第57話 帰国したらお通夜になってた
「とうちゃーく!」
フロランタと別れた翌日、俺は久しぶりに王都に帰ってきた。
昨日は夜も遅かったので、ザルティス湖の近くに建っていた漁師用の小屋で1泊して、翌朝王都に向かったのだ。
前回見た、あのでっかいヘビの魔物が出たらどうしようかと思ったけど、すーくんの魔物アラームも鳴らなかったし大丈夫だったみたい。
「お魚も結構獲れたから、ギルドに行って買い取ってもらおう。そういえば、街道のドラゴンについてはどうなったんだろう?」
ザルティス湖には、朝になっても漁に来る人はいなかった。
王都に続く、南の街道にいた兵士やカリ~……じゃなかった、カリバーンの兄ちゃん達はいなくなってたから、てっきりもう大丈夫になってると思ってたんだけど。
「俺がドラゴンはもう出ないよーって言った方がいいのかな。でもそんなの信じてもらえないよなー」
街道に出没してたドラゴンと今まで一緒に暮らしてた、なんて言ってもな。でも他に理由も無いし……あ、フロランタのことは秘密にしなきゃだな。
「とりあえず、商業ギルドに行くか!」
__ __
ガコンッ(ギルド会館の扉を開ける音)
「こんちわーっ! 魚獲ってきた!」
……。
…………。
「シ、シュータ……?」
「うん、おっちゃん久しぶり! みてよこれ、ザルティス湖で魚獲ってきたんだけど」
「オマエ、生きてたのか!!」
「え? うん。生きてたけど……」
ざわ……ざわ……
ギルドがなんだかザワザワしている。
「悪食のブラックボーン!? 死んだはずじゃ……」
「ドラゴンの餌になったって聞いたが……」
「俺はドラゴンになったって聞いたぜ」
いやドラゴンにはならないでしょ。エサにもなってないけどさ。
「え、なんで俺死んだことになってるの?」
「……少し前に、カリバーンとかいう冒険者がここに来たんだ」
俺が母ドラゴンに連れ去られたあと、カリバーンは魔物討伐隊の兵士たちと王都に戻って、そのことを報告したらしい。
俺は平気だーって言った気がしたんだけどな。まあ連れ去られながら言っても説得力なかったかもしれないけど。
上層区や中層区の人たちは俺の事なんか知らないから、「スラムの子供がドラゴンに襲われて行方不明? 怖いわねえ……うちの子はしばらく家でおとなしくしてもらわないと」みたいな感じの反応だったそう。
「でもな、ここじゃお前を知ってる奴は沢山いるんだ」
「おっちゃん……」
「なんたってあの、クレイジーパンプキン大食い大会のチャンピオンだからな!」
「アレを完食して死ななかったんだ、俺は生きてるって信じてたぜ!」
あ、俺ってそういう評価なんだ。
「最初は、あのシュータだ、そのうち戻って来るだろ、って思ってはいたんだが……」
「ひと月以上経っても帰ってこない。しかも今は冬。みんな、これはもう……ってな」
「少し前までお通夜状態だったんだぜ。まあ今はもうみんな忘れてそれなりに元気にやってるが」
「もうちょっと覚えててよ」
スラムの住民が事件に巻き込まれて行方不明、なんてことは下層区なら良くあることだ、しかも子供ならなおさら……とおっちゃんは目を伏せた。
「でも、まっさか今になって生きて帰って来るとはなあ!」
「ドラゴンぶっ倒してきたのか?」
「美味かったか?」
「倒してないし食ってないよ!」
俺はギルドにいた人たちに、街道に出没したドラゴンの子供を見つけて世話をしていた、連れ去られたのは子ドラゴンを助けたお礼の為で、ドラゴンの住処でごはんを貰いながらしばらく過ごしていたが、真冬になる前に帰ってきた、と説明した。
「またずいぶんと不思議な体験をしてきたもんだ」
「メシってなに食ってたんだ?」
「焼いた魚とか、肉と野菜のスープとか。めっちゃ美味かったよ!」
「へードラゴンって料理上手いんだなあ」
「あ、いや、食材を獲ってきてもらって、俺が作ったんだ」
危ない危ない、フロランタの事を話さないようにしないと。
「ってことは、もう南の街道は安全ってことか?」
「うん。ドラゴンはもう来ないと思うよ」
実際、俺が連れ去られてからドラゴンの出没は1度もなく、南の街道に常駐していた討伐隊も撤退したが、みんな怖がって、ほとんどの漁師はまだ湖に行くのを止めていたらしい。
「というわけで、はいこれ! 今朝獲った魚だよ! あとこっちは昨日獲って、凍らせといたやつ!」
「おお、大漁じゃねえか! ありがたいぜ」
ここしばらく魚が入っていなかったからか、かなりの高値で買い取ってくれた。
「こうしちゃいられねえ、漁師たちにも街道が安全になったことを伝えに行かねえとな」
「そういえば、ザルティス湖にでっかいヘビの魔物がいたけど、アイツはいいの?」
あれもドラゴン並みにヤバそうだったけど……
「ああ、”ザルティスのヌシ”か。アイツは人間は襲わねえんだ」
あの魔物は、漁師が獲る魚を食べてしまう、大型の魚を好んで捕食しているらしい。漁師達が襲われたことはないそうだ。
「それよりシュータ、お前、教会には行ったのか?」
「教会? いや、帰ってきてすぐここに魚売りに来たから行ってないよ」
「それなら今すぐ顔を見せてこい。今でもお前が戻ってくるのを信じて、毎日祈ってるやつがいる」
「それって、もしかして……」
俺は首に付けたチョーカーに触れる。触れている指が、なんだかちょっと温かくなった気がした。
「俺、教会行ってくるよ!」
足早に、ギルド会館の外へ向かう。
「おう、行ってこい行ってこい! ……シュータ!」
「なに~!?」
「おかえり!!」
「……うん! ただいま!!」
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