第53話 氷結竜の民と不思議なスイーツ



「氷結竜の民……?」



「そうだ。得意なのは雷じゃなくて氷魔法だ」



 フロランタ達の集落、「氷結竜の民」として暮らす竜人族は、サンダー・ドラゴンではなく、ブリザード・ドラゴンの系譜を継いでいるらしい。



「どうしてサンダー・ドラゴンのとこで修行してるの?」



「ウチから近かった」



 アルバイトかな?



「サンダー・ドラゴンとブリザード・ドラゴン、仲良し」



 別の系統であっても、相性が良ければ敵対とかはしないらしい。

それに対してヴァンパイアは……いや、グール・ヴァンパイアは同族襲うから例外か。他のタイプのヴァンパイアは仲良くしてるのかもしれない。



「フレイム・ドラゴンと火炎竜の民、ボクたちと仲良くない」



 なるほど。たしかに氷と炎は相性悪そうだ。



「ギャオオオ」



「ギャウ」



「ん? ふむふむ、なるほど」



 フロランタが母ドラゴン達となにか話している。あのギャオとかギャウとかでどうして分かるんだろう。



「シュータ、お願いがある」




「ん、なに?」



「その子が他のドラゴン達に慣れるまで、しばらくここで一緒に暮らしてくれないか?」



「俺がここで?」



 この落雷バリバリの谷底で? いやーさすがにちょっと……



「食料なら心配ない。ボクが用意する」



「じゃあ良いよ!」



「人間族が、ドラゴンと暮らすのは厳しいかもしれない。しかし……え、いいのか!?」



「メシが食えるなら全然おっけーだな!」



「オマエ、単純だな。でもそういうヤツは好きだぞ!」



 というわけで、しばらく雷鳴渓谷で過ごすことになった。



「それじゃあさっちゃん、しばらくよろしくな」



「ぎゃお!」



 __ __



「サンダースラッグ!!」



 ブォン! と、巨大な雷の拳が出現し、正面にいるドラゴンに向かって襲い掛かる。



「ギャウウウ!!」



 で、ドラゴンは何故かその巨大な雷の塊に対して全力で当たりに行く。



 バリバリバリ!!



「ギャッホー!!」



 サンダースラッグをくらった、というか食らったドラゴンは、満足そうな足取りでどこかへ飛び去って行った。



「ギャイ!!」



「えーまた!? ちょ、ちょっと休ませて……」



 また別のドラゴンが俺の前に来て、サンダースラッグ待ちをする。さっきからこれが続いている。

フロランタによると、俺の雷魔法を受けたドラゴンは疲れが取れて元気いっぱいになるともっぱらの噂らしい。

なんだそれ。俺はドラゴンマッサージ屋さんか。ドラゴンマッサージってなんだよ。



 ピロン♪



(サンダースラッグの威力が上がりました)



「強くなっちゃったよ」



「ぎゃ!」



「さっちゃんはサンダーボールね」



 俺のサンダーボールをバクバクと勢いよく食べるさっちゃん。隣では母ドラゴンがさっちゃんを優しく見守っている。



「はー、俺もお腹空いてきちゃったな」



 カバンの中の魚はフロランタが氷魔法でカッチカチにしてくれたので、しばらく大丈夫そうだ。でも逆に今食べられなくなってしまった。



 バサッバサッ



「シュータ、メシだ!」



「待ってました!」



 フロランタが料理の入ったカゴを抱えて降りてくる。飛んでる姿もカッコいいな。



「うわー美味しそう!」



 焼いた肉と野菜が、石で作られた容器にぎっしり詰められている。



「こっちは……ビーフジャーキー?」



「ボクが作った、バックスロックの香草焼きと干し肉だ。美味いぞ」



 あの頭に岩が付いてるでっかい鹿か。魔獣の森でよく狩ってたっけ。



「いただきまーす! もぐもぐ……うん! 美味い! それに香りもすごく良い」



「美味いか! そうかそうか! よし、どんどん食え!」



 竜人族は、雷や炎、氷など、その種固有の必要な成分も摂取するが、基本的には普通に人間と同じような食事をするらしい。

ブリザード・ドラゴンの系譜だから、今日のごはんはかき氷! とかだったらどうしようかと思った。



 ……。



 …………。



「ふう、食べた食べた。ごちそうさま! めっちゃ美味しかった!」



 石の食器を洗ってカゴに戻す。



「……ん? なんだこれ」



 カゴの中に水色の手のひら大の物が入っている。なんだろ、川辺で拾った綺麗な石かな。



「……タマゴ?」



「あ、それは、その……デザートだ」



 チョコエッグ的なやつだったり? 中に小っちゃい動物のフィギュア入ってんのかな。んなわけないか。



「デザートまで出してくれるなんて。いやー悪いねなんか!」



「いや、だいじょうぶだ。……タダだし」



「これどうやって食べるの?」



「外のカラを割って、中身を食べる、らしい」



 カラを割って、剥いて……いやこれ普通にゆでたまごじゃん。デザート?



「なんかの魔物のタマゴ?」



「いや、そういうわけじゃないが……まあ、タマゴと言われればそうかもしれん」



 なんか歯切れ悪いな……魔物じゃない、タマゴっぽい……タダで……?



「ねえ、これって」



「違う!!」



「いやまだなんも言ってないけど」



 日本にもタマゴっぽい見た目のお菓子があった気がする。テレビのお土産特集みたいなやつで見た。これも多分そんな感じだろう。うん。



「なんかひんやりしてる。ふしぎな感じだ……いただきまーす」



 むにっ



「もぐ……こ、これは……!」



「ど、どうした?」



「甘くてちょっとしょっぱくて、めっちゃ美味しい!!」



 少し塩気のあるモチモチした外側と、ひんやり甘いクリーミーな中身……まるで雪見だ〇ふくを食べているかのようだ。塩バニラって感じの新食感スイーツ。



「や、やばい……今まで食べたスイーツの中で1番美味しいかもしれない」



「そ、そんな褒めるな」



「や、だってこれ、めっちゃ美味しいよ! なに、フロランタが作ったの? 天才じゃん!」



「それは、その、ボクが作ったというか、まあ、うん」



「おかわり!」



「だ、だめだ! 1日1個限定だ!」



「そっかー。明日のメシが待ち遠しいな」



 ここでの生活に楽しみが増えたな。



 (シュータのマジックパワーとマジックガードが大幅に増加しました)



 ……ん?

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