって言ってるんだナ」



「うっせ」



 よーし! めっちゃ勉強して絶対合格してやるぜ! 待ってろキャンパスライフゥー!!

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