第71話 タフタさんの薬草講座



「はい、こっちがモウドクダミーで、これがモウドクダミーモドキよ」



「……全然見分けがつかないんだけど」



「裏返すと結構分かりやすいのよ」



「わっ本当だ! モウドクダミーの方が派手なんだ」



 昨日は魔力消耗の影響でHPがだいぶ減っていたっぽいので、ゆっくり休んでから、翌日にタフタさんと一緒に薬草採取に出かけた。

タフタさんは自分で言っていた通り、大魔樹の庭に生えている植物にとても詳しくて、似ている薬草の細かな違いなんかも、実際に採取して教えてくれた。



「そういえば、お風呂に入ってた良い香りの葉っぱもこの森で採れた薬草?」



「そうよ。昨日入れてたのは……たしかマジックセージね。身体のHP回復機能を魔力の代わりに促進するの」



「俺、正直魔力とか魔素とかってよくわかってないんだよね。体力……HPとは違うんでしょ?」



「そうねぇ、簡単に説明すると、魔力は人間が魔法を使うのに必要なエネルギーで、魔素は魔物が生きていくために必要なエネルギーなの。人間にとって魔素は毒になるわね」



 俺みたいに魔素吸収スキルを持っている人を除いて、普通の人間が魔素を含む魔物の肉や木の実なんかを食べるときは、事前に魔素抜きをしないといけない。

一応少しくらいなら食べても平気みたいなんだけど、おなか壊したり熱が出たりするらしい。スキル持ってて良かった。



「体内の魔力が多いと、魔法を沢山使えたり、HPの回復が早くなったりするわ。逆に魔力が減っている状態だと、HPの回復や怪我の治りが遅くなるの」



「ステータス鑑定しても魔力は確認できないよね。あれってどうしてなんだろ?」



「魔力は精神的なエネルギーだから、なかなか測定するのが難しいのよねぇ。HPがゼロになったら死んじゃうけど、仮に魔力だけがゼロになっても、残りのHP以上に疲労感が出るだけで、しばらく休めば回復するわ」



「そうなんだ」



「あまりひどいと精神崩壊しちゃうけど」



「えっ?」



「なんでもないわ」



 数人で一斉に同じ魔法を魔力切れになるまで使い続ける、とかすればなんとなく自分の魔力はこれくらい、みたいなのが分かるらしい。

でも、同じ魔法でも威力が大きければその分使う魔力も多いので、比べるのもなかなか難しいみたいだ。



「それじゃあ自分の魔力を確認できる方法はないのかあ」



「実は、王都に1か所だけ魔力を測定できる魔道具があるの」



「本当!? それってどこにあるの?」



「王立冒険者育成学園よ」



「そこって……」



「シュータくんが目指してる学校ねぇ。がんばって入学できると良いわね」



「なんだかやる気が出てきた! よーし、試験対策がんばるぞー!」



「カー」



「ん、なんだいネルちゃん?」



「シュータ、足元に地雷モグラの巣があるから気を付けろって言ってるんだナ」



「うわっ!!」



 __ __




「このサラダ、シャキシャキしてて美味しいね!」



「うふふ、それモウドクダミーなのよ」



「えっ!? モウドクダミー……は、毒が無い方か。紛らわしいなあ」



 暗くなってきたので、薬草採取兼お勉強会を切り上げてタフタさんの家に帰ってきた。



「はい、これも食べてみてちょうだい。わたしの大好きなシソーバーのはさみ焼きよ」



「もぐもぐ……ん! これめっちゃ美味しいよ!」



 シソーバーの爽やかな香りで食欲が刺激される。このちょっと脂っこいけどジューシーなのはトンホーンの肉かな? たしかにこれはリネンさんも好きそうだなあ。



「デザートもあるわよ~。このシャーベットはね、薬草の効果で冷却して作ったの。あ、上に乗ってるミントは」



「いただきまーす! うーん、冷たくって美味しい! すっごいキンキンだね!」



「フリーズミントが乗ってるから、食べないでね……って言おうとしたんだけど」



「もう食べちゃったよ!?」



 フリーズミントって食べると凍っちゃうやつじゃん! あ、でもそうか、凍るやつは……



「なんだか大丈夫みたいね……どうしてかしら?」



「俺、凍結無効スキル持ってるんだ」



「シュータくん、あなた何者?」



「王都のスラムに住んでるただの子供だよ」



「それはウソ」



「あはは」



 食事が終わってゆっくりしていたら、タフタさんが小瓶に入った緑色をした謎の液体を飲んでいた。なんか青汁みたいでめっちゃまずそう……



「タフタさんそれなに? 回復ポーションってやつ?」



「これはねぇ、若さの秘訣よ」



「タフタさんって何才なの?」



「うふふ」



「もしかしてキャンディと同い年だったり? それじゃあ200……」



「シュータくん、調合釜、いこっか」



「ご、ごめんなさい」



 女の人に年齢を聞くと魔力を抜かれるから、みんなも気を付けようね。

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