第50話 ドラゴン(大)、襲来
たったったっ……
冬の寒さが近づく、秋季の終わり。
ザルティス湖から王都へ向かって早馬のごとく街道を駆け抜ける、半袖短パンの少年がいた。元気いっぱいである。
「いやさっむ!!」
寒かった。
「スピード上げれば上げるほど風が強くなって寒いんだけど……!」
「ぎゃ?」
次元収納カバンの中からさっちゃんが顔を覗かせている。
「その中どうなってるん?」
「ぎゃん」
うーむ、わからん。
「けっこう走ったし、王都まであと半分くらいかなー……ん?」
道の先の方で何やらワイワイ聞こえる。ワイワイっていうか、ガッシャーン! とかギャオオオ!! とか。
「なんだろ、お祭りかな」
海外にはトマトや卵を投げ合うお祭りがあるらしい。異世界にもあるのかな。もったいないなー。
「おっあそこか、一体なにやって……うわっ!」
「ギャオオオオオオ!!」
バリバリバリバリ!!!!
「カリバーンさん!」
「大丈夫だ! お前らは下がってろ!」
街道の先で、強大なドラゴンと王都の兵が戦っていた。
ピロンッ♪
(鑑定完了。サンダー・ドラゴンの成体。討伐には冒険者ランクS+が妥当です)
「ランクS+……」
めちゃめちゃ強いってことだけは分かった。あのでっかいツメで攻撃されたら真っ二つになっちゃうな。
「それにしてもでっかいなー。さっちゃんの100倍くらいありそう」
ザルティス湖にいた巨大ヘビにも負けないくらい大きい。
「あっ、ていうかあのドラゴン、さっちゃんの親とかだったりする?」
「ぎゃお?」
ガジガジ。
「ちょっなんでいま手噛んだん?」
お腹空いてるのかな。
「はい、サンダーボール」
「ぎゃお!」
道の先にはでっかいドラゴンと戦闘中の兵士たち。さすがに近寄りたくないので、少し離れた岩の陰でちょっと休憩。
「あの戦ってる人すごいな。ドラゴンと互角じゃん」
王都の兵たちの中に、1人だけ服装が違う男の人がいて、その人がドラゴンと一騎打ちのような状態になっている。
「おい! そこの少年!」
「ん?」
ドラゴンと戦っている男がこっちに気付いた。
「何やってるんだ、早く逃げろ!」
「いやそんな大声で叫んだら……」
「ギャオオオオオオ!!」
あーほらドラゴンに見つかった。
「ビリビリビリビリ……!!」
あ、なんかビームみたいなの撃つ準備してるし。
「あー、ヤバいかも……」
「少年にげろおおおおおお!!」
「ギャオオオオオオ!!!!」
バーーーーーン!!
ドラゴンの口からこちらに向かって電撃が放たれる。いやもう範囲が広すぎて避けるとか無理じゃん。
……。
…………。
「クソッ!! 守れなかった……」
「いやーすげー電撃だったなー!」
「ぎゃお!」
後ろを振り向くと、周りの道が電撃によってかなり先までえぐれている。
「な……!? し、少年、なんで生きて……」
「ギャオオオオ!?」
男の人もドラゴンも戦いを止めてびっくりしている。俺もびっくりだよ。
「雷耐性すげー! 正直終わったかと思ったわ」
「ぎゃお!」
「さっちゃんはなんか元気いっぱいだね。あ、怪我も治ってんじゃん!」
今の雷撃で逆に回復したっぽい。
「な、なんなんだお前……って、そのドラゴン!」
「この子はさっちゃんだよ。森で拾ったんだ」
「ドラゴンなんて拾っちゃダメだろ! はやく返してきなさい!」
犬拾ってきたときの母ちゃんかよ。
「ギャオオオオ!!」
「あ、すいませーん! サンダー・ドラゴンさん! この子、おたくの娘さんだったりしない?」
「ぎゃお?」
「お、おい少年! そんなこと言ったって通じるわけ……」
うーん、息子だったかな。でもさっちゃんって名前にしちゃったしな。
「ギャオ……」
「ぎゃ?」
サンダー・ドラゴンが巨大な顔を近づけて、さっちゃんを見つめる。攻撃とかはしてこないな。親じゃないにしても、仲間だと思っているのかな……?
「怪我してたんだけど、もう治ったみたい。あとこうやって、ごはんをあげてたよ」
実際にサンダーボールを出すと、さっちゃんが喜んで食べ始める。
「ドラゴンってサンダーボール食うのか……」
「いやーびっくりだよね。てか兄ちゃんだれ?」
「俺はカリバーン。Sランク冒険者だ。巨大な魔物……特にドラゴン討伐を生業にしている」
「カリ~パン?」
「カリバーンだ!」
「ぎゃお」
あ、さっちゃんが俺のカバンの中に潜っていく。恥ずかしがり屋か。
「いやそっちじゃなくて、お母さんあっちでしょ。いやお父さんか?」
久々の再会で緊張してるのかもしれない。いや親かどうかも分からないんだけど。
「……このサンダー・ドラゴンはメスだ」
「じゃあお母さんだ。多分」
「子供を探して街道に出没してたのか……? 討伐する前で良かったぜ」
「兄ちゃんちょっと押されてたけどね」
「うるせえ」
この辺りに出没していたのは、やっぱりさっちゃんを探していたのだろうか。
グイッ
「ん?」
何かに服の後ろを持ち上げられた。
「お、おい、何やってんだ」
「えっ? うわっ!」
バッサバッサ……
「うわー! なに!? 高い!!」
「ぎゃお!」
どうやらカバンに入ったままのさっちゃんごと、ドラゴンに掴まれて飛び立たれたらしい。
「しょうねえええん!!」
「カリ~パンの兄ちゃーん!」
「カリバーンだ! なんで余裕こいてんだよ!」
「多分さっちゃんいるから大丈夫ー! 俺に向かって攻撃しないでよー!」
シュータ・ブラックボーン11才。異世界でドラゴンに誘拐されました。
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