第38話 デビルズフード
……。
…………。
「すや……すや……Zzz」
ドガッ!
「いでっ」
な、なんだ? 魔物か?
「ぐがー……Zzz」
魔物だった。寝相悪いなもう。
「そっか、昨日泊まったんだっけ」
今いるのはアンデッド系ダンジョン「死霊の館」の2階にある、子供たちの大部屋。
館に泊まっていくことになり、キャンディの眷属になったヴァンパイアキッズたちと一緒に遊んでいるうちに寝落ちしたらしい。
「こんなふかふかベッドで寝たの初めてだ」
いつもはスラム街のガレキ山の中に布切れを敷いて寝てるもんな。
あれ、もしかしてヴァンパイアより俺の生活の方が過酷じゃん……?
一緒に遊んでいたキッズたちはまだみんな爆睡している。てかこの部屋、普通に外の日差しガンガンに入ってきてるけど大丈夫なのか?
ガチャッ
「おうシュータ、起きたかの」
「キャンディおはよう」
「ぐっもーにんなのじゃ」
ヴァンパイアがグッドモーニングはおかしいけどな。逆昼夜逆転じゃん。逆昼夜逆転ってなんだ?
「この部屋、めっちゃ日が入って来るんだけど大丈夫なん?」
「ああ、こやつらは元々人間だし、拙者の眷属になったせいで、普通のヴァンパイアと違って日光に耐性があるからの」
昼間も元気に外で遊んでおる。とキャンディは笑って言った。
純血種より、人間から眷属になったヴァンパイアのほうが日の光に強いらしい。
キャンディはライトニング・ヴァンパイアという、光と雷を司るヴァンパイアの上位種であると同時に、純血種でもある。
弱体化すると多少は日光に弱くなるので、ヴァンパイアの本能も相まって地下の部屋で暮らしている。
「朝飯作ったんじゃが、お主食うか?」
「……血のジュースとかじゃないよね?」
「普通のサンドイッチじゃよ」
「食う!!」
__ __
「ごちそうさまでした!」
「お粗末様なのじゃ」
「全然粗末じゃなかったよ」
「はっはっは。そりゃ良かったわい」
ヴァンパイアは人間と違って、数週間に1度食事をすればいいらしい。
俺ならヴァンパイアになっても毎日食べたいけどなー。
200年も生きてると食事もめんどくさくなってくるんかな。
「あっそうだ。キャンディに聞きたいことがあったんだ」
「ん、なんじゃ? 拙者の莫大な知識でなんでも答えてやろうぞ」
俺はカバンに入れていたクランボの実……正式名、デビルズフードの試作品001を取り出した。
「これ知ってる? 試作品001って言うらしいんだけど」
「……お主、これをどこで手に入れた?」
「え、きゅーたろうがたまにくれるんだけど……」
「まさか食ったりはしておらんよな?」
「まあまあ食ってるけど……」
「……身体はなんともないのか?」
「うん」
キャンディがなんか戸惑ってる。これ食っちゃダメなやつだったか……?
「シュータは、この木の実について、どこまで知っておるんじゃ」
「ん、えーと、デビルズフードってやつの1つで、食べると体力が回復したりパワーが上がったりする……激辛の木の実?」
ほとんどすーくんに鑑定してもらった情報だけど。
「なるほどの。ちなみにそれ、普通の人間が食ったらほぼ確実に死ぬんじゃけど、知っておったか?」
「いや、知らないけど……え、は!? 死ぬの!?」
なんてもの渡してんだきゅーたろう!
「いやしかし、そうか……それでお主の血は……」
「どうしよう、俺今まで結構食ってるんだけど。そのうち死ぬんかな」
「いや、最初に食って大丈夫ならもう平気じゃろう」
良かったー! なんか毒が溜まっていくタイプだったらヤバかった……
前世の小学校で、汚染された魚を食べ続けたら病気になった事件とか習ったなーそういえば。
「よし、せっかくじゃ。デビルズフードについて教えてやろう」
そういうとキャンディは、自分の部屋から1冊の本を持ってきた。
「デビルズフードというのはな、太古の昔に存在した、”魔人”という種族が作りだした、非常に魔素の濃い、悪魔の食物じゃ」
魔人は人間に見た目が似ている種族だが、魔物と同じく食材に含まれる魔素を栄養としている。
人間にとっては魔素は毒なので、採取した食物は魔素抜きをしてから食べるなり市場に卸すなりしているらしい。
俺全然気にしないで食ってたわ……毒耐性と魔素吸収スキル、マジで感謝。
「これがデビルズフード。全部で5種類じゃ」
キャンディが本を開くと、そこには野菜、フルーツ、卵、魚の絵が描いてあった。俺が食べた木の実も載っている。
「それぞれ、試作品001から005と名付けられたこれらの食料は、当時、人間と戦っていた魔人たちを強くするために開発されたのじゃ」
デビルズフードには、魔素を非常に多く溜め込む性質があり、これを食べた魔人は能力が急上昇し、人間たちを圧倒したという。
しかし、あまりにも濃度の高い魔素を取り込んだ多くの魔人は、身体と精神が耐え切れず、しばらくすると発狂して、敵味方見境なく攻撃するようになり、やがて死んでしまう。
「元々数が少なかった魔人は、デビルズフードによってほとんど死んでしまったらしい。戦っていた人間たちを巻き込んでな」
それから生き残った魔人たちはデビルズフードを封印し、細々と命を繋いでいった。
「ちなみにヴァンパイアも魔人の系譜じゃ。他にも狼人族や竜人族なんかも魔人の血を引いておる」
今は人間族以外はすべて魔物と言われておるがの、とキャンディは言う。
彼らはそれぞれ適応したダンジョンの奥地などに住んでいるので、人前には滅多に出てこないらしい。
「それで、そんなやばいデビルズフードをなんできゅーたろうが持ってるのさ」
「それは知らん」
「……俺が食っても平気な理由は?」
「それも知らん」
「じつは魔人じゃなくて人間が食べても案外平気だったり」
「その本にデビルズフードを食った人間の絵もあるぞ」
キャンディがページをめくると、魔人以上に化け物じみた姿になった人間が、味方を襲っている絵が描いてあった。
「……」
「なんでお主は平気なんじゃろうな?」
そんなん俺が知りたいよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます