第70話 魔女とヴァンパイア


 王都の東に位置する森林型ダンジョン、「大魔樹の庭」。

大魔樹と呼ばれる巨木を中心に、様々な種類の植物が自生している、比較的初心者向けのダンジョンである。



 しかし、今だけはここへ訪れるべきではない。S級クラスの魔物と魔女の熾烈な戦いに巻き込まれない為に……



「まーだ生きておったかクソ魔女が! しかも拙者の主に手を出すとは良い度胸じゃのう!」



「あなたこそまだ討伐されてなかったのねぇ! って、なにあなた、シュータくんの使い魔なんかやってるの!?」



「そうじゃが。なんか文句でもあるのか?」



「そんな幼女みたいな見た目でシュータくんをたぶらかして無理やり使い魔に……さすが魔物、やることが汚いわねぇ」



「そんなことないのじゃ! のうシュータ。拙者は無理やり使い魔になんかなっておらんよな?」



「いや、あれ~?……たしか俺が気絶してる間に」



「そんなことないじゃろシュータ?」



「あ、うん、そんなことないね……」



「あらあら、こんな吸血ババアに付きまとわれてシュータくんも大変ねぇ」



「貴様こそ、シュータのようないたいけな少年を裸にひん剥いて、魔力を奪うなど……犯罪じゃぞ犯罪。魔女狩り不可避じゃな」



「わ、わたしだって同意の元よ。ねえシュータくん?」



「ま、まあ……でも抽出しすぎたって」



「シュータくん?」



「あ、うん、そうだね……」



 誰か助けて。



「シュータ、二人の事は気にせず風呂に入ってくると良いんだナ。風邪ひいちゃうんだナ」



「カー」



「うん、そうする。ふたりともありがと」



 喋るトンガリ帽子のオーガンジーちゃんと、タフタさんの使い魔、シャドークロウのネルちゃんに促されて、俺はお風呂で色々な疲れを癒した。



 __ __



「ふぅ~サッパリした~」



 湯船になんだか良い香りの葉っぱが入っていて、疲れも少し取れた気がする。魔力が回復する薬草とかだったのかな。



「これでバッファモーミルクがあったら最高だったんだけどね」



「大体貴様は昔から……」



「あなたこそあの時は……」



「うわ、まーだやってるよ」



 それにしても、二人が知り合いだったとは。まあ、長い付き合いみたいだし、喧嘩するほど仲が良いって感じなのかな。



「ん……ってことは、タフタさんも200才とかいってるのか?」



 魔女って普通の人間より長生きなのかな……うーむ、よくわからん。



「どうせ貴様が作っておったのは“若返りの秘薬”じゃろ? まったく、そんなもんを飲まないと若さが維持できないなんて、魔女は不便じゃのう」



「文字通り若い子の血を啜ってるあなたに言われたくないわよ」



 え、若返りの秘薬!?



「タフタさんが作ってたのって若返りの薬なの!?」



「えっそれは、その……ええ、まあそうねぇ。若返りの秘薬よ」



 すげえー! そんなの存在するんだ! だから長生きなのかー!



「ほれみろシュータ。こやつはお主の若くて良質な魔力を使って若返りの秘薬を作るような魔女なのじゃ。ここにいるのは危険じゃから、拙者と一緒に帰るのじゃ」



「あらダメよ。シュータくんはしばらく大魔樹の庭に滞在して薬草採取のお勉強をするんだから。ちなみに先生はわ・た・し」



「勉強じゃと? それは本当かシュータ!」



「え、うん。教えてもらう代わりに魔力をあげたんだ」



 俺がこのダンジョンにいる理由をキャンディに説明する。まあさっきはちょっと取られ過ぎたけど。



「というわけで、シュータくんは望んでここにいるのよ。あなたはさっさと陰気なお化け屋敷に帰りなさいな」



「な、なんじゃとー!」



「ほ、ほらキャンディ。俺は元気だから大丈夫だよ。タフタさんも変に煽らないでよ」



 めんどくさいなこの人たち。



「でもキャンディが俺を心配してここまで来てくれたのは、すっごく嬉しかったよ」



 実際、俺が魔物とかにやられていたらと考えたら、キャンディが異変を察知して来てくれたのはとてもありがたかった。



「シュータがそういうんじゃ。本当に大丈夫なのじゃろう。こやつと一緒にいるのは不安しかないんじゃが……」



「もう、魔力を貰う以外はなにもしないわよ」



 その魔力抽出が問題だったんじゃ……



「仕方ないの……シュータ、これをお主に渡しておこう」



「ん、なにこれ? 宝石?」



 キャンディから小さな革袋を受け取る。中には綺麗な赤褐色の結晶が沢山入っている。



「拙者の魔素を凝縮して作ったキャンディじゃ」



「キャンディのキャンディ?」



「紛らわしいの。飴ちゃんじゃ飴ちゃん。魔素の塊なんて普通の人間にはただの毒じゃが、お主は魔素吸収が使えるからの。使い魔の魔素なら吸収効率も良いじゃろ」



 この飴を食べると魔力が回復できるらしい。たしかに、今の俺にとっては非常にありがたいアイテムだ。



「またこやつに魔力を根こそぎ奪われたらそれを食べるのじゃ」



「わかったよ。ありがとうキャンディ」



 そう言うと、キャンディは名残惜しそうに帰っていった。あ、帰りは雷ドカーンじゃなくて普通に飛んでくんだ。



「それにしても、あのライトニング・ヴァンパイアを使い魔にしちゃうなんて……シュータくん、何者?」



「俺は冒険者を目指してる、ただの貧乏な少年だよ」



 キャンディに貰った飴はなんだか特別な味がした。ヴェ〇タースオリジナル。

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