第51話 雷鳴渓谷




「うわぁー! めっちゃ速い! 瞬足シューズより、ずっとはやい!!」



 サンダー・ドラゴンの子供、つまりさっちゃんごと、母ドラゴン(仮)に攫われて強制的に空の旅。

がっしり掴まれてまったく逃げられそうにないので、俺は脱出するのを諦めて今の状況を楽しんでいた。

いま離されても強制ヒモ無しバンジーになっちゃうし。



「でも、めっちゃ寒い……!!」



 こういう時こそ辛い物でも食べて身体を温めたいぞ……!



「さっちゃんは全然平気そうだね」



「ぎゃお!」



 まだ幼くてもドラゴンだ。頑丈な皮膚とウロコをしている。



 ごそごそ。



「ぎゃい」



「ん? さっちゃんそれ……灼熱キノコじゃん!」



 さっちゃんがカバンの中から取り出したのは、前に魔獣の森で採った灼熱キノコだった。

真っ赤な見た目通りの猛毒で、商業ギルドでも買取ってもらえなかったのだが、食べると辛さで身体が温まる。



「なんか、だいぶ干からびてるね」



 結構前に採ったのがカバンの奥底に残ってたのだろうか。干しキノコになってる。

カバンに入ってる魚も早めに取り出さないと、中が臭くなっちゃうな……すぐに帰れるかわからないし、傷む前に食べちゃおうかな。



「もぐもぐ……うん、辛いけど身体が温まってきた」



 てか風がすごすぎてキノコ1個食べるのにも一苦労だ。台風に逆らってチャリ漕いでるみたい。



「どこに向かってんのか知らないけど、早く着いてくれ~!」



 __ __



 バサッバサッ……



「や、やっと着いた……」



 しばらく濃い霧の中を飛んでいたドラゴンが、とある場所に降り立った。



「ここは、山……っていうか、崖の下?」



 左右が高い岩の壁で覆われている、谷底のような場所だ。



 ゴロゴロ……ピシャーン!! バリバリバリ!



「うわ! ビックリした~」



 近くに雷が落ちる。ずーっとゴロゴロいってて、またすぐにでも落雷しそうだ。



「すーくん、ここって……」



 (現在地確認。ここは雷鳴渓谷です)



「ここが、雷鳴渓谷……」



 サンダー・ドラゴンの生息地だ。お家に帰ってきたのかな?



 ドシン、ドシン……



「ギャウ!」



「ギャオオオオ!」



「うわっ! いっぱいいる!」



 俺たちの周りに数匹のドラゴンが集まってきた。どうやらここが本当にサンダー・ドラゴンの住処で間違いないようだ。



「ギャウウ……」



「あ、ども……」



 周りにいるドラゴンの中でも、ひときわ大きな個体が近づいてくる。てかマジででっか! 母ドラゴン(仮)よりでかい。



「ギャオオオ!」



「ギャウウウ?」



 ドラゴン同士で何かを話してるっぽい。何言ってるか全然分かんないけど。



「ぎゃ?」



「さっちゃん、ほら、多分に家に着いたから。カバンから出ておいでー」



「ぎゃ!」



 すぽっ



「なんでだよ」



 さっちゃんは俺のカバンから頭を出して周りを見渡すと、またカバンの中に隠れてしまった。



「うーん、大人のドラゴンがいっぱいで緊張してるのかな」



 ゴロゴロ……ピシャーン!! バリバリバリ!



「うわっまた落ちた!」



 さすが雷鳴渓谷。ここのドラゴンはあの雷を食べているのかもしれない。



 (サンダー・ドラゴンの成体は、雷以外にも魔物などを捕食します。幼体は主に雷のみを摂取します)



「そういや前にもそんなこと言ってたっけ」



 (…………)



「ごめんてすーくん。ちゃんと聞くから」



 じゃあ雷はミルクみたいなものなのだろうか。



「……もしかして、人間とかも食べちゃったり?」



 (可能性は否定できません)



「ギャルルルル……」



「ギャウ……」



「…………」



 俺、食料的な意味で連れてこられたワケじゃないよね……?



 タタタッ。



「オマエ、人間族か?」



「お、俺は食べても美味くないぞ! ……ん?」



 振り向くと、ドラゴンの中に一人の女の子が立っていた。なんでこんなところに……って、でっか! 身長がバスケットゴールくらいあるぞ。



「あっその手と足……ウロコ? それに、翼としっぽも」



 女の子の手足は、周りのドラゴンと同じようなウロコに覆われ、大きく鋭い爪をしている。しかも、背後には大きな翼としっぽまで生えている。



「おいオマエ、聞いてるか? オマエ人間族か?」



「そ、そうだけど……君は?」



「ボクは、竜人族。竜人族の、フロランタ」



 ……竜人族?

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