第73話 大魔樹様にご挨拶?



「シュータくん、今日は大魔樹様の所へ挨拶に行きましょうか」



「大魔樹様?」



 魔女の家での勉強合宿みたいな生活にもだいぶ慣れてきたある日、タフタさんからそんな事を言われた。



「大魔樹って、あの真ん中に生えてる大きな木のことだよね」



「そうよ。このダンジョンの象徴になっている巨大な魔樹ね」



 この世界では、一部魔物化している植物が生息していて、それらは魔草や魔樹という。



「大魔樹様はとても高知能な魔樹で、言葉を話すことができるのよ」



「喋れる木!? すごいね!」



「知識もとても豊富だから、なにか聞きたいことがあったら質問してみるといいわ」



「うん!」



 というわけで、今日は大魔樹様に会いに行くことになった。



「あ、大魔樹様と話すためにちょっと必要な物があるの。準備するからちょっと待っててね」



「必要なもの?」



「うふふ、シュータくんのお陰で良質な魔力がたくさん手に入ったから沢山作っちゃったわ」



「え?」



 __ __



「ハ~イ☆ グラリスのみんな~☆ 元気に光合成してるかしらん? 大魔樹グランデのぐらっとラヂオ☆、今日もやっていくわよぉ~☆」



「……なにこれ?」



「ぐらっとラヂオ☆ よ。大魔樹グランデ様の精神伝達魔法で全国に大魔樹様のお言葉を発信しているの。受信ができる魔法を使うか、わたし達みたいに現地に来れば聞くことができるわ」



「全然知らなかった……」



 タフタさんに連れられて大魔樹の根本までやってきたら、なにやら話し声が聞こえる。なんだろうと思ったら、大魔樹が自らラジオ配信みたいなことをやっているらしい。



「まあ受信の魔法は難しいから、普通の人間族で聞いてる人はそんなに多くはないわねぇ。わたしみたいな魔女は結構聞いてるのよ」



 他には、別の地域に生息する魔樹や、キャンディのような魔法が使える高知能の魔物なんかがリスナーらしい。茶々丸くんも知ってるのかな? いや、あの子は聞いてないか。



「それじゃ、今日もグラリスからのスパドリ質問に答えていくわよぉ~☆」



「スパドリ質問?」



「これのことよ」



 そう言うとタフタさんはポーション瓶のようなものを取り出した。



「それって、タフタさんが作ってた……」



「スーパー若返り栄養ドリンク。通称スパドリよ。若返りの秘薬の魔樹バージョンってとこかしら。グランデさまにこのスパドリをあげると質問に答えてくれるの」



「そうなんだ」



 これ飲んでるからこんなでっかく成長したのかな。



「今日もたくさんのスパドリ質問が、デリバリースカイちゃん達から届いたわぁ~! みんなありがとう☆」



「配信を現地で見れないリスナーは、デリバリースカイっていう荷物を運んでくれる魔物を使って、スパドリと質問を書いたお手紙を届けるの」



「それじゃあいってみましょ~☆ まずはこれにしましょ。グラリスネーム【極東の大魔樹】さん、あらぁお久しぶりねえ! 120年ぶりくらいかしらぁ~」



「ひゃ、120年ぶり?」



 一体いつからやってるんだこれ……。



「えーとなになに~? グランデさんお久しぶりです。最近ウチの枝に巣作りを始めたアイスバードの夫婦がいるのですが、巣作りのツナギに氷を使うせいで枝先が冷え性になってしまい辛いです。なにか良い冷え性対策はありませんか? なるほどねぇ~」



「あらあら、けっこう切実な悩みねぇ」



 経験したことない内容すぎて全然共感できない。



「魔樹あるあるのお悩みだわ。そうねえ、アイスバードさんを追い出すのも可哀想だし、こういう時は……反対側の枝にホットバードを住まわせて熱さで寒さを克服すべし!! はい、解決したわ」



「回答が雑! あと根性論!」



「それじゃ次の質問~。グラリスネーム【風弓の魔女ライムハット】さん、質問ありがと☆」



「あら、ライムハットちゃんじゃない」



「知り合い?」



「別のダンジョンに住んでるエルフの魔女よ。風魔法が得意なの」



「エルフかあ」



 あの耳が長くて長生きのやつかな。この世界にもいるんだ。



「えっと、グランデちゃんこんグラ~☆ はい、こんグラ~☆ 最近研究中の上級風魔法について質問です。サイクロン系の派生で竜巻を発生させつつ、内部でウインドアローを循環させて相手を攻撃するSランク相当の……」



「めちゃめちゃ真剣な質問してるじゃん」



 研究者どうしのお話みたいになっちゃってる。



 ……。



 …………。



「……はい、というわけで【枯れ木専門おじさん】からの質問でした~☆ みんないつもお便りありがとう☆」



 グランデはあの後も、なんというか、個性的なリスナー達から送られてきた質問に大雑把に答えていた。



「世の中には俺が想像もつかないような色んな悩みを抱えてる人がいるんだね。」



 人じゃないのもいたけど。



「こういう話を聞くのも、今まで知らなかった思考や知識が学べて良いものよ。冒険者になるなら色々なことを知っていかないとね」



「そう言われるとまあ、たしかに」



「は~い、それじゃあここからは現地で聴きに来てくれてるグラリスのみんなからお悩み聞いちゃうわよぉ~☆ あ、その前に~いったん休憩タイムね☆」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る