第59話 冬の過ごし方



「ふぃ~さっぱりした~」



 良く晴れた冬のある日。俺は朝から大衆浴場「ほっとランドリィ」へ来ていた。



「おばちゃーん、バッファモーミルクちょうだい!」



 カウンターにミルクの入ったビンと100エルを置いて、店主のおばちゃんを呼ぶ。



「はいよー、今手が離せないんで勝手に持っていきな」



「はーい!」



 キュポンッ! ごくごく……



「ぷっはー! 風呂上がりのミルクは最高だ!」



 ここ「ほっとランドリィ」は下層区にある大衆浴場で、店主のおばちゃんが火魔法、その旦那さんが水魔法の使い手で、二人で協力してお湯を沸かしている。

更に、服を洗ってくれる洗濯場もあって、風魔法を修得している娘さんが服の乾燥までしてくれる。



「はい、シュータくん。洗濯と乾燥終わったわよ」



「ラミーさんありがとう!」



「うふふ、お仕事ですから。あ、シュータくんちょっとそのまま動かないで」



「ん? うん」



「ドライ」



 ラミーさんの手の周りにブワッ……と温かい風が発生して、俺の髪の毛を乾かしてくれる。



「はい、おしまい」



 ラミーさんに頭を撫でられる。ちょっとくすぐったい。



「ん、ありがと」



 洗濯物を預けてから、お風呂に入って、帰りに洗濯物を受け取る。大体この流れ。ついでに髪も乾かしてくれる。とても良い店だ。



「おーいラミーちゃん、俺の髪も乾かしてくれよ~」



「大人の人はダメでーす」



「ちぇーっ連れねえなー」



 看板娘のラミーさんはいつも人気者だ。特に男の人から。



「って、オマエ、あの時の少年じゃねーか! 生きてやがったのか!」



「ん? ん~……あっ! ドラゴンハンターの、えーっと……カリ~パン!」



「カリバーンだ!」



「はやく髪の毛乾かさないと風邪ひくよ」



「お前だってさっきまで濡れてたじゃねえか……ってそんなことはどうでもいいんだよ! ドラゴンに攫われてたよな? なんでここにいんだよ」



「え、普通に帰ってきたからだけど……」



 俺はカリ~……じゃなかった、カリバーンに、ドラゴンに攫われた後のことを話す。誰かに会うたびに同じ話をしなくちゃいけないのめんどくさいな。



「なるほどねぇ。だから最近ウチの店に来なかったのね。どっか他のお店に行っちゃってるのかと思ったわ」



「ほっとランドリィより良い所なんてこの辺には無いよ」



「そうだぜラミーさん。俺は中層区の住人だが、わざわざここに通うくらいだ。そ、それに、他の店にはラミーさんがいないからな……」



「そりゃラミーさんはここにいるんだから、他の店にはいないでしょ」



「そういうこっちゃねえんだよ!」



「あらあら」



 カリバーンのにいちゃんは何故か照れている。うーん、よく分からん。



「しっかし、ドラゴンと仲良くなって問題を解決するとはなあ。俺みたいな、倒すことしか考えてねえヤツには一生無理なことかもしんねえな」



「たまたまだよ。魔法の相性とかも良かったから」



 サンダーボールで餌付け出来たし。



「それにしても、シュータくんは相変わらずスラム街に寝泊まりしてるのよねえ。寒くはないのかしら?」



「いや、まあまあ寒いよ」



 夜はたき火を焚いたり、ねこのすけにくっ付いて寝ている。ねこのすけは全然寒くなさそうなんだよなあ。さすが魔物だ。



「この国は、ギルドカードがないヤツには厳しいからなあ」



 ギルドカードを持っていなければ、家を買ったり借りたり、他にも色々と出来ないことが多い。

唯一の良い点を挙げるとすれば、国に税を納める必要が無いこと、らしい。まあ、だからこそ国民扱いされてないのは仕方が無い、ということなんだろうけど。



「高額だけど、冬の間だけでも宿屋に泊まったらどうかしら?」



「宿屋かあ……全財産使えばなんとか冬を越せるくらいは泊まれそうだけど……」



 宿屋ならギルドカードを持っていなくても、お金さえ払えば利用することができる。

でも、めっちゃ高いのだ。下層区の安い店でも1泊1万エルとかする。上層区の高級宿屋なんかだと100万エルとかなんとか。スラムなら何泊しても0エルだ。

宿屋を安くしちゃうと、ギルドカードを作らないで宿屋暮らしをする納税回避冒険者とかが増えちゃうから値下げ制限があるらしいけど……うーむ、税金とかの話はよくわからない。



「そういや噂なんだが、最近、スラム街のある場所に激安の宿屋が出現するらしいんだ」



「あら、その噂なら私も聞いたことがあるわ」



「宿屋が……出現する?」



 な、なんだそれ……?

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