第49話 森を抜けたらザルティス湖



「やったー抜けたー!」



「ぎゃおー!」



 遂に森を抜けた俺たちの前に広がるのは、見渡す限りの海……じゃなくて湖。



「ここがザルティス湖かー!」



 王都から南の街道を通ってしばらく進んだ先にある湖、ザルティス湖。

市場に出回る魚介類の大部分が、このザルティス湖で獲れたものらしい。



「ぺろ……うん、しょっぱくない!」



 やっぱ海じゃなくて湖だった。



 パシャッ



「あ、魚! 跳ねた!」



 パシャッパシャッ



「うわーいっぱいいる! 食べ放題だ!」



 パシャッ……バグッ! ザッバーン!!



「ぎゃっ?」



「……」



 水面を跳ねていた魚の群れの後ろからめちゃくちゃでかい魚が現れて、魚の群れを飲みこんでいった。



「よし、まずはアイツを仕留めよう」



 あんなのがいたら湖の魚が居なくなっちゃうじゃん。



「でもどうしよ。釣り竿とか持ってないや」



 せめて武器屋で矢でも買っとけば、魚を突いて獲れたかも。



「さっちゃんさー、水の中潜って魚獲って来れたりしない……よねえ」



 ちょっとネッシーっぽい見た目してるから意外と泳げたり? でもまだ子供だしなあ。



「ぎゃお」



「おっ?」



 さっちゃんが湖に向かって歩き出す。まさか、本当にいけちゃうか?



「よーしさっちゃん! なんか美味そうなやつ頼む!」



「ぎゃおー!!」



 ビリビリビリ!



「えっ」



 さっちゃんは湖に向かって口から電撃を発射した。



「ちょっと、なにやってんの君……って」



 プカ……プカ……



「魚獲れてる!?」



 さっちゃんが放った電撃で感電した近くの魚が気絶して水面に浮かんできた。マジかよすげえ。電気ショック漁法?



「ぎゃ!」



「やるじゃんさっちゃん!」



 浮かんでいる魚を回収する。この辺まだちょっとビリっとするな。俺は耐性あるから平気だけど。



「俺もサンダーボール撃って魚獲っちゃおっかなー。サンダースラッグ……は流石に威力がやばいか」



 ちなみにさっきの巨大な魚は浮かんでこなかった。さすがに頑丈らしい。



 __ __



「いただきまーす! ぱくっ……あちっ、はふ、はふ…ん! うまーい!!」



 獲れたての魚を塩焼きにして食べる。今回はサンダーボール焼きじゃなくてちゃんと火をおこした。

ファットモンキーのときは一応味覚補整を発動していたけど、お魚は確実に、いや多分……おそらく普通に美味しそうだったのでそのまましっかりと味わう。



「ん、ちょっと苦いとこがある……」



 魚を捌いたことなんてないから、持ってきた塩振って丸焼きにしたけど、もしかしてこの苦いとこは焼く前に取るもんだったのかな?

まあいいか。苦いのはガードが上がるからな。大切な栄養だ。



「がうがう!」



 さっちゃんは相変わらず俺が出したサンダーボールを食べている。雷って栄養あるのかな。



「よし、残りはカバンに入れてっと」



 革袋に入れた魚をカバンに仕舞う。腐らせる前に王都に帰らないと。

今は秋季の終わり。気温もだいぶ寒くなってきたから、直ぐには痛まないと思う。



「氷系の魔法が使えれば凍らせて持ち帰れるんだけどなー」



 俺が使ってる次元収納カバンは、ただ物がたくさん入る機能しかないけど、中には保温や保冷スキルが付いたものも売っているらしい。

他の国や、離れた地域の食材を運ぶ際には、冷凍するか、そういった保存機能の付いている容器が必須なのだ。



「高機能の収納カバンは高いけど、そのうち手に入れたいな」



 もしこの世界に冷蔵庫とかあれば俺の雷魔法で使えるんじゃ? なんちゃって。



「よーし、たくさん獲れた! あとは王都に帰るだけ……なんだけど」



「ぎゃお?」



 さっちゃんどうしよっかなー。さすがに王都の中には連れてけないし。



「雷鳴渓谷だっけ。どこにあるんだろう」



 こっそりさっちゃんをカバンに隠して、王都で魚を売っぱらって、雷鳴渓谷に向かう……よし、完ぺきな作戦じゃないかな。



「さっちゃーん、そろそろ出発するよー」



「ぎゃ!」



「ん? 湖になんかいるの?」



 ざっばあああん!



「あ、さっきのでっかい魚……」



 次来たときは、アイツを獲って食ってやるからな。



 ザッバアアアアアアアアアアアン!!!!



「ヴァアアアアアアア!!!!」



 ……。



 …………。



 でっかい魚の後ろからめちゃくちゃでかいヘビみたいな魔物が現れて、魚を丸飲みして水中に消えていった。



「……さてと、帰ろっか」



「ぎゃ」



 あれは……今はちょっといいかな。

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