第56話 フロランタのお願い
バサッバサッ……
「この辺りで降ろすぞ」
「うん」
少し先にザルティス湖と、さっちゃんに出会った森が見える。あの更に向こう側が、母ドラゴンに出くわした南の街道、そして王都だ。
「よっと」
俺を抱えて飛んでいたフロランタが着陸……着地? して、雷鳴渓谷から始まった夜の旅は終了した。
「すまないが、ここからは自力で頼む」
「ううん、全然大丈夫。ここまで送ってくれてありがとう」
竜人族のような、魔人の血を引く種族については、王都の人間にとっては都市伝説というか、空想上の魔物のような扱いをされているらしい。
いきなりドラゴンの翼と尻尾が生えた巨人が王都に現れたら大騒ぎになってしまうかもしれない。
……キャンディはまあ、喋り方が武士なだけで見た目はその辺の子供と変わらないし。
「フロランタ、色々お世話してくれてありがとう。ごはんも美味かった!」
フロランタの料理が食べられなくなるのは残念だ。本当に。レシピとか聞いとこうかな?
「ボクの方こそ、とても感謝している。シュータは人間族なのに、ボクみたいな竜人族やドラゴンを怖がらないで接してくれた。短い間だが、共に過ごした時間は絶対に忘れない」
「あ、そうだ、最後にひとつ聞いてもいい?」
「ん、なんだ?」
「デビルズフード……あのフロランタが用意してくれてたタマゴのお菓子だけど、あれは」
「断じて違う!!」
「わ、わかったよ、うん、だからその氷の矢は飛ばさないでね」
それにしても、本当にデビルズフードは良く分からないな……。まあ、自分で手に入れられる物じゃないだろうし、あまり深く調べるのはやめておこう。
「アレの作り方は氷結竜の民の掟で教えられないが、ひとつだけ言っておく」
「うん?」
「アレは、シュータ以外の奴には作ったことが無いし、この先も作らない」
「そうなの?」
「そうだ」
そういうと、フロランタは小さくはにかんだ。
「まあ、俺以外の奴が食べたら死ぬかもしれないしね!」
「……そういうことじゃない」
何故か一瞬で不機嫌になった。うーん、女心、わからん。
「フロランタは、これからも雷鳴渓谷で暮らすの?」
「そうだな、あと1年はドラゴンと共に暮らし、修行の日々だ。今よりもっと強くなってみせる」
1年後に再会したら3メートルくらいになってたらどうしよう。
「シュータは、王都に戻ったらどうするんだ?」
「俺は、大きくなったら冒険者になりたいんだ。だから冒険者の学校に入って、色々勉強する。修行もがんばって、俺もフロランタに負けないくらい、強くなってみせるよ」
まずは冒険者学校に入るための試験に受からなくちゃ。進研〇ミとかあるかな? ないか。
「じゃ、じゃあ、シュータはその、一緒に冒険する、相棒というか、使い魔というか……」
「ん、使い魔? 使い魔なら1人いるよ! いや、1匹? でもキャンディはヴァンパイアだし……」
「なに!? もう使い魔がいるのか!? しかもヴァンパイアだと……?」
「え、うん。そうだけど……フロランタ?」
フロランタが何かを言いたそうな顔をしている。なんだろ。ヴァンパイアと竜人族は相性が良くなかったり……?
「シュータ!」
「は、はい!」
「お願いがある!」
「な、なんでしょう」
フロランタがすごい勢いで詰め寄って来る。な、なにをお願いされるんだ?
「ボクの修行が終わって、竜人族として一人前になったら……」
「なったら?」
「ボクをシュータの使い魔にしてくれ!」
「フロランタを、俺の使い魔に?」
「シュータの使い魔になったら、ボクはもっと強くなれる。それに、ボクはシュータと一緒に……冒険がしてみたい」
「フロランタと一緒に、冒険……」
それはなんだか、とても楽しそうだ。
「ダ、ダメか?」
「……一緒に冒険すれば、また君の料理が食べられるかな?」
「もちろんだ! 今よりもっと料理の腕を上げて、美味いメシを食わせてやる!」
「そっか! それは、最高に楽しみだね!」
その時には、大きくなったさっちゃんの背に乗って、色々な場所を冒険してみたい。そんで、色々な国の料理を食べてみたい。なんてね。
「それじゃあ二人とも一人前になったら、一緒に冒険しようか。それで、その時にフロランタの気持ちが変わってなかったらさ、俺の使い魔になってよ!」
「本当だなシュータ! 約束だぞ!」
「うん、約束だ!」
こうして俺は、フロランタと将来の約束を……って、なんか結婚みたいだな。えーと、一緒に冒険する約束をした。
「指切り? シュータの指を切れば良いのか?」
「良くないよ!」
ヤ〇ザ漫画の契りみたいになるところだった。
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