第40話 炊き出しグルメと将来の夢



「こんにちはー! メシを食いに来ました!」



「シュータくんようこそ~」



 今日は教会の人たちが、スラム街で炊き出しをやってくれることになった。



「てかシュータくんは食べるのに困ってなさそうだけど」



「タダでメシが食えるならどこへだって行くよ!」



 前世では3駅離れた公園の炊き出しとかに行って弁当を貰って食っていた。アジフライとちくわの揚げたやつ、めっちゃうまかったなー……。



「それに、次元収納カバン買うのにお金も結構使っちゃったし、食える時に食っとかないと」



「なんか冬眠前の動物みたいだね」



「でも俺は冬もメシ食いたい」



 冬眠とか3ヶ月くらいなんも食べないで寝てるんでしょ?俺だったら絶対腹減って寝れないよ。

3日くらい水しか飲めなかったとき、腹減りすぎて全然寝れなかった。



「ほら、シュータのは大盛りにしてあげたわ」



「ありがとー! って、シルクじゃん。おっはー」



「おっはーシュータ。おっはーってなに?」



 シルクが炊き出しに参加しているとは思わなかった。

日除けの香水を使って外に出られるようになってから、だいぶ活発的になってきているようだ。



「うわ~美味しそう! なんて料理?」



「ブラッドスープよ」



 ……。



「え、血のスープ?」



「トマトよ!」



「あまねく命よ、我らの血肉となり感謝します……という感じの意味がある、教会の伝統的なスープなんだよ~」



「へー、もぐもぐ……ん! めっちゃ美味い!」



 ハヤシライスをもうちょっとスープ寄りにした感じ。パンを浸して食べたい。

ちなみに今はすーくんに言って、味覚補整のスキルが発動しないようにしている。

せっかくの美味しい料理だし、ちゃんとした味を楽しみたかった。



「良かった……」



「シュータくん、それね、シルクちゃんが作ったんだよ~」



「えっちょっリネン姉さん! 秘密にしといてって言ったのに……!」



「これシルクが作ったの? やるじゃん!」



「ブラッドスープは教会の人ならみんな作れるわよ……」



「でも俺は作れないし初めて食べた! めっちゃ美味いよこれ」



「ふふっ。シュータはなんでも美味しいって言うじゃない」



 こんなに美味いメシが食える俺は、特別な存在なのかもしれない……



「ヴェル〇ースオリジナルだね」



「いやブラッドスープだけど」



 __ __



 炊き出しが終わって、みんなで一息つく。



「いや~片づけ手伝ってくれてありがとねシュータくん」



「これくらい朝メシ前だよ!」



「さっき昼ごはん食べたじゃない」



「そうだった! じゃあ夜メシ前」



 タダ飯は最高だけど、働かザル者食うべからずだからね。



「俺はサルじゃないからな」



「知ってるわよ」



「バナナは大好き」



 バナナみたいな味の鳥もすき。



「……シュータは、このスラム街に住んでいるのよね」



「うん。あっちのガレキ山の下に住んでるよ。ねこのすけも一緒だけど」



「シルクは物心つく前に教会に拾われて、ずっと引きこもって暮らしてたから、こんな所で生活してる人がたくさんいるなんて知らなかった」



「まあ、俺はここの生活結構気に入ってるよ。下層区の街の人は、スラム出身でも変な目で見ないし」



 教会はなんか宗教上、女の子しか保護できない決まりがあるらしい。街の外れに孤児院もあるけど、俺には色々と窮屈な生活になりそうだ。



「シュータは普通の家とかで暮らしてみたいとか思わないの?」



「んー、そりゃあちゃんとした屋根のあるとこで、ふかふかのベッドで寝れたら最高だけど……俺一人じゃ部屋は借りられないからなあ」



 この国で普通の人が部屋を借りたり、家を買ったりするには、「ギルドカード」が必要だ。

例外もあって、教会に所属している人たちと、元々身分が証明されている貴族、あとは王国直属の部隊の人たちとか。



 その他のこの国の仕事は、様々な「ギルド」の集まりによって出来ている。

商品の売買や飲食店、市場等が所属している「商業ギルド」、トレジャーハンターや魔物狩り、素材採集者等が所属している「冒険者ギルド」など。

他にも職人ギルドや、興行ギルド、農業ギルドなどがある。



「シュータは冒険者になりたいのよね?」



「うん。そのためには冒険者の学校に行かなくちゃならないんだけど」



 今の俺みたいに、商業ギルドに素材や討伐した魔物を買い取ってもらうことは誰でもできる。

しかし、それでは冒険者ギルドには入れないし、ギルドカードも貰えない。



「冒険者学校に入れるのは12才からだし、入学試験もあるらしいから、それまでは学校に行くための修行だと思って頑張るよ」



「そっか。シュータ、がんばって学校に合格するのよ」



「母ちゃんじゃん」



「誰がお母さんよ!」



「シルクはなにかやりたいこととか無いの?」



「シルクはシスターだし、能力鑑定のお仕事もあるから」



「シルクは教会のお仕事もやって、料理も上手ですごいね」



「そんなことないわよ。……料理人とか、ちょっと興味ある、けど」



「ん、なに?」



「なんでもないわ!」



「シルクがお店始めたら毎日食べに行くよ」



「聞こえてるじゃないのよ!」



 うん、今日も平和な1日だ。

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