第39話 サプライズ・プレゼント



「ほれ、これが日除けの香水じゃ。一振りすれば1日は日光の影響を受けなくなるぞ」



「ありがとキャンディ!」



「なくなったらまた作ってやるのじゃ。いつでも来ると良い」



「うん!」



「すまんの……本来ならば、使い魔の拙者はお主の元にいなければいけないと思うんじゃが」



「気にしなくていいって」



 キャンディはこの「死霊の館」の主だ。俺の使い魔になったけど、眷属の子供たちが成長して館を守れるようになるまで、しばらくはここを離れることができない。



「それでもお主とは契約で繋がっておるからの。シュータに何かあったら飛んでいくのじゃ」



「コウモリになって?」



「そうじゃ」



 あはは! と二人で笑い合って、俺は死霊の館を後にした。



「じゃーな庶民! もう来んなよ!」



「庶民! 今度来たら肝試しやるからなァ!」



「次は血を飲ませてね」



「バイバーイ!」



 あの子たちがヴァンパイアとして成長したら普通に怖いんだけど。



 ……。



 …………。



「ところで同胞よ」



「キュウ」



「お主にも色々聞きたいことが……いや、まあ、今はよいか」



「キュッキュウ」



 __ __



「リネンさんこんにちはー」



「あらシュータくんじゃない。今日はどうしたの~」



「シルクいる?」



「いるいる。一生地下にいる」



 一生教会で地下労働はさすがにしんどすぎるでしょ。



「今日はどうしたの~? 能力鑑定……ってわけじゃないよね」



「シルクに渡したいものがあってさ」



「それってもしかして~……結婚指輪?」



「んなわけないじゃん」



 何言ってんだこの人。



「持ってきたのはこれ」



「ん~? なにその瓶……って、え~!? それってもしかして……」



 シルクにとっては指輪より良い物かも?



 コンコン。



「なに~リネン姉さん?」



「シールクちゃん! あーそーぼー!」



「えっシュータ!? ちょっと待っ」



 バァン!



「こら勝手に入ってくんな! デリカシー!」



「ゴメンゴメン。 あ、ハッピーバースデー!! はいこれプレゼント」



「えっ、は? 今日全然シルクの誕生日じゃないんだけど、プレゼントって……」



「日除けの香水だよ」



 ……。



 …………。



「嘘……」



「本物だよ。多分」



「ヴァンパイアの涙、採ってきたの? ヴァンパイアを倒して?」



「えーっとね、ちょっと違くて、そのヴァンパイア本人に作ってもらったというか……とにかく騙されたと思って使ってみてよ」



「うん……」



 シルクが左手首に香水を一振りした瞬間、彼女がベールのようなものに包まれた気がした。



「わっ! ……あ、良い香り」



「くんくん。うーん、よくわかんないや」



「ちょ、ちょっと! 匂い嗅がないでよ!」



「ごめんごめん。それより外に出てみようよ」



「う、うん……」



 恐る恐るといった感じで、シルクと一緒に教会の外に向かう。



「今日も良い天気だ」



 今日は夏季の78日目。まだまだ暑い日が続くけど、日本の夏よりは全然過ごしやすい。

前世で住んでたアパート、母ちゃんが電気代払い忘れて止められちゃってクーラー使えなくて地獄だったな……昼間は図書館とかで時間潰してた。

この世界は90日ごとに季節が変わるから、もう少しで秋季に入る。焼き芋とか食べたいな。



「で、シルクは出てこないの?」



「でも……」



 まあ、そりゃ怖いか。俺だって日光に当たっただけで肌がヤケドしちゃうなんて言われたらもうカーテン閉め切った部屋に引きこもっちゃうかも。



「大丈夫だよ。シルクだって分かってるんでしょ? 今シルクに日光遮断の効果が付いてること」



 俺はすーくんに教えてもらって、シルクは自分の鑑定スキルで確認した。確かに日除けの効果が発動している。



「……よし、行くわよ」



 そして、勇気を出して、シルクは一歩外へ。



「んっ! 眩しい、けど、目は痛くない……身体も、なんともない……」



「眩しいよねぇ、太陽」



「……うん。本当に」



「にゃあ」



「あっねこのすけ! シルク、ねこのすけ追っかけよう!」



「えっちょっとシュータ! もう……お礼くらい言わせなさいよ」



「シルクー何か言ったー?」



「香水ありがとー!!」



「どういたしましてー!!」



 この日はシルクと一緒に日が暮れるまで、街中を走り回った。



「はあ、はあ……あーもう、無理……しんどい……部屋帰りたい……」



「体力無いなあもう」



 走り回ったのは最初の3分くらいだった。

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